++SS

▽2022/04/03(Sun)
/百(アイナナ)


 ひたひた、という足音がして微睡んでいた意識がどことなく覚醒に移り変わった。暗い寝室の中を忍び足で歩く、着古したスウェットで歩くその人が見覚えのある人で安心した。もし不審者だったとしたら息を止めてここに人なんて居ない、というフリをしていただろう。

「……起こしちゃった?」
「ちょっとだけね」

 暖めておいた布団の中に彼を手招きする。あったかーい、と彼が私にぴたりとくっついた。そして足の間に足を滑らせる。それがあまりにも冷たくて、ぅあ〜、という情けない声が出た。そのまま暖を取ろうと守備が薄い太ももに向かってぎゅうぎゅうと足をねじ込んでくるのだから余計質が悪い。せっかくだし着ないと勿体ないし、とモモちゃんがプレゼントしてくれた彼の趣味全開のパジャマで過ごしていたのが裏目に出た。ふわふわモコモコでパステルカラーで、上着は長袖なのに下はショート丈のそういうパジャマだ。もっぱら自分の家に居るときはジャージだとかスウェットが常なのに。モモちゃんはたまに女の子に夢を見ている節がある。

「#名前#の太ももってふわふわだしすべすべで気持ちいいんだよね……」
「人の太ももで暖取るのやめてよ……冷たい」

 モモちゃんは私を後ろから抱きしめて、私を抱き枕のように扱った。あったかあい、とおへそに回した手がちょっといやらしく思えるのは気のせいではないのだろう。私のお尻に彼の腰が不自然に押し付けられているような気がするから。

「んー、モモちゃんしたいの?」
「したい」
「よし、じゃしよ」

 最近モモちゃんが忙しくて、私が彼を待つまでの間に眠ってしまうことが多かったから、久しぶりなのだ。モモちゃんの息が首筋にあたった時から、ぎゅうっと後ろから抱き締められて彼のにおいがふんわり香ってきた時から、正直したいなとは思っていた。
 温い布団をがぱっと抜け出してパジャマの裾を捲る。外気に触れたお腹が冷たい。そのまますぽんとパジャマを脱ぎ捨てて、次はブラジャーに手をかける。#名前#の大胆〜!、というモモちゃんの悲鳴みたいな声が聞こえたけれども、どうせ脱ぐでしょ、と言い返す。ブラジャーも外してベッドの端に捨てた。
 彼は私の腰を撫で上げて、パンツを少しずつ下ろしながら、良い眺め、と言葉を漏らす。

「モモちゃんも脱ぐの」
「えー、脱がせて?」
「あっ寒いんだから全部脱がさないでよ」
「もうほとんど裸みたいなもんだし大丈夫じゃない? 寒いなら暖房入れ直そうか?」
「喉痛めるからだめ」
「じゃあ布団の中でしちゃおっか」

 端に転がっていた布団を上体を引き起こした彼が手繰り寄せる。彼が自身と私とに布団を巻き付ける間に、彼のトレーナーを脱がしてしまう。#名前#手冷たいよ、と辛抱ならなそうに彼が言うけれどそれを無視する。私が手を這わせる度に体をビクッとさせる彼のへそ回りに触れる。筋肉が増えたかもしれない。普段の彼が筋肉がないというわけじゃないけど、モモちゃんライブ前はジムにマメに行くのだ。この前ツアーが終わったばかりだからそれもあるのだろう。腹筋をなぞっていると、頭上からくすぐったいってば!、と彼が私をまるまる抱き抱えて後ろに倒れる。胸同士が密着する。

「ねえモモちゃん硬い」
「そりゃあムラムラしちゃうよ〜。かわいい彼女と久しぶりのエッチだもん。今日たくさんしていい?」
「やだ」

 布団の中で喋っているから声がこもる。それに湿度のせいで肌がぴたぴたと張り付く。彼の陰茎の硬さをスルーして、顔に手をやる。そのまま触れるだけのキスを繰り返した。
 ほんのりとアルコールのにおいがする。そう言えば、今日は仕事帰りにようやく予定が合った、と彼が嬉しそうに待ちわびていた飲み会だった気がする。いや絶対そうだ。リビングのカレンダーにデカデカと赤い丸印がついていた。

「──モモちゃん、今日万理さんとユキさんと飲んできたんだっけ?」
「そうだよ」
「三人揃うとどんな話するの?」
「なあに〜? #名前#ちゃん嫉妬かにゃ〜?」
「新旧リバーレが揃うんだよ? そうだよ揃ってるんだよ、早く教えて。まって、こんなこともうないかもしれない。歴史的瞬間じゃん。私だけこんな事実を知ってしまって良かったのか? 気狂いそう」
「#名前#雰囲気、雰囲気ぶち壊しだし、これからも飲みいく約束してるから」

 彼の体にのしかかったまま、その話を聞く。ええと、と彼は一瞬目を泳がせる。

「ツアーの話してたよ。ほら、今回ツアーの最終公演にバンさん誘ったから。構成とか機材の話してたんだけど、やっぱり芸能事務所にいるから、見るところが……」
「嘘つき」
「嘘はついてない」
「男が三人集まってする話だよ? もっと他にあるでしょうが」
「……猥談しました」
「よく言った。詳しくお願いします」

 モモちゃんは手で顔を覆い隠して、明後日の方向に顔を向けて、んんー、とひとしきり唸った。俺たちエッチするときってなんでこんなに雰囲気がないの?、と泣き言のように言う。

「1回のセックスで何回するかって話になって、」
「ありがとう」
「俺は4〜5回って答えて、ユキは2回、バンさんは3回って」
「オカズにできる。ありがとうモモちゃん」
「やだ〜、俺以外の男オカズにしないでよ!」

 #名前#のバカ、とぽかぽかと私を叩いた。
 こんな猥談をする新旧リバーレなんて聞いたことがない。ご相伴に預かってしまっていいのだろうか、という感情さえある。ある意味恋人特権だなあ、とニコニコしていると、彼が私の腰を擦ってズボンを下ろそうと画策する。それを受け入れつつ、他には?、と話をねだる。四つん這いになってお尻を反らす。胸だけはぴたりとついている状態だ。なんとも言えない顔をしている。

「#名前#の話にもなったよ」
「へえ……」

 私の瞼がピクリと痙攣する。この神聖な三人の中に私の存在は要らないというのに。なんだかとてつもなく嫌な予感がした。

「そんなに何回もするってことは#名前#ちゃん上になったりするの?って聞かれた」
「……万理さん?」
「ううん、ユキ。よく上になってくれるし、そのときの#名前#ちょ〜かわいくて、って言ったらどんな風にするのか話題になっちゃって、もうあの二人#名前#のことオカズにしてないか不安だよね」
「……モモのバカ〜!! 二人にはしたない女だって思われてたらどうするの? むり今日から私マグロなるから」





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