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▽2022/09/11(Sun)
命懸けドライブ/花園百々人
「ぴぃちゃん、僕ね運転免許取ったんだ。助手席、乗ってくれる?」


「……来ましたね」

 腹は括っていた。だがこんなにも早く来るとは思わなかった。私は長く細くフウーという息を吐いた。心持ちはボクシングで一発殴られたあとのインターバルの時間とほぼ同じだ。
 315プロダクションも事務所が始まって2年か3年も経ち、高校生アイドルが大学生になる頃に問われる一言、運転の練習に付き合って、これに尽きる。

「花園さん、確認のためにお伺いするのですが、運転免許証を貰ってから初運転ですか?」
「うん。初めてはぴぃちゃんに乗って貰いたくて」

 えへへ、と恥じらいながら微笑む姿は天使のような可愛らしさだが、その実1トン以上ある鈍器を操作するのである。しかも助手席は死亡率が最も高い席。凶悪だ。
 ほかのアイドルの皆さんについては、身内を生贄にしてから事務所の面々に声をかけることが多いのだが、花園さんについては違う。初めての運転の助手席頼まれそうで怖いんですよね〜と先日話したばかりだった。タイムリーすぎる。

「いつ頃にしますか?」
「仕事が無いときならいつでも都合が付くから、直近だと明後日の10時から15時で、一日になると来週の木曜日かな。大学も夏休みだから」

 ちょっと待ってくださいね、と彼を制す。スマートフォンを見て、グループトークを開き予定に空きがあるかを尋ねる。

「どうしたのぴぃちゃん」
「助っ人を召集しています」

 助っ人という名の道連れである。死亡率が高い助手席は私が乗るから、誰か後部座席で安全を見守ってほしい。
 ここで言うグループトークとは、私、渡辺さん、硲さん、山下さん、握野さんからなる対ペーパードライバーの連れ添い用のメンツが集まるものを指す。前職業柄、はたまた人生経験柄、運転が出来る者のみを集めた特殊部隊と言って良い。ペーパードライバーアイドルに練習に付き合ってほしいとは言われたものの、自分一人では心許ない、そういった場合にこのグループラインは稼働する。今までの稼働実績については遜色ない。
 数分するとぴこん、と通知が鳴って、渡辺さんから今週行けるという返信が入った。渡辺みのり神ありがとう、私は心の中で強くガッツポーズをした。

「渡辺さんも付き添いで来てくださるそうです。これで万全の状態で練習できますね」


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