++SS

▽2022/09/11(Sun)
都合の良いだけではない人/降谷零



「#名字#さんって降谷さんとそういう関係なの?」

 盛大に咽せた。
 ロッカールームというのは中高生の時の更衣室と然り、そういう話題が花開くものである。同期の女性、と言っても彼女は警察庁に採用された人なので出向組の私たちとは純粋な同期ではないが、からその言葉を投げかけられてなんで?という感情にしかならなかった。

「え、なんで?」
「そういう話で降谷さんから#名字#さんの名前が出たって」

 あの野郎という言葉が舌の根から飛び出しそうになるのをぐっと堪える。昔からアイツはそうなのである。甘いルックスで入庁した当初から周囲の女性の的となっていた彼だが、それに加えて頭も良く優秀な成績で警察学校を卒業しキャリアのコースを進んでいるともなれば非の打ち所のない優良物件である。
 なぜ私がこのように突っかかられるようになったか、心当たりの一つか二つは思い当たる。在学中に実技と座学とで彼より良い成績を取ったことがある。本当にそれだけだ。
 公務員というのはキャリア──つまり総合職試験を合格し幹部候補生として入職した者、であれば出向を経験する。その出向を経験する年齢は入庁から7年目の若手が多く、大学を卒業してストレートで入職した者であれば28歳から29歳の間、つまり私と彼はそれに該当する。出向した先の所属する場所は違えど、出向の先が全都道府県警を束ねる警察庁と言えばエリート街道まっしぐらと言うわけだ。そのエリート街道に私も含まれてしまっているわけだが、前の所属で敏腕の課長から気に入られていた。人事という物はおおよそ上の人間が人事課に口利き出来るか否かで決まってくるので、そのような理由での采配だろう。私の出向は独身だし結婚の予定も無いと聞くし、女性のキャリアコースの提示にぴったりだろうという上層部の汚い思惑が見え隠れしている汚い人事だが、彼の出向は全く違う。降谷のそれは完全に実力だ。入庁当初からからその才覚を遺憾なく発揮してきた。公安の最高機関への出向はなるべくしてなったと言っても過言では無い。

「それはたぶん、まともに答えるのがめんどくさかっただけだと思うけどな……」
「そっか……」
「ともかく降谷とはそういう関係になったこともなるつもりも無いから、安心して狙っていただいて……」
「その言葉、まるまる彼のことを気になってる人たちに言うね」
「それとなく私に探り入れてきてと言われたことに本当に同情してる」
「#名字#さん理解が早くて本当に助かる」

 私も、私に探りを入れてきてと私と少し仲が良かったあまりに打診された彼女もどちらも被害者である。はあ、と二人分のため息が溶けていく。




***



 この歳まで独身ともなると付きまとってくるのは、結婚の予定とかあるの?だとか良い人は居るの?だとかそういう話題で本当に辟易としている。
 降谷は警備局、私は刑事局に配属され、出向する前よりも会わない日々が続いているわけだが、たまに庁内でばったりと会うこともある。長期の潜入調査を行っているとのことから彼が登庁するのは極稀であると聞いている。私と彼の出勤の時間が会わないだけなのかもしれないが、ただでさえ仕事をしているフロアも違えば何千人も居る職場なのだ。会う方が珍しい。
 上司から頼まれた分厚い資料を持って警備企画課に向かう。お役所仕事は基本的にアナログだ。もちろん過去の事件資料等もデジタル化してデータベースに登録というものを随時行ってはいるが基本的に警察官は現場へ、事務職員も自身の業務があるわけなので過年度分の膨大な資料のデータ化は追いつかないのが現状だ。詳しく見たいともなればその当時の資料をそのまま持ってくるのが手っ取り早い。
 警備企画課のフロアは定時終わりとのことで閑散としているというわけではなく普通に人が居る。交代勤務制のため当たり前と言えば当たり前だが、事務職員までデスクに向かってパソコンをパチパチと叩いている。不夜城とはよく言ったものである。
 近づくにつれて廊下の壁側で三人ほどで雑談をしている若い男性職員を見つける。そのうちの一人、小麦色の肌に目立つ金髪は間違いなく彼である。おおよそ3ヶ月ぶりだ。同じ出向組の同期、あの警察学校で切磋琢磨した仲である。ここでスルーしたら流石にそっけなさすぎるだろう。というのは建前で久しぶりの同期の姿に



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