++SS

▽2026/03/18(Wed)
えむの途中の話まとめ
大人になるということ/水嶋咲

嘔吐や拒食症の描写があります

眠りから覚めたくない
息ができないの
あたしがあたしになるために


 朝、鏡を見るたびに毎日の変化が恐ろしくなる。こんなに背があったっけ、顎が尖ってきたような気がする。手が骨ばっている、産毛は濃くなってきたかも。
 身体の変化、それに直面する度に否応なしに思わされるんだ。あたしはいつまで、あたしでいられるんだろう、って。

大人になるということ

 毎朝、鏡を見るたびに大人になっていく体に怯えている。こんなに身長が高くなったっけ、顎が尖ってきたような気がする、肩幅が広くなってきたかもしれない、歯ブラシを持つ手が骨張っている、少し髭が濃くなってきたかもしれない。
 あたしがあたしで居られるのはいつまでなんだろう。タイムリミットが間近に迫っていることなんて、あたしがいちばんよく知っているのに。

「──咲ちゃん、もう食べないの?」
「さっき甘いもの食べちゃったから調整しなきゃ〜って」


お見通し/桜庭薫

 現状を言うならば最悪である。
 ライブと諸々の大手企業CMや広告の打ち合わせの日程がものの見事にバッティングした時点でもう人間らしい生活をする余地は無いとその瞬間に悟っていた。社長、山村くん、私との主に三人、プラス繁忙期にはパートさんやバイトの方で事務所を回しているこの状況だ。対してアイドルの人数は46人、ユニットの数は15、圧倒的に事務方が足りない。しかしまだまだ事務所としては小さい315プロ、おいそれとプロデューサーやマネージャーを増やすわけには行かず、現在に至っていた。

「……とりあえずカップラーメン備蓄するのと、あとスープ、インスタントのスープ買いたさなきゃ」

 黒字が騒がしいカレンダー、その6日後にひときわ大きく赤い丸がつけられている。
 忙しくなると一番おろそかになるのは食事だ。ご飯を食べる時間が取れないか、激務に胃がやられて食べられなくなる。何がなんでもカロリーがあるものを胃にいれなければならない。この仕事を始めて最初の頃は、貧血でぶっ倒れそうになったこともままにあった。カップラーメンはものの10分もあれば食べることが出来るし、重いものを胃が受け付けないときはスープを飲んでいればどうにかなる。あとはチョコレートでこまめに糖分補給をして、ビタミン剤と野菜ジュースを摂取しておけば炭水化物と塩分だけの食生活の罪悪感は少しぐらいは薄れる。何十もの修羅場を潜り抜けて得るに至った知恵だ。
 倉庫から寝るとき用の段ボール持ってきて、これから家に帰れるかも分からないし時間あるときに家から着替えも一通り持ってこないとなあ、とパソコンで入力作業をしながら虚ろに考えていると、事務所の扉を開けて桜庭さんがやって来た。

「#名字#……」
「お小言はやめてください……わかってるので……」

 実に二、三日ぶりの彼である。修羅度は一気に増して机の上には栄養ドリンクとビタミン剤、胃が荒れないようにと気休め程度に飲んだ牛乳パックが転がっている。ゴミ箱の中にはコンビニのおにぎりの包装紙と握りつぶした野菜ジュースのパック。いつもの彼にこんな食生活を見られていたら卒倒されるか怒号が響くかのどちらかだ。
 桜庭さんはズカズカとデスクの近くに来ると、眉間にシワを寄せながら私の顎を引っ付かんだ。

「顔色が悪い」
「生理前なもので……」
「不順か?」
「いや10日ほど遅れてますけど……」

 まあ許容範囲では、と目を泳がせれば更に眼光が厳しくなる。言ったのは私だけれども、担当しているアイドルに月のものの周期を知られたくなかった。目が合わせられない。

「不十分な睡眠と食事と来たら、そうなることは目に見えて分かるな」
「ぐうの音も出ません……」
「たんぱく質が足りない、鉄分も。この際サプリメントでも何でもいいから、鉄分は摂取しろ。あとはたんぱく質だ。たまこやで肉や魚の惣菜を買うのもいいが、無理ならば事務所にプロテインがあるだろう。飲め」

 ゴミ箱の中を一瞥し、彼がぴしゃりと言い切った。久しぶりの命令口調である。返事は?と間髪いれずに尋ねられて有無を言わさずにはいと返答させられる。

「君はいつもそうだ。忙しいときはよりいっそう食生活が疎かになる」
「はい……」
「」











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