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▽2026/03/18(Wed)
ずるい大人は予防線を引く/山下次郎

 たまに、すべてが嫌になってしまうことがある。
 自分で選んだ仕事だけれど、休日も不規則で終電間際に帰ることだってざらにある。自分の時間なんてとれやしない、仕事だけが全ての私と、プライベートと仕事を両立させていて、近々結婚すると言う同級生だって居る。今のご時世、結婚することだけが全てじゃないことは分かっている。私もこの仕事は好きだ。アイドルのきらきらしている姿を一番最初に、一番近くで見ることができるこの仕事が好き。だけど、ふと寂しくなることがある。職場と家の往復の日々、帰ってきたらへろへろでどうにかシャワーを浴びて倒れ込むようにベッドで眠って、朝を迎える。その単調な生活の繰り返しをする私と、幸せそうな家庭を持つだろう、持っている友達とを比べてしまうとどうにもやるせない気持ちになるのだ。私はこのまま結婚することもなく、一生仕事一筋の生活をするのかなあ、と。

「結婚、してみたいなあって思うんです。一緒にご飯食べる相手が居て、その人との子供を産んで、なんか月並みですけどいいなって。昔はそんな風に思わなかったんですけどね」

 歳とっちゃったのかも、と笑うと、気持ちは分かるけどね、と彼が同意した。
 友達から送られてきたウェディングドレスの写真を見る。今日の結婚式は、仕事が入っていたから参加出来なかった。友達に送って、とせがんだ写真には、彼女が幸せそうに笑う姿が収められている。

「#名前#ちゃんなら付き合ってるひとぐらい居るんじゃないかと思ってたけどねえ」
「仕事のせいにしたくないですけど、やっぱりこの仕事してると敬遠されちゃうんですよ。家庭に入ってくれないととか、自分より稼いでる女はちょっと、とか」
「ちょっとわがまますぎるんじゃない? その男」
「ですよね〜。引きが悪いのか、そういう人ばっかでやんなっちゃう」

 山下さんがコーヒーをすすりながら、酷い男だねえ、とぽつりと言った。




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