執務をしているときの眼差し/乱藤四郎
あるじさんは可愛らしい人。穏やかで優しくて、だけど戦のことになると誰よりも凜としている。ボクたちは色々な主の元を渡り歩いていることが多いけど、彼らとも遜色ない。いまや頼れる主だ。あるじさんはそんな頼れる人だけれど、やっぱり年相応の女の子なんだなあ、と思う時はいつだってある。例えばお洋服のお話をするときとか、虫を見つけて驚いて飛び跳ねたときだとか、太るからとお菓子を我慢しているときだとか。そういうとき、他の刀剣と接するときよりも少しだけ近い距離は、ボク故のことなのかなあと思うと役得だし嬉しかったりする。
「あるじさんー、資源の確認と日用品の確認終わったよ」
「了解ですー、乱ちゃんお疲れさま。あとはすることもないし、自由にしてていいよ」
「……ねえあるじさん、ここに居てもいいかな?」
良いけど、とあるじさんはちょっとだけ驚いたような表情でボクに言った。
今日の近侍はボク。近侍の仕事は色々ある。あるじさんの書類の整理やお仕事のお手伝い、資材や日用品のの確認や、内番をする刀や遠征先を決めることだってある。近侍をするときに思うのは、あるじさんと居る時間が長いと言うこと。普段は出陣や内番があるから、それにあるじさんは皆のあるじさんだから、中々一緒に居る時間というのは限られるのだけど。近侍をすると、あるじさんの隣に一日のうち誰よりも一緒に居られる、という点で特別だと思う。
「ボクのことは気にしないでいいからね」
「……あんまり見られるとやりにくいなあ」
あるじさんのすぐ横で、ちょこんと三角座りをして彼女を眺める。あるじさんは少し居心地悪そうに頭をかいて、再び書類仕事に戻った。かりかりとペンを走らせる音が聞こえる。廊下の外では風で木の葉が揺れている音、他の刀剣たちが和やかに話しているぼそぼそとした声も聞こえた。
近侍の仕事は、長い時間拘束されるものじゃない。もちろん何か起こったときにもすぐ対応できるようにと、一日中あるじさんの側に居る、というのが近侍の役割だけれど、忙しくなければ、あるじさんはおやつ時にもなると大抵暇を言い渡す。そうするとそれ以降の時間は、自分の趣味に充てたり、お昼寝をしたり、遊んだり、はたまた側に控え続けたり、刀によって過ごし方は様々だ。
「乱ちゃんって、あと自由だよって言っても残ること、多いよね」
「邪魔になる?」
「ん、いやそうじゃないけど、隣に可愛い子が居るとちょっとそっち見ちゃう」
「もう、あるじさんったら」
でも不思議だよね、とあるじさんが言う。
あるじさんの視線が真剣に書類に向いている。黒曜石のように黒い瞳は、今はそちらに夢中だ。時たま書類を捲っては、顔を顰めるる表情をしているのも楽しい。執務をしているときのあるじさんの横顔を眺めるのが好き。いつもに増して真剣な眼差しに、その理由がボクらのことに関することをしているからだって思うと、本当に愛されているし大切にされているんだなあって思う。
その姿を膝に顎を乗せながらにこにこしながら眺めていると、あるじさんが、本当のところの理由ってあるの?、と尋ねてきた。それに少し悩んだ素振りを見せて、秘密、と答えれば、彼女が気になるなあ、と返す。
20170831