ぽむさんへの捧げ物。ゆったり過ごす夜の話。
しんしんと雪が降る。窓の外は白く白く染まり月の光を反射している。触れた窓枠はとても冷たくて、手を引っ込めた。冷たく静かな冬の夜は、悪戯をする気分にはなれないが、それでも眠れないからと布団を蹴って階段を降りた。
ぱちぱちと薪の燃える音がする。談話室は暖色の調度品に溢れ、目にも肌にも温もりを感じる。日付が変わったその場所には誰もいない。暖炉の前の特等席に陣取っている彼を除いて。
「リーマス」
「…シリウス」
ふわりと甘やかな匂いを漂わせたマグカップ。読みかけの本を置いて、彼は少しだけ横にずれる。空いた一人分のスペースに腰掛けて、カップに口をつけた。
「あまっ」
「ホットチョコレート」
くすくすと笑い、リーマスはそっとカップを奪い返した。砂糖の塊のようなこのあまいものを、さも美味と言ったように飲み下す彼が信じられなかった。
「で、どうしたの?こんな夜更けに」
「それはこっちの台詞だ」
「眠れなくて」
「右に同じ」
机上の小腹から茶色い塊を摘んで、口に運ぶ。こいつ、チョコレートを飲みながらチョコレートを食べている。何というか、物好きだ。
「飽きねぇの」
「飽きないよ」
「口の中、」
「甘いけど、それが幸せ」
「…俺はチキンの方がいい」
「ふふ」
穏やかに笑って、彼は置いていた本を再び開く。四人の中で一番本が好きで、一番おとなしい。そして、一番なにを考えているのかわからないのがこの男だ。時折ふらっと保健室に泊まり込んでいたり、体に傷を作っていたり。人好きのする笑顔で人を寄せつつ、その実どこか人を遠ざけているような彼を少し苦手に思いつつも、反面嫌いにはなれなかった。
ぱちぱちと燃える音。乾いた紙を、めくる音。少しだけ空いたカーテンの向こうに広がる銀世界は、月光に煌めいている。美しい夜だった。その美しさはどこか、さみしげだった。
「もうすぐ、」
リーマスが口を開く。
「もうすぐ、満月だ」
「…そうか」
「僕は月は嫌いだ」
「何故」
「だって、寂しいじゃないか。寂しいのは、」
「嫌い?」
「嫌い」
はっきりとした感情を口に出すことの少ない彼が、言い切った。それが何だか愉快でふっと声を漏らせば、彼もつられて笑う。
「君は?」
「俺?」
「月、」
「あー…」
月のことなんて考えたこともない。頭の中をさらって、思考してみる。
「俺も、嫌いかも」
「そう」
「眠れねぇ」
「…そっか、一緒だね」
「一緒、だな」
彼はまたマグカップに口をつけた。甘い香りが漂ってくる。これがもう少し甘みの少ないものだったら、自分だって飲んでいただろう。寒い夜に、体を芯から温める飲み物は格別だ。
「そろそろ」
最後の一つのチョコレートを飲み込んで、彼は本に栞を挟む。
「戻るよ。シリウスは?」
「俺はもうちょっと」
「そう、あまり夜更かししすぎないようにね」
「おう」
「おやすみ」
「おやすみ」
たんたんと柔らかな足音を立て、彼は姿を消す。残されたのは自分と、砂糖の香りだけ。
「嫌いって、」
そんなこと言ってるの、見たことなかった。眠れなくて得をしたかもしれない。何故そう思うのかはわからなかったが、秘密主義の彼の一端に触れられたことが、何となく嬉しかった。眠れない、月が嫌いな二人。またこんな夜がないかと、燃える火を見ながらふっと思った。
prev next
戻る
情交と街