長い長い眠りの中で、私はとても不思議な夢を見ていた。何も知らない無垢な記憶と、誰にも気づいてもらえない孤独を抱えて、私は一人彷徨っていた。
自分を見出してくれる人に出会えたのは、いつのことだったのだろうか。

「レイ」
「辰也さん」

雪国の冬は寒いのだと、二年たった今再び実感する。女子寮と男子寮の間にある広場のベンチに座って、ただゆっくりと時間を過ごす。

「寒いですね」
「戻る?」
「貴方が構わないなら、もう少しこのままで」

煌めく星が美しい。きっとこんな時間まで外にいてはいけないのだろう。けど、どうしても今日は、明日を一緒に迎えたい日だった。

「飲まないの?それ」
「飲んでしまったら、私の手を温めるものがありません」

道すがら買ったココアの缶はすこしぬるくなっている。戻って温め直して飲もう、ぬるいままではきっとおいしくない。

「それじゃあ、」

彼の左手が私の右手を握る。温もりが伝わってきて、その分私の手の冷たさが和らぐ。

「これで、暖かいね」
「ええ、とても」

元より騒がしいのはあまり好きではない。彼と過ごす静かで優しい時間は心地良く、いつまでも浸っていたくなる。まどろみの中にいるような、そんな幸せな時間。

ふと左手の時計を見る。針が一つになるまで十秒もなかった。
心の中で数字を数えて、そして。

「辰也さん」

鞄から小さな包みを取り出す。丁寧なラッピングをしたそれを彼に差し出した。

「お誕生日、おめでとうございます」

拍子抜けしたような彼の顔が、一拍置いて明るい色に染まる。どうやらこのサプライズは成功したみたい。

「驚いた。一番乗りだね、レイ」
「そうしたくって、お願いしたんですよ。遅くまでごめんなさい」
「謝らないで。オレは今凄く、嬉しいんだ」

包みを大事そうに受け取る彼。リボンを引こうとする手を制した。

「どうして?」
「お手紙を入れてるんです。それで、その、ここでは…」

途中まで言いかけて、彼に抱きしめられる。彼の体温は高い方なのか、温もりが全身にじわりと広がっていく。

「レイ。My lover…オレは君と一緒にいるだけでどうしようもなく幸せなのに、君はこれ以上オレを喜ばせて、いったいどうしようっていうんだい?」
「そうですね、私も貴方といるだけでどうしようもなく幸せです。けれど、沢山の幸せを貴方に渡して、貴方の喜ぶ顔を見るのもまた、私を幸せにしてくれるんですよ」
「…オレはきっと、天使を愛してしまったんだね」
「天使じゃありませんよ、私は。翼があったらいつ風に吹かれて飛んでいってしまうかわかりませんから」
「それは困るなぁ」
「私も、です」

彼の体が離れる。優しい笑みを浮かべたままで彼は私の手を引いた。

「もう遅い時間ですから、お屋敷までお送りいたしますよ、お姫様」
「ありがとうございます、王子様」

気恥ずかしいような台詞のやり取りにはもう慣れた。背の高い彼との距離も、並んで歩くことも。
けれども、

「おやすみ、レイ」
「おやすみなさい」

去り際に額にキスを落とす彼。顔に熱が集まっていくこの感覚には、まだまだ慣れない。


HAPPY BIRTHDAY 2013

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