陶酔

 嗚呼、気持ちがいい。
 手に持ったショットグラスを傾けると、中に入っている円形に施された氷が小さく音を立てた。
 グラスには、フォリー近くの酒屋で売られている独特な風味のウイスキーが注がれている。飲みやすく、そして……酔いやすい。
 私は今日もそのウイスキーを飲みながら、目の前の『宝』に見惚れていた。
 客が食べ終えた皿を洗うその後ろ姿。ふりふりと横に振られる赤いポニーテールが愛おしい。誰も持たないその赤髪が美しい、と私は思うのだ。本人はあまり好んでいないようだが。後ろ姿を含めうっとりと眺める。
「シンコさん」
 いきなり名前を呼ばれて、驚きのあまり酔いが一瞬覚める。見詰めているのがバレたのだろうかと思ったが、どうやら違うらしい。
「いま飲んでいる分で『ゾイ』は最後です」
 ——ゾイ。私がいま飲んでいるこの酒の名だ。
「えー、じゃあしばらく飲めないのかあ」
 残念に思いながら本音を述べてみると。
「ふふ。実はこれから買い出しに行くので、久しぶりにシンコさんも一緒にどうかなと思って……」
 ——嬉しさのあまり飛び跳ねそうだった。
 セロと! 買い出し! デートじゃないか!
 この場にいない兎ヅラに対してざまあみろ、羨ましいだろうと嘲笑っていると、セロが申し訳なさそうに「ダメですか?」と言ってきた。可愛すぎるぞ、この男。絶対護らねばならぬ。
「ダメなもんか! 大歓迎だ。セロと出かけるのはいつだって楽しいし、しあわせだよ」
「——そう、ですか。嬉しいな。俺もシンコさんと出かけるの楽しいです。……じゃ、行きましょうか」
「今日はよく冷えるから着込むんだぞ」
「はい」
 自分もコートを取りに行こう。今日の夜はセロのビーフシチューでもご馳走になろうかな。そんなことを考えながら、駆けてゆくセロの後ろ姿を、私はまたうっとりと眺めるのであった。
 美しいものだ。
 


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