黄金

 187の瞳は黄金色をしている。
 兎ヅラなので最初は赤い瞳でもしているのだろうという偏見を持っていたが、蓋を開けてみればどうだ。きらりと輝く黄金色。高く売れそうだなと思ったのはここだけの話である。
 定期検診をしようと提案したのはセロだった。正直ほかの野郎を診るなんて気が進まなかったが、セロも187の身体が心配らしいのだ。それから週一度定期検診をしている。
 はじめて187の瞳を見たのは出会って間もない頃だった。思わず「綺麗な瞳してんなおまえ」と称賛してしまったほどだ。187は恥ずかしそうに身体を捩ると小さな声で「ありがとな」と言った。
「親譲りかもな、もしかして」
 私がそういうと187は複雑な表情を造った。
「……すまん、嫌だったか?」
「いや……実際どうなんだろうなと思ってさ。両親の顔なんて拝んだことねえし」
「そういや産まれた時は下水道だったんだよな、お前。複雑な人生してんなあ」
 まあ産まれた頃から大人になるまでの記憶があやふやな私に言われたくないだろうな、と心の中でひとりつぶやく。このことは誰にも話していないのだから。そもそも話す機会がない。
「下水道で、初めて見たものが雑誌のモデルで……でもそのモデル、確か瞳の色は青だった。そこまで真似できなかったんだな」
 187はふんふんとひとり納得している。
「じゃあやっぱり親譲りか」
 とっくに役割を終えたカルテを机に雑に投げ、紅茶を注ぐ。今日は休肝日にしようと思っているが、このあと187を連れてミゼリコルデに行くので無理そうである。
「どんな親なのかなあ……会ってみたいとか思ったことないけど」
「そりゃそうだ」
 187が兎の面を手に取ったところで、私は待ったをかけた。
「……もう一度だけ見せてくれよ、なっ?」
 そう言うと187は大きく息を吐いた。
「……しょうがないなあ! あとで奢ってよね」
「ビーフシチューならいくらでもいいぞ」
「出来ればカレーがいいなあ……」
 我儘を言う187を無視して私は奴の瞳に見入る。
 ——ああ、なんて美しい。



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