檜佐木修兵


 

「……あー…」


つい最近、四番隊に普及した現世の体温計なるものを口から出し、画面を見た檜佐木が唸りを上げて脱力した。

反乱後、ただでさえ尸魂界内は忙しさをみせているというのに、檜佐木の所属する九番隊は隊長の東仙が抜けてしまった為に大忙しだ。
その疲労が体に現れたのか、数時間前に檜佐木は気を失い、倒れてしまって今仮眠室で横になっているという状態。

体温計の数字は尸魂界用に少し改良されており、画面には三八度六分と表示されている。


「くそっ…」


(隊長無しじゃ、こんなに脆かったのか俺は…)


目を伏せば、以前東仙がまだ九番隊にいた頃の記憶が流れる。あの人は本当にいい人だったと、しみじみ思う中、突然「檜佐木副隊長」と隊士の声が戸を隔てて聞こえる。

檜佐木は重く怠い体を鍛えた腕で支え、なんとか上半身を起こし戸を見て言う。


「…どうした?」
「十番隊、みょうじ三席がお見舞いにいらっしゃいました。いかがいたしますか」
「通してくれ」
「はっ」


みょうじなまえ。

何故か名前を聞いたらすぅと力が抜け楽になったのは、彼女と長い付き合いの友人だからなのか。
それとも……


「修兵」
「なまえ……」


ソプラノの綺麗な声と共に、なまえは仮眠室に入ってきた。
その手には風呂敷に包んだ、何か大きなものが抱えられており、後ろには先程の隊士が戸の開閉をしてやっていた。小さな声で「ありがとう」とその隊士に言うと、なまえはゆっくりと修兵の横に座る。


「倒れたって聞いた時はびっくりしたんだから」
「心配かけたのか…悪い」
「悪くないわよ、修兵は大事な友人だもの」


にこりと微笑むなまえの周りに花が咲いたように見えたのは修兵の幻想だろう。だが、本当に彼女の笑顔は見るものに癒しを与える素敵なものなのだ。

なまえは自分の横に置いた大きなものの風呂敷を外す。現れたのは土鍋で、その上に置かれたタオルで蓋を掴み開けるとふわりと、湯気と梅の香がした。


「やっぱりお粥よお粥」
「なまえは俺が病気するといつもお粥作ってくれたな」
「これからだって、ずっとそうしてあげるよ。
今食べられる?」
「ん、ああ…今日は朝食抜いたから腹減ってたんだ。」
「ばっ朝食抜いたの?!あれほど抜いちゃダメって言ったのに!!」


なまえは料理が得意で健康面にはすごく気を使ってる。だからめったに隊長を崩すことなく健康体でいられるのだが、そのためか檜佐木をとても心配する。学院時代もめんどくさいとたびたび朝食を抜く檜佐木をこうして心配するなまえの様子は、まるで学院時代に戻ったようで檜佐木は微笑む。


「何懐かしい顔してるの。早く食べて、元気になってよね?」


懐かしい雰囲気を醸しだしながらの、二人水入らずの会話は実に楽しいものだが、なまえは檜佐木の体を心配し仮眠室をでていこうとする。
病気をしているせいか、なんだかなまえに傍を離れてほしくない檜佐木はとっさに腕を掴んで引き留めた。


「修兵…?」
「もう少し、話がしたい」
「ふふ…分かったわ」


何かを察したのかなまえはにこりと笑うと、また檜佐木の布団の横に座る。
仮眠室というこの空間だけは、反乱後とは思えない和やかな雰囲気だった。


_

mokuji / clegateau