Fake step, True kiss:シンデレラの歪んだ夜「ラストソロ:君のタクトで踊りたい」の続編。前作を読まなくても大丈夫です。 --------------------------------------------------------- 「皆本さ〜ん、お待たせ!」 「お疲れ様!なまえ」 例の潜入任務から約1か月後。 再びオフィス街の駅前で待ち合わせをした皆本となまえ。 1カ月前と違うのは、時間が夜であることと、二人の服装だ。 「待たせちゃってごめんねっ!今日も仕事終わりなもので」 「いや、気にしてないよ!今日はかなり私服っぽいけど、仕事着なのかい?」 前回は社会人として潜入したためスーツを着ていたなまえも、今日は私服だ。 黒いショートパンツにショートブーツを履いていて、長い脚がスラリと伸びている。 ただしロングコートを着ているので後ろからは脚が隠れ、いやらしさは無かった。 「そう!ちょっと大学生のフリをする必要がありまして…久しぶりにショーパンなんて履いちゃった!」 「似合ってるからいいじゃないか」 「またまた〜!ほら、お店に行こうよ!」 皆本をせかすように、なまえが背中をぽんぽんとたたいて促す。 今日は金曜日。今日の二人は、華金でにぎわうサラリーマンの海へと飛び込んでいった。 …… 「へえ、こんなところに隠れ家みたいなお店があるとはねぇ」 「たまたま歩いてて見つけたんだよ。なまえも好きそうだと思ってね」 二人が入ったのは、駅前から10分ほど歩いた路地裏にあるイタリアンのお店だ。 どうやら個人店らしいが、店内はオレンジの光で優しくやわらかに照らされ、気さくな店員の雰囲気も良くて心地よい。 店の奥半分は半個室となっていて、皆本が予約してくれたのはこの半個室の席だった。 「今日は皆本さんのおごり?」 「ああ、そうだよ!だから好きなだけ飲んで食べて」 「えっ、冗談で言ったつもりだったのに…」 むしろ、先月の任務では突然姿を消して困らせた側だったのだから、自分が埋め合わせをするつもりだった、となまえは言う。 「いいや。兵部に一本とられたのは悔しいが…二人のおかげで無事解決できたし、もう気にしてないから大丈夫だ。 それに、今日は僕から誘ったんだから、いいだろう?」 最初に頼んだお酒を手に、皆本はなまえへ差し出す。乾杯しよう、ということだ。 「そうね…ここは、お世話になろうかな?」 「よし!それじゃ、改めてお疲れ様!」 「お疲れ様〜!」 それから二人は、まず先月の任務の話をした。 兵部がまとめてくれたデータを元に、バベルが対応したこと。 やはり犯人一味から反撃があったので、控えていたザ・チルドレンが対応にあたったこと。 それから、ザ・チルドレンが最近任務に出動する機会が多く、学校を休みがちであること… 「あら、中学生になって引っ張りだこになってるってこと?」 「まぁ…高超度エスパーの存在意義の証明でもあるが、黒い幽霊の対応もあったりと、色々…。 小学生の頃に比べると、学業専念ともいかなくなってきたのが現実だな」 そこでなまえにお願いが! と、皆本な顔の前で両手を合わせる。きっと、奢るといったのはこっちが本命かもしれない。 「また家庭教師をやってくれないか?」 「もちろんいいよ!報酬は…そうね、皆本さんの手料理で!」 「よかった、頼むよ」 エスパーらしい依頼ではないが、なまえはまたチルドレンの家庭教師を引き受けることにした。 ちょうどなまえは教員免許を持っているし、以前も家庭教師を引き受けたことがあるので問題ない。 皆本が教えることもできるが、違う先生から教えを乞うのも刺激になるからと、快く了承した。 「仕事の話ばっかりじゃなくて、他にもいろいろ話そうか」 話題を切り替えるように、手元のアルコールを飲み切ると、備え付けのタブレットから追加のドリンクを注文し始めた。 ちょうど運ばれてきた美味しいおつまみにも手をだしながら、二人の会話と酒のペースはよく弾んだ。 …… … それから色々話し、日付が変わろうとしている頃。 酔いがまわり、フラフラになった皆本をなまえが支えながら、皆本宅へやっとの思いで到着した。 恐る恐るチャイムを鳴らそうとするが、今日はたまたまチルドレンが帰省して家には誰もいないと聞いた話を思い出し、なまえはチャイムを押すのをやめた。 「皆本さん、失礼〜」 ジャケットの胸ポケットあたりを探り、家の鍵を取り出す。 皆本を支えながら開けるドアは普段より重たく感じ、やっとの思いで玄関に入ることができた。 ひとまず靴を脱がせて、寝室に連れて行かなくては… カバンを床に置いてから、体の向きを変えてゆっくり座らせようとする。 「うわっ!」 しかし、うまくいかず、皆本の足となまえの足が絡まってしまった。 倒れる。 痛みを覚悟し、咄嗟に目をぎゅっと瞑るなまえ。 ドサッ と音がしてから、痛みがないことを不思議に思いながら目を開ける。 「あ、皆本さん、ごめん…」 皆本の胸元に倒れこんだなまえ。幸いにも皆本がクッションになったため、なまえは無事だった。 絡まった足をほどいてから、立ち上がりやすいように体制を整える。 腕と足に力を入れて、皆本から退こうとしたときだった。 「…う…なまえ…っ」 うなされるように絞り出された声とともに、なまえは腕をつかまれ、再び皆本に倒れこむ形となった。 「え、皆本さん…?!」 今度は、胸元じゃない。 まるで抱き合うかのような姿勢になってしまった。 皆本の名前を呼ぶが、まだ酔いの中で寝ぼけているように見える ゆっくり上半身を起こそうとしたなまえだったが、 次の瞬間、今度は後頭部をつかまれ、気づいたときには皆本の唇が自分の唇に触れていた。 「〜〜!」 それから、味を確かめるように舌で唇をなぞられる。 その隙間からもアルコールのにおいがした。 はぁ、と皆本の吐息が漏れ、後頭部の力が抜けるのがわかった。 なまえは、磁石で弾かれたように勢いよく皆本の体から離れる。 「…」 思わず手の甲で口元を抑えながら、皆本を観察する。 皆本の乱雑な呼吸音と、自分の心臓の音がうるさい。 なまえ自身もお酒は飲んだが、今強いお酒を煽ったくらいに顔がカーッと熱くなっていた。 「…えっと、私も帰らなきゃ…!」 玄関に鍵を置いて、あわてて家を出るなまえ。 外には先ほど乗ってきたタクシーを待たせている。 なんとかエレベーターの中で気持ちを落ち着かせようと、何度も深呼吸した。 オートロックの扉を出て、タクシーを見てからもう一度大きな深呼吸をした。 マンションを出てタクシーに乗り込む。 「運転手さん、お待たせしてすみません」 「本当だよ。そんな顔を真っ赤にさせて、飲みすぎじゃないのかい?」 聞き覚えのある声。ハッとして顔を上げると、ミラー越しに運転手と目があった。 「きょ、京介さん?!」 運転席に座っていたのは、タクシー運転手に扮した兵部だった。 すぐに前を見て、兵部はタクシーを走らせる。 「そんな驚かなくてもいいだろ?あと、また”さん”付けになってる」 「あ、ごめんなさい…」 いつもなら「またやっちゃった、ごめん」と軽く謝っているところだ。 今のなまえには先ほどのうしろめたさがあるのか、俯きながら申し訳なさそうに小声で言った。 「まっすぐ帰らず皆本の家に寄るもんだからびっくりしたじゃないか」 「ちょっと話し込んじゃて、ごめんね」 ミラー越しに兵部を見るが、運転中の彼とは目が合わない。 当たり前のことなのに、なまえは不安に感じていた。 皆本宅から10分ほど走らせ、住宅街の中でタクシーは止まる。 トランクの中で眠らされていた本物の運転手を後部座席に投げると、兵部はいつの間にかいつもの学ランに着替えていた。 「こんなところでどうしたの?」 「ちょっとおいで。少し顔を冷やそうじゃないか」 次には上空。今日はスカートじゃないからなまえも慌てずに身を任せる。 なまえに背を向けていた兵部が、瞬きの一瞬の次にはなまえの目の前にいた。 「京介、怒っている…?」 兵部から腕が伸びてくる。アルコールで火照ったなまえの頬を撫で、人差し指だけがそのまま頬をなぞり唇に到達した。 口の端から指が入り、なまえの柔らかい唇の間に兵部の人差し指が埋まる。 「皆本に何された?」 「ふぇっと…よろけて、私が押し倒しちゃって、」 「それで?」 人差し指が唇をなぞり、外れたと思ったらその手は顎を掴んでいた。 顎を持ち上げられ、ぐいっと兵部の顔が近づく この距離で目は逸らせない。嘘をつくつもりはないが、威圧感で怖くなる。 「酔っ払った皆本さんに…」 「皆本に?」 「き、キスを」 されました と言い切る前に、兵部がなまえに唇を重ねる。 「集中しろ」 一度唇が離れた刹那そういわれ、突然目を手で覆われて塞がれた。 もう片方の手で後頭部を抑えられ、視界が暗いまま、食いつくように何度もキスをされる 「きょう、すけ」 少し乱暴に、なまえの唇を何度も食わんとする兵部。 いい加減、呼吸が苦しくなってきたなまえが兵部の胸元を叩くと、そっと手が外され視界と唇が解放される。 「…集中、できたな?」 「もう、とても…集中できました…」 「さっきのことは忘れたよな?」 「それはもちろん!!」 「よろしい」 ぽんぽんと頭を撫でられる、 酔っ払いに事故のようにされたキスよりも、 嫉妬で貪るようなキスを好きな人にされる方が、当然インパクトとしては大きいのだ。 なまえの心臓は強く早く鼓動していた。 「せっかく付き合い始めたというのに、早速邪魔者が入れば、僕だって嫉妬くらいするさ」 「私が無防備でした、ごめんなさい…」 「なまえは悪くない。後で皆本のことはたっぷりシメておくからな…!」 ククク、と悪役顔で笑いながら、飛ぶ兵部。 次の瞬間、なまえが後ろから兵部の背中に抱きついた。 「おっと」 「私が逆の立場だったら、もっとヤキモチ妬いてたと思う…」 「妬いてくれるんだ?」 「ちゃんと京介のこと、好きだもん!」 顔だけ振り向いた兵部に、今度はなまえからキスをした。 ちゅ、と触れるような優しいキス。 「気をつける、本当にごめんね」 「君には怒ってないよ」 振り向いて、なまえのおでこに優しくキスする兵部。 2人は見つめ合うと、ふふっと笑い合った。 「ほら、帰ろう」 「うん!」 満月に向かっていた2人の影が消えた。 それから数時間後、頭と両手をのぞいて体を冷蔵庫に埋め込まれていた皆本がチルドレンに発見されたことは、なまえも知らない。 _ 2026/5/18 タクシーはカボチャの馬車のつもり mokuji / clegateau |