君へ贈る宝箱


 



「え、二人ともコンビニご飯?!」
「いや〜、これが手っ取り早くて、つい…」


名古屋 大須のスケートリンクの休憩スペースにて。
リンクでアルバイトをしているなまえが、ルクス東山FSCで練習している結束いのりと、そのコーチである明浦路司の食事を見て驚いていた。

なまえはテーブルに置かれた食事と時計を二度見する。
テーブルにはコンビニで買ってきたサラダチキンバーと、バナナ、おにぎり、カップの味噌汁があった。

そして時刻は12時。ちょうどお昼だ。
アスリートはしばしばバナナを栄養補給食として食べることがあるが、バナナとともに並ぶおにぎりや現在の時刻から、これが昼食であることがわかる。


「司くんは分かるけど…いのりさんは?今日はお母さんのお弁当、お休み?」
「そうなんです…今仕事の繁忙期で、朝も早く家を出るからお弁当作ってもらうの難しいんです」


心なしか、結われたいのりの前髪が寂しそうにしおれたように見えた。
練習中、食べなれたお母さんのご飯がまた励ましになることもあるだろう。
もしかすると、家庭でお母さんと過ごす時間も最近は減っているのかもしれない。


「そっか…今はちょっと寂しい時期だね。
管理栄養士のたまごとしては、いのりさんに健康でいてもらうためにも、ちょっとアドバイスさせて欲しいな!」


バイトの休憩中に立ち寄ったなまえは、そのまま持っていた自前のお弁当箱をテーブルに広げ、
これが見本だよと言わんばかりに蓋をあけて、二人に見せた。


「おぉ〜!!!」
「すごい!!カラフル!!」


覗き込んだいのりと司は、声をそろえて感激する。
なまえのお弁当箱の中は、栄養バランスを考えられた色とりどりのおかずが並んでいた。
ご飯もただの白米ではなく、穀物がブレンドされたご飯だ。紫色がまたおかずと並んで映えている。
メインのおかずと副菜のバランスについて、なまえは簡単に説明をした。


「これ、なまえちゃんが作っているんだよね?」
「もちろん!大学で勉強したことをちゃんと活かしているよ!」
「じゃあさなまえちゃん、」


大学で管理栄養士を目指すなまえに、いのりが瞳を輝かせながらウルウルと揺らした。
両手の指先を絡め、少し上目遣い気味に続ける。


「私、一度でいいからなまえちゃんの作るお弁当、食べてみたい…」
「いいよ!」


なまえの即答に、いのりが嬉しそうに体を弾ませる。そんないのりを見て司も嬉しそうだ。
司がバナナを頬張っていると、


「司くんは何が好き?」
「え?」
「おかず!」


いのりと何かを話し、スマホにメモしていたなまえが急に話しかけてきた。
どうやら、おかずのリクエストを受けていたようだ。


「司くん、何か好きなおかずとかある?」
「待って、まさか俺の分まで作ってくれようとしてる?」
「…コーチが選手のお手本にならないとね?」
「それもそうだけど、2人…いや3人分も大変だろうから、俺の分はいいよ」
「全然。2人分も3人分も変わらないから平気!いつも仲良くしてくれてるお礼だと思ってよ!」


一度は遠慮した司だが、なまえが前のめりに言う。
なまえはいつも、まっすぐに気持ちをぶつける女の子だった。
この子に言われると、素直に甘えてもいい気がしてしまう。

司は少し悩んだ後、じゃあお言葉に甘えて…と言った。なまえはいのりと目を合わせて嬉しそうに笑った。


「じゃ、来週楽しみにしててね!」










後日。約束の日。


「じゃーん!!」


予め休憩時間を合わせていた3人が、休憩スペースのテーブルを囲む。

なまえがテーブルの中央にそれぞれ大きさの異なる3つの弁当箱を置き、いのりと司の分の蓋を同時に開けてみせた。


「すっごーい!!カラフルで宝石箱みたい!!」
「おいしそうだね、いのりさん!!」


いのりがリクエストしたおかずをメインに、練習中でも消化が良く、疲労回復に良いビタミンB群を意識した副菜が並ぶ。
2人が一つ一つおかずを見ている間に、なまえは保冷バッグから除菌シートと箸を並べていった。


「なまえちゃん、もう食べてもいいですか?」
「もちろん!めしあがれ」
「やったー!いただきます!」


手を洗った後だが、念のためもう一度除菌シートで手を拭く。
両手を合わせたいのりは、嬉しそうにメインのおかずを一口食べた。


「美味しい!!なまえちゃんすごい!!」


ちょうど腹を空かせていた司も、いのりに続いて一口。
口に入れた瞬間広がる味に、思わず頬が緩んだ。


「めちゃくちゃ美味しい…!」
「二人の口にあってよかった!」


そんな二人の様子を見ながら微笑むなまえも、自分のお弁当を開けて食べ始める。
3人同じおかずのお弁当だ。
いのりのリクエストしたおかずと、司の好きなブロッコリーを使った副菜と、なまえの好きなデザートが詰め込まれている。


「なんか…家族みたい」
「家族でピクニック、みたいな気分だね」


人にお弁当を作ってもらったのはいつぶりだろう、と司はふと考えていた。
家族とピクニックした記憶も思い出そうとすると、少し感傷的になってしまう。
それを破るかのように、いのりがさらに呟いた。


「なまえちゃん、お母さんみたい…」
「ありゃ、じゃあ第二のお母さんに立候補しちゃおうかな?司お父さんの許可を得ないとね」


突然話題を振られて、司はワンテンポ遅れて反応する。


「お父さんだなんてそんな!…でも、家族以外にも頼れる人がいるっていいよね」
「確かにそうだね。私は大人だけど、年齢関係なしに、いのりさんのことお友達だと思ってるよ。
私にできることがあった時、また力になれたら嬉しいな」
「「や、優しい〜!!」」


女神のように微笑むなまえの背後に後光が見えた気がした司といのりの声が揃った。
ありがた〜と両手をさする動作までリンクする二人になまえが言った。


「私から見たら、司くんといのりさんの方が親子に見えるけどな?面白いくらい反応が一緒だもん」
「あはは、よく言われます」
「なら司先生が第二のお父さん、なまえちゃんが第二のお母さんで決定ですね!」
「あはは、いいかもね」
「あれ?そしたら私たち…」


なまえが続きを言いかけて、司をまっすぐ見る。司はなまえが何を言いたいか、まだ気づいていないようだ。

少し遅れて、司より先にいのりが気づいた。


「あ!!司先生となまえちゃんがお父さんお母さんなら、2人が夫婦ってことですか?!」


口元に手を当てて、はっとするいのり。
司はやっと言われたことに気づいて、ぽっと顔を赤らめた。
なまえは満更でもなさそうににこりと微笑む。


「あ、いや申し訳ないというか…なまえさんまだ若いし、」
「やだ司くん、5歳しか違わないほぼ同世代なのに若いなんて言わないの〜
瞳さんに聞かれたら怒られますよ!」


確かに、女性に年齢の話をするのは野暮だ。
一拍おいてから、目を合わせて笑う2人。

お弁当を食べながらそれを見ていたいのりは、やはりお似合いな2人だなと思うのだった。


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2026/7/16

mokuji / clegateau