その男の名は

昼の邂逅から数時間後、辺りは暗くなり、夜となった。
とある組織の数ある拠点の一つで、安室透―――否、バーボンは人を待っていた。

「まったく、紹介したい人が居るなんて言って幹部を招集しておいて、張本人が遅刻とは。いいご身分ですね」

バーボンがそう零せば、隣に居た金髪ブロンドの美女―――ベルモットが目を細めながら呆れたように「私も暇じゃないんだけれど」と吐き捨てた。
黒に近い落ち着いた髪を一纏めにしたハーフ顔の女―――キールがなだめるように「まぁ、もうそろそろ来るんじゃない?」と言った。
その言葉の通り、ガチャリとドアの開く音がする。幹部の集まるこの部屋にようやく本題の人物が来たようだ。
バーボンは嫌味の一つでも言ってやろうと思い、ドアの方を向いた。―――だが、バーボンから言葉が発せられることはなかった。

「……誰、あなた。ここがどこかわかって来てるのかしら」

最初に発したのはベルモットだった。キールも怪訝そうな顔でドアの方を見つめている。
一方、嫌味をその腹に飲み込んだバーボンは、自分の中の情報の錯誤と戦っていた。なぜなら、ドアを開けた人物が昼にポアロで会った人物とそっくり…否、そのままであったからだ。

「お集まりの皆さんの心中を当てようか?―――なぜ自分たちを呼びつけたジンではないのか。あの男は誰か。………だろう?」

状況から容易に想像できる心中を言い当てられたところで動揺はしない。だが、その声までもが昼に会っていた―――リドルと呼ばれていた彼と同じであれば、顔には出さないが心は大混乱だ。

「今日来てもらったのは俺の自己紹介のためさ。これからこの組織でとある目的のために動かさせてもらうから、よろしく」

にじみ出る悪を隠そうともしないその笑みは、アンナとじゃれ合っていたリドルとは結びつかない。

「それで?御託はいいからさっさと名乗りなさいよ」

強気にキールが促せば、彼は腕を広げて芝居がかったような仕草で名乗った。

「俺はヴォルデモート卿。この世の中のマグルを根絶やしにするため、黄泉から蘇った男さ」

黒い日記を手に持った男は、口角を歪ませながら笑った。