Act-01 相談 前編
「お疲れ様ね、秀」
机の上に湯気の立つ珈琲の入ったマグカップを置かれて赤井秀一はキーボードを叩く手を止める。
「ああ、お疲れ、ジョディ」
「もう8時よ、まだ終わらないの?」
「あと、この報告書をプリントアウトしてジェイムズのサインを貰えば終わりなんだが、生憎と先に帰られてしまった。」
「そういえばさっき出て行ったわね。」
「9時からサーカスの特集番組があるらしい。 俺は明日から1週間は無理やり取らさせる休暇だからな。 出来るだけ終わらせないと」
「働き過ぎよ、シュウは!」
ジョディが溜息を付く。
「日本人はワーカーホリックっていうけど、シュウはその代表よ。国籍だって亜米利加なのに、ここ1ケ月の残業だけで60時間は行くんじゃない?」
「正確には64時間と25分になった所だ。」
「もう! それに、時間外でも一人で捜査してるでしょう? 何時倒れても可笑しくないわよ?」
「そうか?」
「これだもの。 兎も角! 明日から1週間! 公休なんだからしっかり躰を休めてよね!? 日本から戻ってきて、ロクに公休取ってないし。休日なんてあってなきがごとしって事位分かってるんだから」
「分かった分かった。 だから今日中に報告書を提出するためにPCに向かっているんだからな」
赤井は苦笑して、プリンターから吐き出される用紙を取りに向かう。
「ともかくね? 折角本国に戻ってきたんだから。 たまには家族と過ごす時間を取りなさいよ?」
(私にはもう家族は居ないんだから―…)
と、最後の台詞は飲み込むジョディ。
「―… そうだな。」
赤井はジョディを見てふっ…… と思う。
(ジョディにはもう…。 なのに俺は……)
「ジョディ。打ち出したレポートはサインしてクリップでとめて、S5のボックスに入れて置く。 すまないが、明日出勤したら、ボス・ジェイムズに渡してくれるか?」
「ええ! その位なら勿論。」
「かなり分厚いレポートだ。枚数は確認して置くが、抜けてる頁があったら悪いがそこだけプリントを頼む。ファイルのURLはメールで入れて置くが、暗号化しておくから解凍ソフトを使ってくれ」
「了解。」
ジョディが笑みを浮かべる。
「じゃあ、私は帰るわね! また1週間後!」
「俺はジョディの入れてくれた珈琲を飲んで、もう少し頑張ってから帰るよ。」
ジョディは嬉しそうに頷く。
任務の為に分かれた元カレ元カノの間とは思えないほどさっぱりとした付き合いはジョディの性格もあるのだろう。
「さて、レポートを終わらせないと」
赤井は左右のモニターを見ながらカタカタを指を走らせる。
煙草は室内禁煙の為珈琲で我慢。
結局、プリントアウトまで終わったのが10時過ぎ。
(流石に無理をしすぎた かな)
腕を回せばこの2日程デスクワークと会議会議で書類作成に追われた所為かゴキゴキとなる。
(明日か明後日当たり、真純を呼び出して運動不足を解消するか)
若干ブラコン気味な可愛い妹を思い出して赤井は苦笑するとPCの電源を落とし、プリンターの電源を落とす。
7時で一般正面出口のセキュリティが掛かって翌朝の7時にセキュリティが解除されるまで、出入りできなくなるので夜間の出口に向かう。
「赤井捜査官。 ―… お疲れ様です。今日も残業ですか?」
夜勤警備員が苦笑して声を掛けてくる。
「ああ、お蔭さまでね。 明日から1週間の公休で出社しても入れてくれないらしい。」
「それはそれは 何とお答えすればいいのやら」
警備員が笑う。
「たまにはゆっくり休んで下さい。この1ケ月、毎日裏門帰宅だったんですから」
「耳が痛い台詞だがそうするよ。 パーキングのセキュリティ番号はまだ変わってないな?」
「はい。出る前に暗誦番号を押してください。何時もの通りに。明日からパスワード変わりますから出社したら確認してください。」
「了解した。 大丈夫だとは思うが、室内見回りでPCの電源と加湿器のスイッチを確認しておいてくれ」
「承知しました」
警備員が軽く敬礼をして監視室にもどる。
駐車場に一台だけ残っている愛車のシボレー。
「この時間だし な」
自分のマンションの冷蔵庫の中身は押してしかるべしなのを思い出す。
(夜間営業のいつものレストランで食べて帰るか)
家にあるのは酒と氷に珈琲位だったと思い出して、途中のコンビニで牛乳や卵、パンやサラダのパックに肉を籠に入れる。
そして、目に留まったのは無農薬のオレンジやキウィ等のカッティングフルーツをパックにしたもの。。
暫く果物も摂取してないと籠に入れて会計をして、助手席にスーパーの袋を置いてファミレスに向かう。
いつもの癖で遠回りをして、不良少年たちのたまり場となっている陣地を通るように流すが赤井のシボレーは少々有名になっている為、こそこそと隠れる少年たちも居る。
(やれやれ、隠れたって無駄なんだがな)
赤井は車を止めるとスマホを取り出しと知合いの保安官事務所に連絡を入れる。
「深夜にすまない。夜勤の保安官に代わってくれないか。―… 赤井からの電話だと伝えてくればいい」
そのような電話を何件かして、赤井が常連とかしているファミレスに付いたのは11時半を回っていた。
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