BAR Helter Skelter
14区の中にある喰種御用達のBAR
店主であるイトリはカウンターに立ち、お酒目的か彼女目的かわからない客と何気ない会話を楽しんでいた。
キィ、と遠慮がちに店の扉が開かれたため、お客を迎え入れるため視線をそちらに向ければこの店の常連の姿。
まだあどけなさを残しつつも少女から女に変わりつつある彼女。
「おや、どうしたのだね、お姫ちゃん」
そう話掛けながら自分の向かいの席に誘うように右手で招き入れた。
それに応じるように彼女、なまえは慣れた動作でカウンターに腰をかける。
「イトリさん、その呼び方やめて下さいって何度言えば」
そう文句をつける言葉を遮って、すまんね、取り敢えず血酒で良いかい?とジトリ、と睨みつけてくる彼女の前にグラスを差し出せば、一杯目はイトリさんの奢りね、となまえはグラスを仰いだ。
「ウーさんの姿が見えないけど仕事で忙しいのかね?」
ところで、といつだって彼女の隣にある旧友の姿を尋ねればグラスの中の液体を飲み干したなまえの頬がじんわりと紅く染まる。
「...ウタさんなんて、知らない」
少し唇を尖らせ、眉間に皺を寄せるのは小さい頃からのなまえの癖で、私、怒ってます、や拗ねてます、の表れ。
「おやぁ、可哀想ななまえちゃんはまたウーさんにいじめられたのかね?ん?」
ニヤニヤしながら詰め寄れば、どもりながら更に顔を紅くさせるなまえの姿に思わず笑いが溢れそうになった。
だんまりだったなまえに、お姉さんに言ってみなさいな、と追い討ちをかければ
「イトリも意地悪!」
おかわり!と空になったグラスを鼻息荒く押し付けてくるなまえは一杯でもう回っているらしく昔の言葉遣いが顔を覗かせている。
蓮ちゃんと一緒で弱っちぃ癖にあんなに呑むから、と思いつつも止めずに再び血酒を出す自分も彼女の保護者サマと変わらないか、と一人で苦笑した。
なまえと初めて会ったのはウーさんがHySyをオープンさせて暫く経った頃だった。
親を白鳩に殺され彷徨っていたところを保護された少女は雛鳥のようにウーさんに懐いてしまい、ウーさんもウーさんで嫌な顔せず少女の面倒を見ていた。
数年経てばウーさんの隣になまえがいることが自然になりウーさん、なまえ、蓮ちゃんと並ぶカウンター席がこの店のよく見る光景になった。
そんな中でイトリからイトリさんに呼び方が変わり、言葉遣いも姿形も大人びていく少女の姿をずっとここで見続けていたのだ。
彼女のウーさんを映す瞳が親愛から恋心に変わっていく姿も、だ。
店の扉が開く音と同時に、酔っ払って唇を尖らせながらグラスの淵を指でなぞって遊ぶなまえを見やると、悪い男に引っかかりおって、とすっかり親の気持ちになる。
「いっそのことウーさんなんてやめて蓮ちゃんなんてどうだね、なまえくん」
「勝手なこと言わないでよ、イトリ」
酔っ払っているため耳に入る訳ないと踏んでの発言に言葉を返したのは先ほどの来訪者。
「おや、ウーさん」
いらっしゃい、と告げれば、蓮示くんはダメだよ、ムッツリだから、と意味のわからないことを言いながらなまえの隣に腰を下ろした。
「ウーちゃん!」
ウーさんの声に反応したなまえが尖らしていた唇を緩め満面の笑みを形どった。
「こんなに酔っ払って」
ウーちゃん、ウーちゃんとなまえに引っ付かれ腕を遊ばれるウーさんの前にコトリ、と血酒とおつまみの眼球を置く。
「あんまりいじめるとお姫ちゃんに逃げられちゃうんでないかい?」
なんて意地悪く言えば
「誰に言ってるの?」
なんて自信げに返された。
丁度良く、ウーちゃんしゅき、なんてなまえが呟くものだから、悪い男に引っかかりおって、とだらし無い顔でウーさんに引っ付いているなまえを見て再び思う。
君が幸せでいられますように
( ただ それだけを願う )
- 2 -
クラスターは死なない