モダンな雰囲気に珈琲の良い香りが広がる店内。
穏やかな時間が流れるあんていくの片隅、机を挟み向かい合って座る男と女。
「どいて、月山」
しきりに入り口の様子を伺っている女、なまえ。
彼女と入り口の間に入り込んだ男、月山習。
「pardon me?目の前にこんなに美しい僕がいるのにどうして他に目移りする必要があるんだい」
「月山、うざい」
「恥ずかしがることなんてないさ、でもそんなところも君の魅力だけどね、なまえ」
「消えて、月山」
何を言おうとも返される僕に向けられた辛辣な言葉達に脳の髄まで痺れるような感覚が襲う。
良いだけ言葉のやりとりを楽しんだ後、僕は満足したように、彼女は呆れたように持参した本に視線を落とした。
読書の合間、淹れたての珈琲が注がれたカップを手に取りそれを口に運ぶ彼女。
ちらり、とその様子を盗み見れば、カップが離された唇が真っ赤に潤んで美味しそう。
静かだった店内に扉が開く音がし、視線を向ければサングラスをかけた顔見知りの姿。
「ウタさん!」
その姿を彼女も見つけ読みかけの本を机に放り、彼の元への駆け寄った。
無造作に放り出されたもう用無しの本に、勢いでカチャリと音を立てた取り残された珈琲カップに、ただ2人を見つめるだけの情けない僕。
「ごめんね、遅くなっちゃって」
「全然平気だよ」
僕には向けたことのない笑顔でHySyの腕に自分のそれを絡ませた彼女。
店を出る直前に思い出したようにこちらを振り返ると、顔をしかめながら僕に向かって赤く熟れた舌を突き出した。
ああ、どうして君はこんなにも僕をそそらせるんだい
dolce!と思わず呟いた言葉は誰に届くわけでもなく珈琲の匂いが漂う店内に消えた。
恋狂い
(喰べてしまいたい程恋しい君)
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クラスターは死なない