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01 邪魔される熱




いつも通りの朝。
窓から差し込む朝日で目が覚めた。
今日は天気が良いなっと光の強さで何となく予想する。

今日は土曜日なので、もう少し寝ていたい。
そう寝返りをうとうとするが、何故か体が動かない。
段々と覚醒していく意識の中、ふと胸の下あたりをきつく締め付けられているような違和感に気付く。


“何に”、なんて愚問だと思う。


これはそう……誰かの腕。

「んっ……」

鼻にかかった低い声がすぐ後ろで聞こえた。
モゾモゾと動くそれに、サッと血の気が引く。

あれ…

やってしまった?



昨日の記憶を必死に思い返すが、確か昨日は大学時代の友達と呑んでいて…
所謂女子会というやつで、男はいないはずだったんだけど、この腕は...誰の?

どう考えても私を抱きしめているのは男だし、いまいち昨日の記憶はないけどヤッたよって言われたらヤッたような気もする。


なんか、前にもあったんだよね...これ。

実は今回で2回目だ...。
確か1回目は、職場の飲み会で宇髄さん達に潰されて、色々あって まぁ、”あの人”ヤッてしまったというオチで...。

あの時は顔見知りだったから良いものを…。
しかもその後、お互い何もなかったかのように日々を過ごしてきたし、正直あの時のはもう記憶の片隅に追いやっている。


いや、というか知り合いだから良いってもんじゃないし、今はそれは関係なくて...。



今回に限っては絶対にこれ知り合いじゃないよね。
顔も名前も知らない人と一夜を明かすなんて、もう誰にもこんな事言えないよ...。




一人じっと青ざめていると、急に腕の拘束が緩くなった。



あ、、、
これは、起きたな。



起きた事を知らせるように、それはモゾモゾと動きだした。
どこぞの誰なのか、それを知る事が怖くて私は思わず体を硬直させてしまう。



「ん....」
『っ....』

少しすると何を思ったか、再び腕は私を強く抱き寄せた。
かと思えば、首元に顔を埋められ思わず小さく声を漏らしてしまった。

まずい。
起きてる事バレたよこれ、どうしよう。

昨日は多分絶対に私が悪いよね、どうせ酔っ払って道端にいたこの人を誘っちゃったとかそういう流れだよね、謝るべき?

どうしよう...。

というか私って酔っ払ったらそんな事するやつだったのか、物凄く自分を殴りたい。




「......起きてるのかァ?」

やっぱりバレてる。
もう隠すなんて無理だよね、これは先手必勝よ。


「みょうじ先生...?」


先に謝った方が勝ち!
よし謝ろ...て、










え?


急な先生呼びで思わず思考を一時停止する。
あれ、なんで私の名前……。


ていうか何か聞いた事あるな、この声。



あれ。

あれれ…?



ギギギっと効果音が付きそうなくらいぎこちない動きで振り返る。


「……おはようございます」

『し...ししししし、不死川先生!?!?!?』


そこには、いつも整えられている髪をピョコッと一箇所跳ねさせ、とても眠そうな顔の不死川先生の顔があった。

驚きのあまりベッドから落ち、そのまま後ずさってしまう。

『なっ、え、あ、どえぇぇぇ!?!?!?』

「...慌てすぎですよ、大丈夫ですか?...それより何か着た方がいいですよ」

『え、』

ベッドから私を見下ろすのは、いつも学校で話すときの不死川先生だった。

顔はいつも通り怖いけど口調は丁寧で、何でこんな冷静なんだ。

そう思いつつも、不死川先生に指摘された通り私は視線を下げ、自身が何も着ていない事を確認してしまった。


『っ〜〜〜〜〜〜〜!!?!?!?』


それからは声にならない悲鳴でドタバタと暴れ、無意識に不死川先生の頬にビンタを喰らわせていた。



それからタオルケットにくるまりながら彼に土下座するのは数分後の話。









『あの....本当に、すいません。その....』

「いえ、大丈夫ですけど....。まさか2回目もビンタを喰らうとは思いませんでしたよ」

床の上でタオルケットに包まって目の前の男に土下座する。

そもそもこの人はなんで私のベッドの上で偉そうにしているのでしょう。
いや、私が彼にビンタしたのがいけないのか...。

いやいやいや、それ以前に何で彼なの!?

だって、それってつまり....


「ところで、みょうじ先生」
『ひゃっ!』

グイッとベッドの上に引き上げられた。
急なことにうまく体勢を取ることが出来ず、膝立ちで彼に跨る感じになってしまった。

恥ずかしすぎて消えてしまいたいっと思う私に対して、彼は耳もとに顔を近づけてきた。

「昨晩は、この前よりずいぶん積極的でしたけど...一体どのくらいお酒を飲んだんですか?......みょうじ先生」

『んぅ…、耳元、やっ…』

思わず甘い声が漏れ、背中がゾクゾクっとした。


そうだよね。

やっぱり、そういう事だよね。

私がお酒でやらかした1回目の相手は、何を隠そう目の前の彼。
同じ職場で数学教師の、不死川実弥先生である。

そして何故だか今回の2回目も、彼で間違いないようだ。
何で彼とこうなったのか、今回に関しては本当に分からない。

『し、不死川せんせっ…何で、』

「……何ででしょうねェ?」

『っ...やっ、ちょっと...』

スルッと腰に回された腕に体を抱き寄せられる。
纏っているのが薄いタオルケットなのでジワジワと伝わってくる彼の体温。急激に顔に熱が溜まっていくのがわかった。

「昨日俺とナニしたのか、今から再現しましょうか?」

『じょ、冗談やめてくださ...』

「冗談じゃないですよ、」

そう言いながら耳をペロッと舐める彼。
身体が昨日の出来事を覚えているからか、本能的な何かなのか、お腹の下の方がキュンっとなった事に更に恥ずかしさが増した。

『ほんとに、やめっ..んぅ...んっ』

「んっ...」

下から貪るように唇を奪われ、そのまま直ぐに舌が入ってきた。
ねっとりと意外にも優しく舌を絡ませてくるそれに、意識を奪われかける。



『はぁ...んっ...』

いつまでも続く熱いキスに、身体の力が抜けバランスを保てなり、胸元で抑えていたタオルケットの存在など忘れ、そのまま不死川先生の肩に手を置く。
ハラリと肩から落ちるタオルケット。
不死川先生はそれを横目に直接腰に手を回しなおした。



あぁ、
この人、本気かも。

熱の篭ったその瞳に今度は体の底からゾクゾクし、否定しながらも“この先”を求める自分がいた。

密着した肌。
どくどくと伝わってくる彼の鼓動。
どちらのものか分からない口の端から垂れる涎。
静かな部屋に響くお互いの荒い息遣い。

全てが興奮材料でしかなかった。

「なまえ……」

『はぁっ...不死川せんせぇ...』

離れた唇。
名残惜しそうに私たちの唇をつなぐ細長い唾液。
それを拭うように彼は私の唇をペロリと舐めとった。

不死川先生に身体を支えられながら、ベッドに横にされる。

私の視界には見慣れた白い天井と、ほんのり顔を紅潮させた先生。


じっと見つめられ、気恥ずかしさから顔を横に逸らす。

「なまえ……」



苗字でも先生呼びでもない、名前で私を呼ぶ彼の声はとっても色っぽく感じる。



あぁ、もう早く、触って欲しい。

疼いた身体は自然と彼を求めてしまう。


『せんせっ...』


彼の首に腕を回し、軽く引き寄せ自らキスを強請ってみる。

それに驚いたのか、一瞬ビクッと身体が跳ねたのがわかった。
けど直ぐに彼は薄ら笑を浮かべ、再び顔を近づけてきた。



あ、始まる。


そう思った瞬間だった。






——ピンポーン





『っ...』
「ァ?」

二人の甘い空間も何もかもぶち壊す音が部屋に響いた。

ふと部屋の壁にかけてある時計に視線を向けると、時刻は9:00だった。
こんな朝に宅配ではないだろう。


そう思うが呼び鈴は鳴り止まない。


——ピンポーン、ピンポーン

『.....』
「.....」

連続で鳴らされるインターホンに、これは知人の訪問である事を薄ら予想させられる。
その後も何度か鳴ったインターホン。

訪問人は諦めたようで、音はピタリと止んだ。



だが次に部屋に響くのは、着信音だった
ベッド脇に置かれた鞄の中から籠もって聞こえている。

これは完全に知人だ。

インターホンを鳴らしたが出ないので電話をかけてきたパターンだ。


『……でます』


そう言い、私は彼の下からモソモソと這い出て鞄の中のスマホを手にした。

「あァ?...冨岡ァ??」

ディズプレイに表示された名前は【冨岡先生】

それを後ろから覗き込んだ不死川さんは声のトーンが下がったのがわかった。
家に来るわ電話も寄越すわ、何か緊急事態だろうか。

不死川先生には悪いが、取り敢えず私は電話に出ることにした。







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