苺牛乳


教科書忘れたら知らないやつと文通が始まった


幼い頃から厳しい家庭で育った俺達は純血で高貴な一族であると教えこまれてきた。そのせいかマグル=汚れた血と思うようになり、兄貴と一緒になってマグルのヤツらを心底嫌った。それは16になった今でも俺は変わらない。

魔法使いの家柄であるが故に魔法学校に通い、もう6年になる。面倒だか寮生活のため家の目がない分、楽に過ごせた。ある程度勉学が出来れば多少の悪さは学校側も目をつぶってくれたりする。(嘘)

特別何かある訳でも無く毎日があっという間にすぎていく日々、6年も同じところに居ればある程度の事は遊び終わってしまい最近は他の寮との喧嘩ぐらいしか楽しみがない。
俺は女遊びはあまりしないが兄貴は特に女遊びが激しい。俺はそこまで女に興味がないというかそもそも学校に通うほとんどの奴らはマグル出身者が多い。
そんな汚れた血とわざわざ絡む気にもなれない。昔は兄貴もマグルを心底嫌っていたが2年前くらいから女は別だと言い始めた。
俺には全員一緒に見えるけどな。まぁもちろんこんなこと兄貴には言えねぇけど。それくらい毎日に退屈していた。








「あれ、兄貴今日は珍しく早起きじゃん」

洗面台の所で兄貴と鉢合わせし声をかけた。

「ん〜、なんか目覚めちゃったんだよね〜竜胆も今日早くね?」

「俺はいつもちゃんと起きてるよ」

兄貴はいつも寝坊してそのまま授業をサボってたりする。その為弟である自分にたまには起こせと寮長や鶴蝶に言われるがそんな簡単に起こせたら苦労しないし出来たら初めからやってるよと抗議したくらいだ。兄貴が早起きなんて明日は雪かもしれない。まだ10月だけど。
珍しく早く起きているのだから兄貴の支度が終わるまで待っていようと寮のリビングで待っていると一向に兄貴が降りてこない。おかしいと思い部屋をノックした。

「兄貴?開けるよ」

返事がしないのでそのままドアを開けると制服を着たまま仰向けになってベッドで倒れている兄が居た。これは髪を結っている途中で眠くなりそのままベッドに倒れて2度寝したんだと直ぐに察した。
慌てて兄貴を叩き起こすとまるで休みの日のようにのんびりした返事が返ってきた。

「ん〜何?」

「授業始まるから早く起きろって!」

「あー」

「髪は俺がやるからほらとりあえず立って!」

「んー」

まだ完全に覚醒していない兄貴の髪をみつあみに結い、引っ張って教室へ向かう。自分は余裕で起きたのに寝坊した生徒みたいじゃないかと廊下を走りながら悶々と考えていた。
教室へ着くともう既に先生が居て授業も始まっているようだった。

「もー、兄ちゃんのせいで遅刻したじゃんか」

「えー、俺のせい?」

「そこの2人早く教室へ入りなさい」

廊下で話していると先生がこちらに気づいたのか早く教室へ入れと急かされた。
席に着くとあるものがないとそこで気がついた竜胆だったが兄を見るともちろん兄もそれを持っていない。どうしようかと考えていると後ろに座っていた鶴蝶が「そこの棚に生徒が以前忘れていった教科書が置いてあるぞ」と教えてくれた。持つべきものは優秀な友人だなと教科書を手に取ると隣で見ていた蘭が竜胆の手から教科書を奪いさっさと自分の席へ戻っていった。どうしていきなり兄がそんな行動をしたかというと竜胆が最初に取った教科書は2冊あるうちの1冊で綺麗な教科書だったのだ。残されたもう1冊の教科書は古びていて汚いボロボロの教科書だったから兄は俺から教科書を奪ったのだと直ぐにわかった。ため息をつきながら結局竜胆は汚い教科書を借りて席に着いた。


「では薬の調合について説明させていただく、今日はたくさんの薬を用意しました」

先生が何やら薬の説明をしているが俺はそんなつまらない話よりもっと面白いことがないかと考えながら先ほど本棚からとってきた汚い教科書をパラパラと捲ってみた。すると1番最後のページにその持ち主であろうなまえが記されていた。
【半純血のプリンセス】

「半…純血…?」

「竜胆〜どうした?」

「ん、別に何も」

自分がいきなり声を発したものだから隣にいた兄が反応したが別に大したことではない。確かにこの教科書の持ち主気にはなるけど。
先生が授業でやる実験について話しているときだった、後ろにいた鶴蝶が手をあげたのだ。

「はい、先生」

「君はえー」

「鶴蝶です、その薬はベリタセラムですよね?確かとても強力な薬なはずです」

「その通り、これはここで1番危険な薬と言えよう。
今日の授業で生ける屍の水薬を上手く調合したものにこの私特製の惚れ薬を褒美として与える。」

先生が惚れ薬と言った瞬間教室が騒ぎ始めた。それもそうだ、惚れ薬なんて中々作れないし手に入らない、薬の中でも作るのが難関で毎年誰かが事件を起こしてるくらいの代物だ。
みんな喉から手が出るほど欲しいのだろう。

「作り方は教科書10ページに載っている。言っておくが今まで担当してきた生徒でこの薬を完成させたのはたった1人しか居ない。それくらい難しい調合だ、ともあれ幸運を祈る。それでは始め」

先生が開始の合図をすると兄貴が面白がって鶴蝶に「そんなにあの薬がほしいなら俺が直々に女の口説き方教えてやるよ」なんて言うもんだから鶴蝶は「からかうな!」って怒ってたけど。
兄貴と鶴蝶のやり取りを聞きながら教科書へ目を向けると作り方の所に教科書の持ち主が書いたであろう材料の配分などが付け加えてあった。
別に薬なんて作れなくてもいいしどうでもよかったがあの薬を貰えたらいい暇つぶしになりそうだと思った。だが、ただ作るだけじゃきっと高得点はもらえないしあの薬も手に入らない。だったらこの教科書に書かれている通りに作業を進めたほうがいいんじゃないかなんて思った。こう見えても俺は頭は悪くない。でも薬学はあまり得意なほうじゃないからな、だからなんとなくここに書いてある通りにやったらうまくいくんじゃないかなんて思ったんだ。

教科書にはまず実を刻めと書いてあった。周りの生徒たち、もちろん自分の兄も含めみんな刻むのに苦労しているようだった。

「ん〜?何これ、全然刻めないんだけどこれ無理じゃね?なー竜胆〜?」

「……おい、竜胆それは潰すんじゃなくて刻むんだぞ」

「でも潰すって書いてあんだよ」

兄貴と鶴蝶には何言ってんだお前みたいな顔されたが俺の教科書にはそうしろと書いてあったしなんとなくだけどうまくいってる気がする。他にも本来であれば10個入れる実を12個とか水の量まで細かく訂正してあった。俺はその純血のプリンセスのいう通り薬を調合していき、完成したと先生に言えばクラスの奴らがこっちを見ながらひそひそ話していた。んだよ、別に俺だってやるときはやるんだよ、全員失礼すぎるだろ。

「何?完成したと。どれどれ………おぉ!お見事、こりゃたまげた。この薬を完璧に仕上げた者は君が2人目だ、凄い。優秀な君に約束通り惚れ薬をやろう、皆の者拍手を」

クラスメイトが拍手する中、兄貴は俺に近づきこっそり耳打ちしてきた。

「竜胆どうした?薬学苦手じゃなかったか?」

「んまぁ…」

「……その教科書だな!」

「は!?」

薬学が苦手な俺が難しい薬を作れたことに怪しんだ兄貴が突然俺が持っていた教科書に向かって飛びついてきた。

「やめろって兄ちゃん!何もねーよ!」

「隠すなんて益々怪しい…なぁ鶴蝶?」

「あぁ、俺も気になっていた。その教科書見せてくれないか」

「ぜってーやだ!この教科書古いから敗れたら困るし」

「竜胆ー?貸してみ?」

「兄ちゃんのそういうとこ嫌い!!」

「おい、蘭それは逆効果だぞ。竜胆、別に俺はちょっと見たいだけなんだ。少しでいい貸してくれないか」

「やだ、絶対やだ…あ!」

2人に気を取られていたせいで後ろの存在に気が付かなかった。
教科書はいとも簡単にイザナに取られてしまったのだ。

「みんなで楽しそうに何話てんだよ」

「イザナ!それ返せよ!」

「?これか?」

「大将、こっちにパスパス!」

イザナは教科書と俺と兄貴を交互に見ながら「ん〜…」とうなり始めた。

「…?イザナ?」

「えいっ!」

「え!投げた!?」

「嘘だろ!?」

あろうことかイザナが突然明後日の方向に向かって教科書を投げたのだ。
投げた先には先ほどの薬学の先生がいた。やばいと思い目をつむったがさすがは先生、教科書の存在に気が付き見事にキャッチした。おぉと感動していると先生がこっちに向かって歩いてきた。さすがに怒られるだろうと思い隣を見たら誰もいない。兄貴たちは俺を置いて逃げて逃げたのだ。本当そういうことだよ…とため息をついていると先生に話しかけられた。

「君か、教科書を投げたのは」

「あぁ…いや…」

「おや?君は確かさっきの優秀な生徒だね」

「灰谷竜胆っす」

「…なるほど、灰谷家の子だったか。それならあの薬を作れたのも納得がいくな。だが、教科書を乱暴に扱うのは関心しないな」

「すんません」

なんで俺が誤らないといけないんだ、そもそもイザナが投げたのに!まぁいいか無事戻ってきたし、でもこの教科書の持ち主はもうこの学園を卒業してるんじゃないか?これかなり劣化してるし。
先生に聞いたら何かわかるかもしれないと思った俺は立ち去ろうとしていた先生に声をかけた。

「なんだ?」

「先生は半純血のプリンセスって誰か知ってるか?」

「……その名をどこで」

「う、噂で聞いたんだ、誰なのか気になって…」

「そうか、その人はとても優秀な私の生徒だったよ。もう卒業してしまっているがな、だがこの学園にその孫がいる。探してみるといい」

「は…?」

先生は微笑みながら俺にそう話して去っていった。なんでその生徒のなまえを教えてくれなかったのかわからなかったがまだこの学園にこの教科書の持ち主がいるということはわかった。
ただ探すだけじゃ面白くない、そう思った俺はその教科書を棚に戻す前にある仕掛けをして教室をあとにした。






いい暇つぶしになりそうだ。









ーーーーーーーーーーー








教科書に仕掛けをして数日経った。今日は薬学の授業があるから早めに教室へいってあの教科書がどうなっているか確認しようと教室へ入った。

「よし、誰もいねーな…ん?」

棚には数日前、自分が借りた教科書がそのまま棚に置いてあったのだ。なんでまだ教科書がここにあるんだ、真面目な生徒なら教科書を取りに来るのが普通じゃないのかと教科書を手に取り席へ座った。
以前教科書にある仕掛けをしたそれが発動したらやばいと思いそうっと開けたが何も起こらなかったのだ。
俺は教科書を棚に戻す前に持ち主が本を開いたとき本から花火のようなものが出るよう仕掛けをしていたのだがそれが発動しない。そもそもこの仕掛けは持ち主以外が開くと本が噛みついてくるという仕掛けになっている。
だが、自分が開けたとき何も起こらなかったのは持ち主が開いたかそれとも他の誰かに呪文を書き換えられたかだ。
でも書き換えるなんてそんな簡単にできるはずがない。先生ならともかく生徒でそんなことができるやつはいないはず…。
だからこれは持ち主が開けたという可能性にかけたいが何か残ってないか教科書をパラパラとめくってみた。
すると一枚の紙が本から落ちた。四つ折りになって挟んであっただろうこの紙はおそらく持ち主が入れたもので間違いなさそうだ。紙を開くとそこには何も書いていなかった。
なんだ、ただの紙かなんて思いその紙を捨てようとした。でも以前教科書を開いたときにこんな紙は挟まれていなかった。だからこれはあえて教科書を置いて行った持ち主が挟んでいったものだから何かあるんじゃないかと思い捨てるのをやめその紙を見ながら考えた。
何か呪文がかかっているのかそれとも何か書いたら発動するのか…考えていると今から授業を受ける生徒たちが次々と教室へ入っていた。
その中にはイザナや鶴蝶もいて、俺を見つけるとイザナは俺の横に座ってきた。いつもは鶴蝶の隣なのに。

「竜胆じゃん、何お前来るの早くね?」

「ちょっと用があったから」

「フーン、蘭はー…また寝坊か?」

「たぶん」

「…さぼりもほどほどにしないとそのうち武臣にどやされるぞ。…あ、その教科書」

前のこともありとっさに教科書をかばうように持ちイザナを睨んだ。

「あはは、そんな睨むなよ。もう取ったりしねーよ」

「……ほんとかよ…」

「その紙は?」

「あぁ、これな、たぶんなんか仕掛けがあるだけど何かわかんなくてさ」

「ふーん、そういうことは蘭のほうが詳しいんじゃない?」

「…兄貴には絶対言わないで、なんか嫌な予感しかしないから」

「…わかった」

なんかわかってなさそうだけど…とりあえず何か書いてみよう。何も起こらなかったら燃やしたり濡らしたりいろいろ後でやってみればいい。
何を書こうか考えているとそのまま眠ってしまったのか気づいたら授業が終わっていた。もう夕方で誰も起こしてはくれなかったようだ。今はもう誰も教室には残っていなかった。
あくびをしながら起き上がると先ほどの自分を悩ませていた紙に文字が浮かび上がっていた。
なんで急に文字が出てきたんだと不思議に思っていると自分が座っている席にだけ夕日が差していたいたのだ。電気の光じゃ見えないが太陽にかざすと見える仕掛けになっていたらしい。
太陽にかざしながら紙に書かれている内容を読み上げるとそこには「素敵ないたずらをありがとうございます」とだけ。

「んだよ、素敵ないたずらって…普通怒るところだろ。なんだこいつ、おもしれーじゃん」

俺はその紙に「お前変なやつだな」とだけ残し教科書を棚に戻した。
教室を出ると廊下を走ってきた生徒にぶつかったのだ、文句の一つでも言ってやろうと顔を見ようとしたところその生徒は尻餅をついていたため顔がよく見えなかった。だが髪の長さやスカートを履いていたためすぐに女だとわかり、しかもグリフィンドールのローブを着ていたので嫌いな奴にぶつかってこられたとその女に向かって舌打ちをした。女は小さく「…すみません」とだけいい、さっきまで俺がいた教室へ入っていった。

せっかくいい気分でいたのにさいやくな目にあったなと廊下を歩く。
ぶつかった女を見て「そういやあの教科書の持ち主が男だったらやべーな」なんて今更になって気づいた。





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