善逸はヤキモチを焼く

初めての本気の恋に戸惑って、すれ違って、喧嘩して、嫉妬して、色々とあって少し遠回りしてしまったけど、お互いに想いを伝えあって、やっと両想いになって、晴れて恋人同士になることが出来た。
今まで女の子に騙されたり、利用するだけ利用されて捨てられて、散々な目に合ってきたのは、きっとこの日の幸せのためだったんだ。
7人もの女の子と付き合ってた割には手すら繋がせてもらえなかった。
だけどそれはもう過去のこと。
もうモテない男と泣く必要も無い。無駄に顔のいい男に嫉妬することもない。
これからは大好きな小羽ちゃんとずっと一生を生きていく。
ずっと守っていく。俺は今、世界一幸せな男なんだ。
俺は小羽ちゃんと恋人になれば、もう悩みなんてないと思っていた。






「――なのにこれはどういうことだろう。」


こんにちは我妻善逸です。
俺は今、とても不満です。何故かって?


「禰豆子ちゃんどう?私とお揃いだよ!」

「うー!」

「そう、気に入ってくれた?だったらその紙紐は禰豆子ちゃんにあげるね。」

「うーうー!」

「気にしなくていいんだよ?友達なんだから!」

「うー!」

(い"い"な"ぁ〜〜〜〜〜!!)


俺は目の前で繰り広げられる愛らしい天女たちの尊い戯れに血の涙を流していた。
小羽ちゃんが禰豆子ちゃんの髪を自分と同じように後ろで一つに結い上げていた。
禰豆子ちゃんはそれをとても気に入ってくれて、満足気に笑った。
小羽ちゃんも釣られるように嬉しそうに笑う。

嗚呼、なんて微笑ましくも美しい光景なんだろう。いいなぁ、混ざりたい。

何故俺はここで指をくわえて見ているだけなんだろう。
そもそも俺は小羽ちゃんをデェトに誘おうと思って来たんだ。
なのに小羽ちゃんときたら、「今は禰豆子ちゃんと遊んでるから無理」とか言って俺のことを放置してる。
だったら俺も混ぜて3人で遊ぼうと言えば、女の子同士の時間を邪魔するなと放り出された。

俺たち、恋人になったんだよね?小羽ちゃんは俺のこと好きなんだよね?なのに彼氏に対して冷たくないですか?

そして俺は拗ねた。縁側で仲良く同じ髪型にして楽しく戯れる小羽ちゃんと禰豆子ちゃんはとても可愛らしい。ずっと眺めていたい。
だけど俺は2人から少し離れた場所でそれを不貞腐れた気持ちで眺めてた。


「……ずるい。俺だって小羽ちゃんと遊びたい。デェトだってしたかったのに……」


禰豆子ちゃんには申し訳ないが、小羽ちゃんを独り占めされている今は、ちょっぴり、ほんのちょっぴりだけど嫉妬してしまう。
せめて俺も混ぜて欲しかった。
ブツブツと2人を恨めしげな目で見つめながら、不満そうに「羨ましい」「混ざりたい」「俺の小羽ちゃんなのに」とか文句を呪文のように呟き続けていたら、視線に気づいたのか、それとも俺の呟きが聞こえてしまったのか、小羽ちゃんが呆れたような顔で俺を振り返った。


「……善逸くん。気になるからそれやめて。聞こえてるし、そんなに見つめられたら視線で穴が開きそう。」

「うう、だって〜〜!!何で俺は混ざっちゃダメなんだよ〜〜!!酷くない!?あんまりじゃない!?俺だって小羽ちゃんを独占したい!!一緒に遊びたい!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


俺がみっともなく床に張り付いて泣き喚けば、小羽ちゃんがはあっと大きな、それは大きなため息をついた。
禰豆子ちゃんも「う〜」と何やら憐れむような音をさせてこちらを見ている。
やめて!なんかとっても悲しくなる!
でもいいもん!みっともなくても、カッコ悪くても、情けなくても、駄々をこねれば小羽ちゃんは俺を見てくれる。構ってくれるって分かってるから。


「しょうがないなぁ〜〜。いいよ、おいで善逸くん。」


案の定、小羽ちゃんは困ったように笑って、俺を手招きする。
その言葉に俺は待ってましたとばかりにガバリと勢いよく顔を上げた。


「えっ!!俺も混ざっていいの!!」

「いいよ。……というか善逸くん、今のはちょっと計算してやってなかった?」

「(ぎくり)えっ!!いいいいや!!そそそ!!そんなことは!!」

「ふっ、わっかりやすいなぁ〜善逸くんは!」


図星をさされて、焦るあまり俺がどもりまくると、小羽ちゃんは可笑しそうにクスクスと口元に手を当てて笑い出す。
小羽ちゃんが笑ってくれる。理由はかなりあれではあるが、それをさせたのが俺だと思うとすごく嬉しくなって、俺はスキップして2人の元に駆け寄った。


「うへへへ〜〜!嬉しいなぁ!何して遊ぶ?花畑行く?俺、2人のためにがんばってとびっきり綺麗な花冠作っちゃうよ〜〜!」

「うーー!」

「ふふ、禰豆子ちゃんは賛成みたいだね。」

「じゃあ決まり!!俺、張り切っちゃうよーー!!」

「程々にね?」


呆れたように笑う小羽ちゃんの言葉に、うんうんと同意するように頷く禰豆子ちゃん。
だけど俺は、これから両手に花状態で天国を味わうことになるのに有頂天になっていて、まったく気にならなかったのだった。

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