第22話「善逸、魂の叫び」

「小羽!」

「こ、小羽ちゃん!!ぎゃあーーっっ!!久しぶりぃ!!会いたかったよぉっ!!元気だったぁ!!?相変わらず可愛いねぇ!!俺と結婚しよう!!」

「ああ"っ!?何どさくさに紛れて俺の妹口説いてんだ!!」

「何だぁ!?この女っ!!」

「炭治郎くん久しぶり。善逸くん、私は結婚しないよ。お兄ちゃんは落ち着いて。そこの猪くん、私は信濃小羽。そこの清隆お兄ちゃんの妹だよ。どうぞよろしく。」


にっこりと笑顔で一人一人の言葉に返事を返していく小羽。
やかましく騒ぐ四人組に賑やかだなぁとのんきな感想を抱きつつ、小羽は笑っていた。


「お召し物の着心地はどうでしょうか?お食事の用意ができております。」

「あっ、とっても肌触りが良くて動きやすいですよ。ご飯も美味しいです。」

「それはようございました。」


小羽が笑顔でひささんの問いに答えると、彼女は嬉しそうに微笑んで一礼して去って行った。
何故か善逸だけがひささんを妖怪扱いして怯えていたけれど、先に食事を始めていた小羽と合流して、四人も食事を取ることになった。


バクバクモグモグ

バクバクモグモグ

「……箸使えよぉ〜」

「嘴平くん、誰も取ったりしないんだから、もう少しゆっくり食べた方が……」

「ふん!!」

「「あっ!!」」


伊之助は食べ方がめっぽう汚く、箸の使い方を知らないのか素手でご飯を掴んで食事をしていた。
そして昼間の一件で炭治郎に目をつけているのか、炭治郎の食事を横から奪い取ったりしてニヤニヤと笑みを浮かべては挑発していたのだが……


「そんなにお腹が空いているならこれも食べていいぞ。」

「ムキーーっ!!」


炭治郎には全く挑発になっていなかった。
それどころかまるで手のかかる弟を見る眼差しで微笑ましそうに笑いかけられ、自分の煮物も食べていいぞと、とても優しい笑顔で渡されたのであった。
つまりは全く相手にされていないのだ。


「何で怒らねーんだよ!!」

「え?」

「嘴平くん、ちょっと落ち着いて……」

「俺の名前は伊之助だ!!」

「ああ、うん。じゃあ伊之助くん……「君なんてつけんな!!」

「……伊之助。ご飯は静かに食べようね?」

「うっせーわ!!」

「……そうか。お前は静かにすることも出来ないのか。俺は出来るぞ。黙って食事くらいは余裕でな?」


清隆が伊之助の挑発に乗せられやすい性格を利用して、わざと挑発するように言えば、案の定伊之助は青筋を浮かべて乗ってきた。


「ああ"っ!?静かに食事くらい出来るわボケ!!」

「そうか。ならやって見せてくれ。」

「上等だぁ!!」


そんな感じで後半はとっても静かに夕食を済ませ、ひささんが呼んでくれた医者に炭治郎たち三人を診てもらったところ、なんと三人共それぞれ肋や脚の骨が折れているなどの重症であった。
小羽も伊之助に殴られた時に軽く打撲ができていたが、大したことはないとのことだった。


「まさか三人共肋が折れているなんて……」


速攻で布団に寝かされた三人の介抱をしながら、小羽は呆れたように呟く。


「肋より、コブがいてぇ……」

「ごめん。」

「お前……俺に謝れよな。痛かったんだぞ。ボカスカボカスカ蹴りやがって。謝れ。」

「断る。」

「謝れよ!!」

「断る!!」

「謝るんだ!!」


炭治郎に言われても、頑なに善逸に謝ることを拒否する伊之助に、善逸は不満そうに言った。


「そんなんじゃ、もうご飯を一緒に食べてやんないぞ!」

「はあ?何だそりゃ?」

「ご飯はみんなで食べた方が美味しいんだぞ。」

「そうだぞ。」

「そうだね。」

「確かにな。」

「……お前等、頭大丈夫か?」

「お前に言われたくねぇ!!」

「あーもう!三人共重症なんだから大人しく寝てなよ!」


小羽の一喝で騒がしくなりそうだった会話も強制終了された。



************



「――……炭治郎。誰も訊かないから俺が訊くけどさ。鬼を連れているのは、どういうことなんだ?」


やがて、善逸が重い口を開くように炭治郎にその話題を振ってきた。
炭治郎は善逸に鬼の存在が気付かれていたことに少しだけ驚いた様子だったが、それを分かっていてあの時、伊之助から木箱を守ってくれたのだと分かり、感動した様子で善逸を見つめた。


「善逸……分かってて、庇ってくれたんだな。善逸は本当にいい奴だな。ありがとう。」

「おまっ!!」


炭治郎の心からの素直な言葉に、善逸は照れくさくなったのか、真っ赤になった。
そして恥ずかしそうにくねくねと体を捩って床を転がった。


「そんな褒めてもしかたねぇぞぉ〜〜!!うふふ、えへへ!!」

「俺は鼻が利くんだ。最初から分かってたよ。善逸が強いのも、優しいのも……」


すると途端に善逸は照れるのをやめて急に真顔になった。
そして責めるような目で炭治郎を見つめると、淡々とした口調で言ったのだ。


「いや、強くはねぇよ。ふざけんなよ。お前が正一くんを連れて行くのを邪魔したのは、許してねぇぞ。」

「えっ……」

(まだ根に持ってたのか……あれは善逸くんが自分で倒したんだって言っても、彼は信じないんだろうなぁ〜……)


小羽は心の中でそう呟きながら、呆れた眼差しで善逸を見ていた。すると……


カタリ

「「!!」」


突然禰豆子の入った木箱が音を立てた。
どうやら眠っていた禰豆子が起きて外に出ようとしているらしい。


「ヒッ!!うわっ!!うわっ!!出てこようとしてるぅ!?出てこようとしてるぅ!?」

「大丈夫だ。」

「何が大丈夫なの!?何が大丈夫なの!?ねえ!?ねえ!?」

「し〜!夜中なんだよ善逸くん。」

「だって!!だって!!」

「うっさい!!大丈夫だから静かにしてろ。」

「何で二人共冷静なの!?」

「あの木箱の中にいる鬼は大丈夫だから……」

「何が大丈夫なの!?鬼なんだよ!?」

カタン、カタリ……


そして、木箱の扉がゆっくりと開かれた。


「ギャアアアアーーー!!鍵かかってないんかい!!」

「しーー!」

「ままままま守って!!俺を守って!!伊之助でもいいからぁ!!」

「こっち来んなっ!!」

ゲシッ!!

「ぐひっ!!」


伊之助に助けを求めて彼の布団に駆け寄れば、善逸は間髪入れずに蹴られ、ゴロゴロと床を転がった。
そして運が悪いのか、木箱のすぐ横に転がると、扉がギィっと音を立てて更に開かれた。
それに善逸はますますパニックになった。


「ででで出たぁぁぁっっ!!隠れなきゃ!!隠れなきゃ!!」

「善逸落ち着け。」

カタン、カタ……キィ……


木箱の扉が大きく開かれ、禰豆子が様子を窺うようにひょっこりと顔を出した。


「…………へ?」


善逸の想像していた鬼とは違ったのか、禰豆子を見た善逸はきょとりと目を丸くした。


「禰豆子。」

「禰豆子ちゃんおはよう。」

「禰豆子ちゃん。」

「む〜」


炭治郎と清隆たちに名を呼ばれた禰豆子は、目を細めて挨拶をするように声を出した。



善逸side


――えっ、何これ。どういうこと?

何で箱から出てきた鬼があんな可愛い女の子なの?

つまりはそういうこと?

炭治郎とあの女の子は恋人同士で、何でか知らんが一緒に旅してて。

俺は炭治郎がきゃっきゃうふふと恋人といちゃつく為にボコられたのか?

いや、女の子を守ったのは後悔してねぇよ。してないけど……

なんか腹立つわぁ〜〜〜っっ!!


「善逸、紹介するよ。禰豆子は俺の……」

「炭治郎」

「へ?」


善逸に地の底から絞り出したような低い声で名を呼ばれ、炭治郎はきょとりと目を丸くした。


「お前……いいご身分だな……!!!!」

「え?」


善逸の目は血走り、まるで親の敵を見るような憎々しげな目で睨まれる炭治郎。


「こんな可愛い女の子連れてたのか……こんな可愛い女の子連れて毎日うきうきうきうき旅してたんだな……」

「ぜ、善逸?」

「善逸くん、違っ!」

「俺の流した血を返せよ!!!俺は!!俺はな!!お前が毎日アハハのウフフで女の子といちゃつく為にがんばった訳じゃない!!そんなことの為に俺は変な猪に殴られ蹴られたのか!?」

「善逸落ち着け。どうしたんだ急に……」

「鬼殺隊はなあ!!お遊び気分で入る所じゃねぇ!!お前のような奴は粛清だよ!!即粛清!!」

「お、おい落ち着け!!お前は多分勘違いをしている!!」


清隆が善逸に落ち着くように言って宥めようとするが、善逸の怒りは収まらない。
仕舞いには自分の日輪刀を抜刀し、炭治郎に刀を向けてきたのである。


「鬼殺隊を!!!舐めるんじゃねえぇぇぇっっっ!!!!!」


善逸の魂の叫びは、屋敷中に響き渡るほど喧しかったという。

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