第24話「善逸、心に決める」

「小羽ちゃぁ〜〜ん!!」

「……善逸くん。」


翌日になると、善逸が朝からデレデレとした顔で小羽に声を掛けてきた。


「おはよう小羽ちゃん!」

「おはよう善逸くん。」

「今日も可愛いね!俺と結婚しよう!」

「ありがとう。でも結婚はしないかな。」


まるで挨拶するように求婚してくる善逸に、作り笑いを浮かべてサラリと流す小羽。
それを見ていた清隆がギロリと般若のような形相で善逸を睨みつけ、善逸は「ヒィ」と悲鳴を上げて体を震わせた。


「小羽に近付くなこの女ったらし!!」

「お兄ちゃん、善逸くんは女の子が好きなだけで、別にたらしじゃないよ?」

「妹と禰豆子ちゃんに近付くなこの尻軽め!!男ならたった一人の女性に一途であるべきだ馬鹿野郎!!」

「ギャアァァァアーーーー!!!殺されるぅぅ!!!」

「善逸は朝から元気だなぁ。」

「うるせえだけだろ。」

「むー。」

「小羽ちゃん!助けてぇ!!」

「えー……」

「ねね、禰豆子ちゃぁん!!」

「む〜?」

「妹だけでは飽き足らず、俺の禰豆子ちゃんにまで……男が女に助けを求めるな!!馬鹿野郎!!そんな軟弱な根性は叩き直してやる!!」

「ヒェェーーー!!」


清隆はスラリと日輪刀を抜くと、それこそ鬼のような血走った目で善逸を追い掛け回し始めたのである。
泣き喚きながら清隆から逃げ回る善逸を呆れた眼差しで眺めながら、小羽はのんびりとお茶を啜ったのであった。



***************



「へぇ〜、じゃあ小羽と善逸は最終選別の時に一緒に行動してたんだな。」

「うん。初日に逢ってね。色々あって最終日まで一緒に行動してたの。」

「あの時は本当に助かったよなぁ〜、ありがとう小羽ちゃん。」

「どういたしまして。」

「まさか小羽ちゃんとお兄さんが炭治郎と同門だったなんて驚いたわ。」

「おい、誰がお義兄さんだ。誰が!!」

「ヒィィィ!!聞き間違いだよォ!!」


善逸はもはや涙目である。
それからなんとも騒々しい朝食を終えた小羽たちは、各々自由に時間を過ごしていた。
炭治郎はひささんのお手伝いを。伊之助は療養中にも関わらず勝手に体を鍛え始め、清隆は禰豆子の眠る木箱にひたすら話し掛けていた。
そして……小羽と善逸はというと……


「それでね〜小羽ちゃん!あの時炭治郎がさあ〜……」

「うんうん。」


縁側でだべっていた。
善逸がよく回る舌でひたすら小羽に今まであった出来事を面白おかしく語って聞かせ、小羽はそれを笑顔で黙って聞いていた。
時々相槌を打ってはいるが、実は殆どの話の内容は小羽に筒抜けの事であった。
チュン太郎という仮の姿で善逸とはずっと行動を共にしてきたので、彼の行動は大抵把握してしまっている。
けれどそれを話す訳にもいかず、小羽は素知らぬフリをして話しを聞いているのであった。


(ごめんね善逸くん……)


心の中でそっと謝っておく。


「――善逸くんは、いつも楽しそうに話してくれるよね。」

「そうかな?あっ、それでね、この前チュン太郎がさぁ〜」

ドキッ


チュン太郎の話題が出て、小羽の鼓動が跳ねた。
ドキドキと無意識に鼓動が速くなってしまう。
善逸は小羽の正体がチュン太郎だとは気付いていない。
けれど、隠していることに罪悪感を感じている小羽には、とても居心地の悪さを感じる話題であった。


「チュン太郎って言うのは、俺の鎹雀で、何でか俺だけ鴉じゃなくて雀で……どうかした?小羽ちゃん。」

「えっ!?」


善逸に急に心配され、小羽は驚く。


「……なんか、すごく心臓の音が速くなってるよ?もしかして具合でも悪い?」

「そ、そんなことないよ!?大丈夫。ありがとう!」

「……そう?」

(あっ、危なァ〜〜、善逸くんは耳が良いから、ちょっとした変化にも気付いちゃうんだな.......)

「そういえば、まだ小羽ちゃんにはチュン太郎見せてなかったよね。今度見せてあげるね!」

「えっ……う、うん。」


――善逸くん、それは無理です。
まさか自分がそのチュン太郎だとも言えず、小羽は心の中で呟く。


(――……やっぱり、善逸くんには本当のことを話した方がいいんじゃ……)


鎹一族の存在は柱や一部の隊士しか知らない秘密である。
だけど、人の心の変化を"音"という形ですぐに感じ取ってしまう善逸には、いつまでも隠し通せる気がしないのだ。
小羽の勘も話した方がいいと告げている。
小羽は悩んだ。


「――ちゃん……小羽ちゃん?」

「――えっ!?」

「大丈夫?ぼうっとしてたけど……(ハッ!)俺の話しつまんなかった!?ごめんねぇーー!!」

「やっ!大丈夫!ごめんね。ちょっと考え事してて……」

「ほんとぉ?俺が嫌とかじゃなくて?俺と話すのが嫌とかじゃないよねぇ〜〜〜!!?」

「ちっ、違うよ!善逸くんは卑屈に捉えすぎるってば!」

「うう、だってぇ〜〜!!俺は小羽ちゃんと話すの楽しいよ!!すっごく楽しいよ!!小羽ちゃんが笑ってくれるとすっごく幸せな気持ちになるし!!小羽ちゃんはこんな俺にも優しくしてくれるし!!いい匂いはするし、可愛いし!!すっごく好きなんだ!!結婚したいくらいに!!」


泣きながら告白してくる善逸に、小羽は言葉に詰まってしまう。
困ったように眉尻を下げると、苦笑を浮かべた。


「……ありがとう。でも善逸くんは、相手が女の子なら誰でもいいんでしょ?そういう大切な言葉は、本当に大切にしたいと想える好きな女の子と出会える時までとっておかなきゃ。」


小羽がそう言うと、善逸は一瞬驚いたように目を大きく見開いて固まった。
するとみるみるうちに顔を歪めて、ぶわっと大粒の涙を再び流し出したのである。


「俺、俺!!俺は確かに女の子好きだけどぉーー!!大好きだけど!!そうじゃなくて!!そうじゃなくて!!小羽ちゃんは一目惚れで、本当に特別で!!」

「……でも、他の女の子にも同じこと言ってるでしょ?禰豆子ちゃんとかはまだ求婚してないみたいだけど……(お兄ちゃんに邪魔されてたし。)」

「何で知ってんの!?あっ!!炭治郎か!!あいつ余計なこと!!……いや!!そうじゃなくて!!他の女の子達に求婚を迫っちゃったのは、死ぬのが怖くて、焦っちゃって!!とにかく誰でもいいから結婚したかったからで……あっ!!やだ待って!!そんな冷めた目で俺を見ないで!!違うんだよぉぉーー!!俺!!俺!!結婚するなら小羽ちゃんがいい!!今まで会ってきた女の子で、小羽ちゃんが一番俺に優しくしてくれたんだ!!本当に一目惚れなんだよぉーー!!」

「ね、禰豆子ちゃんは?」

「禰豆子ちゃんは確かに可愛いけど、俺は小羽ちゃんがいい!!小羽ちゃんが結婚してくれるなら、俺、もう他の女の子とか見ないから!!一途になるから!!」

「で、でも……」

「わかった!!俺もう小羽ちゃん以外の女の子に求婚しない!!小羽ちゃん一筋でいく!!小羽ちゃんが俺を信じてくれるように、毎日小羽ちゃんに告白するから!!」

「え、ええーー!?ちょっと待って善逸くん!一旦落ち着こう!?」

「うん!!俺決めた!!決めたよ小羽ちゃん!!」

「話聞いて!!?」


何故だ。何がどうしたらそんな結論になるんだ善逸くんよ。
小羽が戸惑う中で、すっかり決意してしまったらしい善逸が小羽の手を取った。
汗ばんだ両手で小羽の手をぎゅっと包み込む。


「小羽ちゃん!!俺と結婚して!!」


ギラギラと血走った目で、荒い息で、とても雰囲気もクソもない状況で、善逸は今日二回目のプロポーズを叫ぶのであった。

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