第30話「絶対に死なせない」

罪悪感と自己嫌悪で、胸が苦しくなる。
心が押し潰されそうだ。
もしもこのまま善逸くんが死んでしまったら、私は私を許せなくなりそうだ。
胸がかきむしられたみたいに痛い。


「ごめん……ごめんなさい。善逸くん……」


ただ、謝ることしかできない。
そんな行動に意味はないと分かっているのに……


「……かはっ!」

「っ!?善逸くん!?」


善逸くんがまた血を吐いた。
呼吸も荒々しく、とても苦しそうだ。


(――今は泣いてる場合じゃない。善逸くんを助けなきゃ。)


私の自責の念なんて今はどうでもいい。
このまま善逸くんを死なせては駄目だ。
私は目に溜まっていた涙を隊服の袖で少々乱暴に拭うと、自分を叱咤するように、自分の両頬を思いっきり叩いた。
パンッと、とても良い音がした。


「――善逸くん、よく聞いて。まずは呼吸を整えて。呼吸を使って、少しでも毒の巡りを遅らせるの。……できる?」

「…っ」


スーハーと、善逸くんが浅く呼吸を始めた。

うん、基本的な呼吸はちゃんとできてる。
これで少しは毒の巡りを遅くできる筈。問題は……

解毒薬なんて何処で手に入れればいいのだろう。
それも鬼の毒だ。普通の毒とは違う。


(そうだ……)


その時、私の脳裏に一人の人物が思い浮かんだ。


(あの人なら、きっと善逸くんを助けられる。)


蟲柱、胡蝶しのぶ。現役の柱の一人であり、毒のエキスパートである。
彼女は「蟲」の呼吸という独自の呼吸法の使い手で、自身が作った鬼を殺せる特殊な毒を使う。

そんなしのぶさんなら、きっと善逸くんも助けられるだろう。
ここから全速力で蝶屋敷まで飛んで、しのぶさんを連れて来るまでどれだけ掛かるだろう。

ううん、今は考えるよりも行動しろ! 


「カー!」

「!」


その時、不意に空から一羽の鴉が飛んできた。
私はその鴉に見覚えがあった。


(!、しのぶさんの鎹鴉!?)


鴉は私の肩にとまると、甘えるように嘴を擦り寄せた。


「君が此処にいるってことは……来てるの!?この山に、しのぶさんが!」

「カー!しのぶ来テル!柱、二人!しのぶト富岡!」

「義勇兄さんも来てるの!?」


まさか柱が二人も来ているなんて……
この山にはもしかしたら、十二鬼月がいるのかもしれない。
それも同門の兄弟子としのぶさんだ。
運がいい。今まさに来て欲しいと願っていた人物がすぐ近くまで来てるなんて。
私は善逸くんの手を再び取ると、励ますように力強く握り締めた。


「待ってて善逸くん。今助けを呼んでくるから!」

「……っ」


私がそう言うと、善逸は苦しげだが、しっかりと頷いてくれた。
自分を信じてくれてる。
その事にまたじわりと目尻が熱くなったが、私はしっかりと善逸くんの手をぎゅっと握り締めると、そっと離した。


「絶対……絶対助けるから!」


私はそう力強く言うと、雀の姿に変化して山の奥へと飛び去って行った。
一刻も早くしのぶさんを探して連れて来なければ。

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