第35話「鎹鴉の一族」

清隆side

お館様はやっぱり凄い方だ。
鬼舞辻の尻尾を掴める可能性のある炭治郎たちを生かすためにと、柱たちを説得する話術。
そしてこれから先、大変な思いをして十二鬼月と対峙しなければならなくなった炭治郎を気遣う優しさ。
あの方が俺たちのお館様で本当に良かった。

お館様が認めろと言っているのに、何度も口答えした上に、禰豆子ちゃんが人を襲うようにわざと何度も何度も刀で無抵抗の禰豆子ちゃんをぶっ刺したあのイカれ暴走の不死川のクソ野郎も、流石にお館様に注意されて最後はしょんぼりとしていた。 ざまぁみろ。
まあ何はともあれ、禰豆子ちゃんの存在は柱公認となったし、色々と問題は山積みだが、一先ずは無事に裁判を終えることができた。

かくいう俺は今、那田蜘蛛山で負傷した身体を治療するために蝶屋敷に向かっている。
本当なら、本部で那田蜘蛛山での一件を報告しなければならないのだが、身体の怪我を心配した小羽に報告は伊之助の鴉と自分がするので、さっさと治療してもらえと追い払われてしまったのだ。








――蝶屋敷――


「苦い!!やっぱり苦いよこの薬!!もう少しどうにかできないの!!ねぇ!!ねぇお願いだから!!」

「善逸!!病室だぞ静かにしろ!!」


蝶屋敷に着くと、すぐに聞き慣れた喧しい声が聞こえてきた。

善逸か……あいつ確か毒にやられて蜘蛛になりかけたんじゃないの?
一番重症なんだろ?一番元気じゃね?
炭治郎もあいつ等のお守りで大変そうだな。
本当にいい奴だよあいつは。

そんなことをしみじみと思いながら、俺はあいつ等のいる病室へと足を踏み入れた。


「よっ!蜘蛛になりかけたって聞いてた割に、元気そうだな。」

「「清隆!?」」


炭治郎と善逸の声がハモる。仲良いなお前ら。


「今日から俺もお前らと同室で治療を受けることになったから、よろしくな。」

「そうなのか。さっきは俺と禰豆子を庇ってくれてありがとうな、清隆。」

「いーていーて。それよりもお前の頭突きは気持ちよかったなぁ〜。ざまぁみやがれってんだ!」

「あと三回はやりたかったぞ俺は。」

「……何の話?てか清隆!小羽ちゃんはどうしたんだよ!一緒じゃないの!?」

「小羽?あいつは今本部に報告に行ってて……」

「何で一緒じゃないんだよ!!俺、小羽ちゃんに訊きたいこといっぱいあったのに!!」

「あっ、俺も清隆たちに訊きたかったんだが、その……」

「――俺たちが鴉に変化できるってことか?」


炭治郎が訊いていいものか躊躇って、言い出せずにいると、なんともあっさりと清隆の方から本題の話題に触れてきた。


「そうだよ!!小羽ちゃんが雀になったんだ!!チュン太郎が小羽ちゃんで!!小羽ちゃんがチュン太郎だったんだよ!!ねぇどういうこと!?ねぇどういうこと!?てか鴉ぅ!?えっ、何!?清隆も鳥に化けられんの!!?どーなってんの!?どーゆーこと!!?説明してよ!!!」

「……お前、相変わらずよく喋るな。よく舌噛まずに、且つ、一息つかずに喋れるもんだよ。別にいーけどさ。最初から説明するつもりだったし、隠すのもそろそろ限界だったしな。」

「清隆……」

「どっから説明すっかなー……」


清隆は「俺説明すんの下手なんだよなー」と後ろ頭を掻きながら話し始めた。


「俺たちの母親がな、鎹一族っつー昔から産屋敷家に鎹鴉として仕えてきた一族の出身なんだ。」

「産屋敷?鎹一族?」

「産屋敷家ってのは、俺たち鬼殺隊の頭であるお館様の家のことだ。
鎹一族は鎹鴉の一族。伝達や情報収集を役割とする鎹鴉を育てることに長けた一族で、一族の者自身も鴉に変化する能力を持っているんだ。
だからその一族の血を引く俺と小羽も鴉に変化できる。因みに鳥の言葉もわかるぞ。」

「えっ、でも……小羽ちゃんは雀だったけど?」

「……それ、本人には言うなよ?小羽の奴、一族の中で自分だけ鴉に変化できないこと気にしてるから……」

「そうなのか?」

「ああ、何でかわかんねーけど、小羽だけが鴉になれなかったんだ。小羽が何度練習しても雀になってしまって、そんなこと一族の歴史でも初めてのことだったらしいから、あいつもかなり気にしててな。一族からもよく思われてないし、触れないでやってくれ。」

「わ、わかった。」

「なぁ、鎹一族は鴉にしか変化できないのか?てか、そもそも何で変化できんの?」

「鴉にしか変化できないみたいだぞ?まあ、小羽みたいな例外が今はいるが……基本は鴉のみだ。何で変化できるかは……知らん!!」

「知らねーのかよ!!」

「一族の文献では、八咫烏っつー神様の末裔だとか書かれてるけど、そこんとこ俺もよく知らねーんだよ。色々と曖昧になってるんだよな。なんせ千年以上も昔のことだし。長なら何か知ってっかもだけど……」

「千年!?鬼ってそんな昔からいんの!?」

「――あっ、これ内緒な。鬼舞辻が鬼になったのがそれくらい昔らしい。鎹一族の存在は柱とか、一部の人間にしか知られてねーし、あまり広めないでくれ。」

「そんな重要なこと、俺たちに話してよかったのか?」

「いーんだよ。まあ本来はお前等が柱にでもなってから教えることだったんだが、炭治郎と善逸は鼻とか耳がいいだろ。だからきっと隠し続けるのは難しいだろうって、小羽と前々から話してたんだ。だから、丁度良かったよ。」

「そうなのか?だったらいいんだが……」

「ああ、だから気にしないでくれ。それよりも……
さっきからひとっことも話さずに大人しくしている伊之助が気になって仕方ねーんだけど。どうした?」

「…………」

「あっ」


炭治郎たちの話によると、伊之助は喉を盛大に痛めているらしい。


うん、まあそうだよな。
あの巨大な鬼に首をこう、ガっとやられてたし。
お前を置いていった時にめっちゃでけー声で叫んでたもんな。


でも喋らないのはそれだけが理由ではないらしい。
炭治郎たちも理由はわからないが、何故かひどく落ち込んでいるんだとか。


「……大丈夫か伊之助?怪我が痛むのか?」

「……キニシナイデ。」

「あの時、助けてやれなくてごめんな。俺がもっと強かったら、義勇兄さんが来る前に助けてやれたのに……俺までやられちまって。」

「……イイヨ。オレモヨワカッタカラ……」

「……本当に伊之助だよな?」

「……ヨワクテ、ゴメンネ……」


本当にどうした?
大人しすぎてもうお前誰だよ状態だぞ?

本当に伊之助本人だよな?
被り物の中身、本物か?

すげー落ち込んでて絡みにくいんだけど……


その後、俺は炭治郎と善逸と協力して、必死に伊之助を励ました。
けれど伊之助は落ち込んだままだった。

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