第36話「傷口に塩を塗り込むのはやめましょう」

善逸視点

小羽ちゃんが会いに来ない。
俺たちが蝶屋敷でお世話になり始めて五日が経った。
毎日毎日とんでもなく苦くて不味い薬を飲まされて、毎日毎日泣いている日々を送る中、小羽ちゃんに会いたくて会いたくてしょうがなかった。
俺は小羽ちゃんが俺に会いに来てくれるのを楽しみにずっと待っていた。
……いたのだが……


「会いに来てくれないんですが……」

「善逸……」

「全然、ちっとも、これっぽっちも姿を見せてくれないんですが。ねえどういうこと!!ねえどういうこと!!もう五日も経ってるんですけど!!五日もだよ!!小羽ちゃん本部に行ったまままだ帰って来ないの!?五日も!?まだ柱合会議やってんの!?ありえないよね!!えっ、じゃあ何!?小羽ちゃんが俺に会いに来てくれないのって俺を避けてるの!?俺嫌われたの!?イヤァァァァーーー!!!俺何かした!?何かした!?
あっ、そういえば俺、小羽ちゃんがチュン太郎って知らなくて可愛くないとか言っちゃった!!そりゃ避けられもしますよ!!あっ、待って!!小羽ちゃんがチュン太郎だったってことは、俺今まであの子の前で他の女の子口説いてたってこと!?イヤァァァーーー!!なかったことにしたい!!今すぐ記憶から消したいぃーーー!!」

「落ち着け善逸!静かにするんだ!ここは病室なんだから騒ぐと迷惑になるだろ!」

「そうだよ静かにしろよ。またアオイに叱られるぞ。心配しなくても小羽は最初から善逸に期待なんてしてないし、お前のこと好きでもないから安心して嫌われろ。」

「い、イヤァァァ!!そんなのってそんなのって!!」

「コラ清隆!!嘘を言うな!!」

「嘘じゃねーよ。現に小羽は善逸を避けて会いに来ないじゃん。嫌われたんだよ。残念だったな善逸。確かに小羽は美人でその上可愛くて、気立てもよくてしっかりした俺の可愛い自慢の妹だが、善逸とは縁がなかったのさ。お前は良い奴だけど、小羽とは結ばれない運命だったんだ。まあそう落ち込むな。次はいい出会いがあるって!」


清隆が善逸を励ますように肩を叩く。
けれどその顔はこれ以上ないくらい輝いた笑顔であった。


「うわぁぁぁーーー!!おまっ!!ふざけんなよぉぉ!!いくら小羽ちゃんのお兄さんだからって言って良い事と悪い事があるぞ!!そんな、そんないい笑顔でなんてこと言うんだよォ!!マジでありえないわ!!ひどい!!俺の傷ついた心を余計に抉るなよォ!!傷口に塩を塗り込んでるんだぞ!!もう泣きたいわ!!」

「もう泣いてんじゃん。」

「だ、大丈夫だ善逸!まだ小羽が善逸を避けていると決まった訳じゃないんだ。きっと何か事情があるんだよ。」

「事情って何だよ事情って!!」

「さ、さあ?」


いつも騒がしい善逸だが、今日は特にうるさい。
小羽が絡んでいるからか、取り乱し具合が半端ないし、いつにも増して情緒不安定で気持ち悪かった。
そんな善逸にドン引きしながらも、優しい炭治郎はちゃんと話を聞いてやる。
そして清隆はここぞとばかりに善逸にわざと酷いことを言って、彼の心の傷を抉った。それはもうグリグリと容赦なく。
可愛い可愛い妹にまとわりつく悪い虫は全力で排除するのみである。


「――俺、嫌われてんのかな。やっぱり……」

「うん、嫌われてる嫌われてる。だから小羽のことはきれいさっぱり諦めろ。」

「やめろ清隆!妹に変な虫をつけたくない気持ちは分かるが、可哀想だろ!」

「…………」


善逸がハアっと盛大にため息をつく。
どんよりとした空気を全身に纏い、悲壮感漂う背中でしょんぼりと膝を抱えた。
そんな善逸を炭治郎はなんとか励まそうとする。


「大丈夫だ善逸!小羽は善逸を嫌ってない!そんな匂いしなかったし、きっと忙しいだけなんだ!」

「……そうかなぁ?」

「きっとそうだ!なんならしのぶさんに訊いてみよう!」


炭治郎が笑顔でそう提案してきたので、善逸は小さく頷いたのだった。

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