第46話「機能回復訓練」

善逸が倒れてから数日が経った。
毒の副作用で熱が中々下がらなかった善逸も、今ではすっかり元気になり、毎日騒いでいる。
そんなある日、村田さんが炭治郎たちのお見舞いにやって来た。


「よっ!元気そうだな!」

「村田さん!来てくれたんですね!」


那田蜘蛛山で炭治郎と伊之助と共に戦った村田の元気そうな姿に、炭治郎は嬉しそうに顔を綻ばせた。
サラサラなストレートヘアーを靡かせて、村田は笑顔で持って来ていたお土産の饅頭を差し出してきた。


「これ、饅頭なんだけどみんなで食べてくれ!」

「ありがとうございます!」

「……炭治郎。この人誰?」

「あっ!そうか、善逸と小羽と清隆は初対面だったな!
那田蜘蛛山で一緒に戦った村田さんだ!村田さん、こっちは俺の同期の善逸と小羽。その兄の清隆です。」

「おお!村田だ。よろしくな!」

「「ど、どうも……」」


笑顔でこちらに手を振るう村田に、小羽たち三人は軽く会釈して応えた。
話によると、村田は那田蜘蛛山での仔細報告のために柱合会議に召喚されたらしい。
どんよりと暗い影を背負って疲れたように語る村田の様子に、彼が如何に恐ろしい目にあったのかが窺えた。


「地獄だった……怖すぎだよ。柱……」

「そ、そんなにですか?」

「なんか最近の隊士はめちゃくちゃ質が落ちてるってピリピリしてて、みんな。
那田蜘蛛山行った時も命令に従わない奴とかいたからさ……その"育手"が誰かって言及されててさ……」

「は、はあ……」

「俺のせいじゃないのに……ブツブツ」


途中から愚痴ばっかりになった村田の話しに、炭治郎も小羽たちも困り顔であった。
そんな彼の背後に音も立てずに現れたのはしのぶであった。


「こんにちは。」

「あっ!胡蝶様!!?どっ、どうもさようなら!!」

「あらあら。」


柱であるしのぶが現れると、村田は青ざめた顔でそそくさと帰って行った。
それを変わらぬ笑顔で見送るしのぶがちょっぴり怖かった。


「どうですか?体の方は。」

「かなり良くなってきてます。ありがとうございます。」

「ではそろそろ、機能回復訓練に入りましょうか!」

「……へ?」

「……機能回復訓練?」


しのぶの言葉に炭治郎は不思議そうに首を傾げ、善逸は嫌な予感を感じ取ったのか冷や汗をかく。
清隆は知っているのか「そろそろやらないと体が鈍るもんな」と納得したように頷いていた。



**************



機能回復訓練が始まった。
長い療養生活によって鈍った体や落ちた体力を元に戻すための訓練。
まだ毒のせいで体が本調子ではない善逸以外の、炭治郎、伊之助、清隆がその訓練を行うことになった。
その訓練も今では一週間ほど経ち、善逸も明日から訓練に参加することになった。


「――いよいよ明日から善逸くんも機能回復訓練に参加できるね。」

「いや、全然嬉しくないよ。」

「またそんなこと言って……でも善逸くんが元気になってくれて本当に良かった。」

「えへへ!!小羽ちゃんが一生懸命看病してくれたお陰だよぉ〜〜!!」

「相変わらず口が上手いなぁ〜。それだけ元気なら明日からの訓練も大丈夫そうね。」

「ひえっ!!そんなことないよぉ!!だって見たでしょ!?炭治郎たちが……!」

ガラッ


そんなやり取りをしていると、戸を開けて炭治郎と伊之助が入ってきた。
どうやら二人共、訓練を終えて戻ってきたようだ。
しかし、二人の様子がおかしい。
二人共げっそりとやつれていて、ひどく疲れきっていた。
そんな様子のおかしい二人に善逸は盛大に顔を引き攣らせた。


「おかえり。今日も随分と疲れてるみたいだね。」

「おかえり。炭治郎、伊之助。今日はどんな感じだった?」

「「………」」


炭治郎と伊之助は善逸の質問には答えずに、まっすぐベッドに向かっていく。
そして無言で布団を頭まですっぽり被ると、ポツリと一言だけ。


「…………ごめん。」

「何があったの?どうしたの?ねぇ!!」

「…………キニシナイデ。」

「教えてくれよーー!!明日から俺も少々遅れて訓練に参加するんだからさァ!!」


酷く疲れきった声と、落ち込んだような声で二人はそれだけ答えるとすぐに寝てしまった。
いつもと様子の違う二人に、善逸は訓練の内容が恐ろしい意味で気になってしまって泣き喚く。
そんな炭治郎と伊之助の様子に、小羽は苦笑する。


「あはは、これはまたこっ酷くやられたかな?」

「何!?小羽ちゃん何が知ってるの!?教えてよ!!」

「えっと……「小羽に近づくなって言ってるだろ善逸!!」……あっ、お兄ちゃん。」


元気な怒鳴り声と共にやって来たのは清隆であった。
炭治郎や伊之助と違って、清隆は元気そうであった。


「小羽も!善逸を甘やかすな!」

「いや、だって……お兄ちゃんは元気そうだね。」

「おう!俺は今日で訓練終わった!結構鈍っちまってた体も戻ってきたし、カナヲにもやっと勝てた!俺は一足先に訓練終了だ!」

「そっか!良かったね!」

「ははっ!ありがとうな小羽!」


小羽も清隆も、実は既に全集中“常中”は会得しており、そのお陰か清隆はすぐに鈍った体の感覚を取り戻してみせた。
ニカッと笑顔でそう報告する清隆に、小羽は嬉しそうに笑った。
しかし善逸はそれを聞いて絶望の表情を浮かべていた。


「嘘だろ!!清隆訓練終わっちゃったの!?一人だけ抜け出すなんてズリーよ!!ひどいよ!!」

「はあ?何言ってんだ?俺はお前等よりも先輩なんだぞ。鍛え方が違うっての。」

「ねぇ!!せめて訓練の内容だけでも教えてよぉーー!!炭治郎も伊之助も聞いても教えてくれないんだよぉ!!」

「ふーん。」


善逸が訓練に怯えて泣き叫ぶと、清隆は意地悪げな笑みを浮かべた。
それに小羽はやれやれと呆れた眼差しを向ける。


「……内緒だ。」

「ハァァァァァーーーー!!?」

「……お兄ちゃん……」


善逸が怯える様が見ていて面白いのか、清隆はとても楽しげな笑顔を浮かべると、サラリとそう言った。
それに我が兄ながら意地悪だなと呆れつつ、善逸は絶叫を上げ、騒ぎを聞きつけて駆けつけたアオイに説教されて更に泣かされることになったのは言うまでもない。

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