第54話「捕まりました」

その報告が届いたのは、夜が明けて炭治郎たちが朝食を取っていた時であった。


「はっ!?小羽が任務で怪我をした!?」

「えっ!!」

「なっ!!小羽ちゃんは無事なの!?」


「信濃小羽。任務先にて負傷。」その日、清隆の鎹鴉がそんな報告を持ってきた。
ここ二週間ずっと蝶屋敷に帰らずに任務に没頭していた妹の負傷の知らせを受けて、兄の清隆は青ざめた。
松右衛門の話では、左肩の骨がひび割れているらしい。しかし幸いにも食いちぎられなかったことで、思ったよりも傷は浅いとのことだった。
命に別状がないと分かり、一先ず清隆たちはホッと安堵の一息をついた。


「状況は分かった。それで、小羽はいつこっちに帰ってくるんだ?」

「カー!カエラナイ!カエラナイ!カー!カー!」

「……はっ!?藤の花の家紋の家で療養してるんだろ?帰らないって小羽が言ってるのか?」

「カー!カー!」

「……そうか、分かった。ありがとうな松右衛門。」

「カー!伝エタ伝エタ!後シラネー!」

「ああ、十分だ。」


清隆がそう言うと、松右衛門は翼を広げて空へと飛び立っていった。
清隆から怒っている音と匂いを感じ取った炭治郎と善逸は、恐る恐る清隆に声をかけた。


「……お、おい、清隆?」

「俺、ちょっと小羽を迎えに行ってくるわ。」

「えっ、だったら俺も……」

「いや、善逸は待っててくれ。お前が一緒だとまた逃げられそうだ。まあ、今は肩を負傷してるから前みたいに雀になって逃げるのは無理だろうけどな。」

「で、でも……」

「小羽の奴さぁ、二週間もろくに休まずに無理に任務を続けた結果、負傷したらしいんだ。幸い腕を食いちぎられた訳じゃなくて、肩にヒビが入っただけだから鬼殺隊は続けられるらしい。それでも大怪我したことには変わりないんだ。なのにここに帰ってくる気はないんだとさ。つまりは怪我が治ったらまた無茶な任務を続けるつもりだってことだよなぁ?」

「お、おい?」

「清隆?」

「ひぃ!!清隆からものすごい怒ってる音がする!!地響きみたい!!」

「怒ってるに決まってんだろ?迎えに行って説教してやるわ。」

「ほ、程々にしてやれよ?」

「まあ、小羽の態度次第だな。」


炭治郎の言葉に清隆は苦笑すると、鴉の姿になって空に飛び立っていった。
それから清隆が小羽を連れて帰ってきたのは、すっかり日の暮れた夕方になってからであった。



***************



「――で、何か言うことはあるか?」

「……チュン」


清隆、炭治郎、善逸、伊之助たちに囲まれるような形で中央に置かれた鳥籠。
その鳥籠の中には、雀の姿の小羽がしょんぼりと項垂れながら捕まっていた。
清隆は腕を組んで仁王立ちになりながら、責めるような眼差しで小羽を見下ろしていた。
実は清隆が小羽を迎えに行ったものの、小羽は蝶屋敷に帰ることを拒否したのである。
清隆が説得してみるも頑なに首を縦には振らず、怪我が治りきっていないのにまた新たな任務に行こうとしていたことを知り、一芝居うって小羽を雀の姿にさせ、すかさず捕えて鳥籠に入れて連れ帰ったという訳である。
そして小羽は善逸たちの前に連れ出され、現在尋問されていた。


「チュンチュンチュチュン……(お兄ちゃんの嘘つき。私の風切羽が傷ついてないか具合を診たいからって言ってたから雀になったのに……私を鳥籠に閉じ込める為に嘘ついたなんて……)」

「ああ?お前が怪我したのにいつまでも蝶屋敷に帰って来ない。挙句の果てに怪我が治りきってないのに次の任務に行こうとするわ。流石に俺も怒るぞ小羽。」

「………」


黙り込んで俯く小羽を、清隆はギロリと鋭い眼差しで見下ろす。
普段は妹に甘い清隆も、今回ばかりは小羽に対して色々と思うところがあるようで、とても怒っていた。
小羽も小羽で、自分でも無茶なことをしようとしていたと自覚があるのか、しょんぼりと俯いたまま黙り込む。
そんな小羽を見かねた炭治郎が2人に声をかけた。


「まあまあ、落ち着け清隆。小羽ももうこんな無茶しないよな?」

「……チュン(はい)」

「ほら、小羽も反省してるみたいだし、もう出してやろう。小羽も流石にもう逃げたりしたいよな?」

「チュン(それは……)」

「小羽?」

「チュ、チュチュン!(うっ、わかった。逃げないよ!)」

「ほら、小羽もこう言ってるし、出してやろう?」

「まあ、炭治郎がそう言うなら……」

「いや、ちょっと待って!お前等当たり前みたいに会話してるけど、俺は何言ってるのか分からないかんね!?」

「俺はなんとなく分かるぞ!!」

「そうかい!!良かったね!!」


炭治郎に妙に迫力のある笑顔で説得され、小羽は逃げ道を塞がれた。
小羽が渋りながらも頷くと、炭治郎は小羽を鳥籠から出してやることにした。
炭治郎が鳥籠の中に手を入れてきたので、小羽は自然と人差し指に乗る。
すると炭治郎はそっと優しく小羽を鳥籠から出してやった。
小羽が人の姿に戻ると、善逸は何か言いたげにこちらを見てきたので、小羽は気まずそうにそっと目を逸らした。
それを見た清隆が小さくため息をつく。


「……小羽。ちょっと俺と二人で話をしようか。」

「――え?」

「ちょっ!清隆、俺が……」

「善逸。今は俺と先に話させてくれ。小羽もお前と話す前に俺と話した方が落ち着くだろうし、な?頼むよ。」

「それは……」

「小羽もそれでいいか?」


清隆は小羽を気遣ってそう言い出したのであろう。
小羽にとって、その申し出はとても有難かった。
正直、まだ善逸と向き合う勇気が持てないからだ。
だから小羽は清隆の言葉に素直に頷いた。
それを善逸が不満げな眼差しで見ていたことに気付いていたが、小羽はそっと目を逸らして気付かないフリをした。

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