if話、善逸と小羽が一つの布団で寝ることになったら

・原作から3年後、夢主17歳、善逸19歳
・恋人設定(婚約している)
・善逸が鳴柱
・原作の展開に関係なく、未来でも鬼は存在している為、鬼殺隊も存続されている設定




小羽たちが鬼殺隊に入隊してから、色々な事があった。
多くの隊士が命を落とし、辛いことも多かった。
鬼を退治するために戦い続ける日々を送る中で、小羽と善逸は恋仲となり、晴れて婚約までした。
そんなことがあって、気付けば三年もの年月が経っていた。
その三年の間に柱も若い世代へと世代交代を果たし、今ではあの泣き虫だった善逸は鳴柱となっていた。

そんな彼は今、単独任務を終えて、今日の宿泊先となる藤の花の家紋の家へと向かっていた最中であった。


「うう、疲れた〜〜、お腹空いたぁ〜〜」

「もう少しで着くから頑張って善逸くん!」


任務を終えた帰り道、藤の花の家紋の家へと向かう中で善逸はぶつくさといつものように泣き言を言っていた。
それに彼の鎹雀であり、婚約者の小羽は慣れた様子で善逸を励ましていた。


「うう、小羽ちゃぁ〜〜ん!!」

「はいはい、もうすぐだから頑張って歩こう?」

「ふぁ〜い」


小羽が困ったように言うと、善逸は弱々しい声で返事を返した。
昨日の夜中から昼まで食事も睡眠も取らずに鬼退治していたのである。
柱故にどこも怪我はしていないので身なりはポロボロではないが、かなり疲れていた。


「うう、折角久しぶりの休日だったのに、何で任務なんて……小羽ちゃんと全然イチャつけなかったよォォォ!!」

「どうどう、善逸くん。藤の花の家紋の家に着いたら、めいいっぱい甘やかしてあげるから。」

「ほんと!?俺、頑張って歩くよ!!」


小羽の言葉に顔をぱあっと輝かせると、先程まで疲れたと文句を言いながらよろよろと頼りなく歩いていたのが嘘のように、しっかりとした足取りで歩き出す。
それに呆れながらも小羽は善逸と並んで歩き出す。
もう三年も付き合っているのもあって、すっかり善逸の扱い方には慣れてきた小羽であった。



***************



――そして現在、我妻善逸は頭を抱えていた。

どうしよう。
どうしたらいいんだ。

善逸は目の前に用意された一組の布団を前に冷や汗をかく。
藤の花の家紋の家にやって来た俺と小羽ちゃんだったが、困ったことに今日用意できる部屋は一部屋だけだと言われた。
いくら婚約しているとは言え、正直まだ結婚もしていない男女が一つの部屋で一夜を共に過ごすのはどうかと思うが、宿の予約も何も無く突然お邪魔した俺たちをこうして泊めてくれるだけでもとても有難かったので、俺たちは藤の花の家紋の人に礼を言って、今晩はその部屋で休ませてもらうことになった。
それだけならまだ良かったのだ。
今までにも何度かそういうことはあったし、布団さえ別々なら大丈夫だろうと安心しきっていた。
二人で楽しく会話しながら夕食を食べて、男女別にあるという湯殿で任務での汚れを綺麗に洗い流す。
男の俺は体をさっさっと洗ったら風呂から出た。
小羽ちゃんは女の子なのできっとゆっくりと入ってくるだろう。
そう考えながら先に部屋に戻ると、目の前に広がるそれに俺は固まった。

何で……
何で布団が一組しかないんだよォォォォーー!!!

そう。俺の目の前には布団が一組しか用意されていなかったのである。
しかもご丁寧に枕だけは仲良く二つ並べられている。
これが意味することなんて一つしかなかった。


(まさかと思うけど……夫婦に間違われた?)


もう理由なんてそれくらいしかないだろう。
えっ、まさかと思うけど今日はこのまま寝るの?
小羽ちゃんと一つの布団で?いやいやねーわ!!
そりゃね、嬉しいですよ。
大好きな女の子と一緒に一つの布団で寝れるなんて幸せですよ!!……とでも思ったか馬鹿野郎!!
好きな女の子と?一つの布団で?ねーわ!!
駄目に決まってるだろそんなん!!
だって相手は婚約していてもまだ嫁入り前のお嬢さんですよ!!
手なんて出せる訳ねーだろ!!
ただでさえ同じ部屋で一夜を共にするだけでもきっっついのに、一つの布団で身を寄せ合って寝ろってか!?
そんなん無理に決まってるだろ!!死ぬわ!!俺の理性が!!
俺だって男ですからね。人並みに性欲はありますよそりゃ!!
好きな女の子といつかムフフでアハンなことしてみたいですよ!!
でもね、でも駄目なんだよ。
大好きな女の子と一夜を同じ布団で一緒に過ごして、手を出さないでいられる自信なんてない。
俺は冷や汗をかきながら、どうしたもんかと考えていた。


「……あっ!そうだ……もう一組布団を借りてくればいいんじゃないか!」


何でこんな簡単なことに気付かなかったんだ。
邪な性欲に頭がいっぱいになりすぎて、そんな単純なことにまで気付かなかったなんて……
やべーわ。俺やばい。
そうと決まれば小羽ちゃんが戻ってくる前にさっさと布団を借りてこよう。
俺は固まって動けずにいた足を漸く動かして部屋を出ようとした。


「――善逸くん?」

「っ!えっ!?小羽ちゃん!?」


不意に声を掛けられてビクリと肩を跳ね上げた。

びっくりした。小羽ちゃん、いつの間に戻ってきたの?

いつもならこの無駄に良い耳が人の近づいて来る音を拾うのに、特に大好きな小羽ちゃんの音はすぐに気付くのに。
どんだけテンパってたんだよ俺!!


「どうしたの?」


小羽ちゃんが動揺している俺を見て不思議そうに小首を傾げる。


(んん"っっ!!可愛い!!)


俺が邪な考えを巡らせていたなんて知らない小羽ちゃんはきょとりと目を丸くしている。
俺の彼女はどんな仕草や表情も本当に可愛い。


「えっと……その、ね。実は……」


俺は気まずい気持ちになりながらも、彼女にこの状況を説明した。


「そっか……」

「えっ、あれ?」


小羽ちゃんは布団が一組しかないと聞いて最初は戸惑っていが、思ったよりも落ち着いていて、正直俺は拍子抜けした。
初な彼女のことだから、もっと照れたり恥ずかしがったりするかと思ったのに……
ちょっぴり残念な気持ちになる。


「えっと……だからね。もう一組布団を借りてくるよ!」

「えっ?いいよ。このまま一緒に寝よう?」

「うおえっっ!!?」


思わぬ小羽ちゃんからのお誘いに、俺から素っ頓狂な声が出た。
ついギョッとして小羽ちゃんに詰め寄ってしまう。


「なっ、ななななっ!!?何言い出すの小羽ちゃん!!?」

「えっ?だから今日は一緒に寝ようって……」

「ア"ーーーーーっっ!!聞き間違いじゃなかったぁ!!あのねぇ小羽ちゃん!!別々の布団で寝るんじゃないんだよ!!一つの!!布団で!!一緒に寝るの!!それがどういうことか意味わかってる!!?」

「……善逸くん。私だって子供じゃないんだからそれくらい意味わかるよ。」

「えっ、それって……」


ほんのりと頬を赤らめて恥ずかしそうにそう答える小羽ちゃん。
あっ、可愛い。んん"!!じゃなくて……


「こ、小羽ちゃん……」

「いいよ。」

「へ?」

「善逸くんとなら、そういう事しても……いいよ。」


う……うおああぁぁあアアァあアーーー!!!???

火照ったように頬を赤く上気させて、恥ずかしそうにモジモジとしながら潤んだ瞳で上目遣いにそんなことを言われた。
可愛い仕草に加えてとんでもない爆弾を投下されて、俺の意識は一瞬飛びそうになる。

あっ……あっっぶねぇーー!!
今一瞬気絶しかけた。
意識失いかけたんですけどぉ!!
あまりの可愛さに理性も飛びそうだったよ。とんでもねぇ小羽ちゃんだ!!!

一瞬で何処かに飛んでいきそうだった理性を俺は必死に繋ぎ止めて、いつの間にか伸ばしかけた手を慌てて引っ込めた。

てかこの手は何だよ!!
俺危うく小羽ちゃんを押し倒しかけたんですけどぉ!!
怖い!!無自覚に誘惑してくるこの子!!


「だっ……」


ゴクリと喉を鳴らして唾を飲み込む。
深呼吸して、自分を落ち着ける。
俺はゆっくりと震える手で小羽ちゃんの肩を掴むと、にこりと引きつった笑顔を浮かべた。
冷や汗が吹き出す。手汗とか絶対にヤバイ。
けれどこれだけは絶対に言わなければ。
小羽ちゃんの為にも。俺の為にも!!


「……ダメだよ、小羽ちゃん。そういうことは軽々しく言っちゃダメ。男はケダモノなんだから。」


精一杯自分を抑えつけて小さい子供に言い聞かせるようにそう言えば、小羽ちゃんはムッと眉をひそめて不満そうな顔をした。
唇をきゅっと固く結び、ぷくりと頬を膨らませる。
その表情は大変愛らしい。


「軽々しくなんて言ってないもの。私、善逸くんとなら別に……」

「ア"ーーーー!!!やめてやめて!!これ以上俺を誘惑しないでぇ!!ダメだよ!!嫁入り前の女の子がそんなこと言っちゃあ!!こっ、こういうことは結婚してからじゃないと……」

「私は結婚前でもいいよ?善逸くんとなら……」

「イーーヤーー!!本当にやめてぇ!!俺を甘やかさないでぇ!!ダメなんだって!!俺は小羽ちゃんを大事にしたいの!!結婚前に若い娘さんがそんなことして、に、妊娠なんてことになったら、世間の目が厳しいでしょうがぁぁあ!!俺はちゃんと小羽ちゃんを幸せにしたいの!!大切にしたいの!!だから必死こいて我慢してるのォォォォォォォォォォォォ!!!」


俺は号泣しながら必死にそう叫んで小羽ちゃんを説得する。
もう我慢しすぎて血涙流してるよ。
俺の理性は本当にもう限界なのよ。もうボロボロなの。
蜘蛛の糸よりもほっっそいの!!
もういつ切れてもおかしくないのよ!!


「善逸くんて、本当に優しいね。」


なのに当の小羽ちゃんは、嬉しそうにクスクスと笑う。
俺がこんなに苦しんでるのに、余裕そうなのが今は無性に腹立たしい。
くっそう、やっぱり可愛いなぁ。
俺がどれだけ小羽ちゃんのことが大好きか、君は全然理解してないでしょ。
好きだから、大好きだから、いつだって傍にいたいし、触りたい。
大事にしてあげたい気持ちとは裏腹に、めちゃくちゃにしたいって男の欲を抱いてるのに、ちっとも気付いてない。
――まっ、それでも結婚するまでは耐えますけどね。


「善逸くんが結婚するまで手を出さない。そう決めたのなら、それでもいいや。」

「小羽ちゃん……」


やっと分かってくれたのかと、ほっと息をつく。
一瞬油断してしまったのは認めよう。
だが次の瞬間、小羽ちゃんは俺の腕に自分の腕を絡めると、力強くその手を引いて俺を布団に引き摺り込んだ。
完全に油断していた俺は、抵抗する間もなく布団の上に倒れ込む。
小羽ちゃんと一緒に布団の上にゴロリと寝転がった体に、何が起こったのかすぐに理解出来なかった。


「――へ?」


ぱちくりと目を丸くして瞬きする。
状況を理解できないでいる俺に小羽ちゃんはにっこりと可愛らしく微笑むと、俺が逃げられないようになのか、ぎゅっと腕に回した手に力を込めた。
それだけじゃない。自分の足の間に俺の足を挟み込み、ぐっと抱きついてきた。
一気に密着度が増して、俺は悲鳴を上げる。


「ア"ーーー!!!」


小羽ちゃんの胸が腕にあたる。
柔らかい感触が直に伝わって、色々とヤバイ。
すごくいい匂いがするし、もう本当にヤバイ。


「まままままま!!待って!!本当に待っってえ!!ヤバイ!!本当にヤバイからぁ!!あたっ、当たってるからァ!!色々と駄目だから!!」

「今日はこのまま一緒に寝ようね。」


にっこりと、とびっきりの可愛らしい笑顔を浮かべて無邪気にそう言い放つ小羽ちゃん。
天使のように美しくも愛らしいその笑顔が、今は悪魔のように思えた。


「ダメダメダメ!!お願い離れてーー!!」

「おやすみなさーい。」

「えっ!!ちょっと小羽ちゃん!?」


おやすみと言って目を閉じた彼女から、スースーと規則正しい呼吸が聞こえてくる。


「えっ!?嘘だよね!?嘘って言って小羽ちゃん!?」

「……」

(イヤーー!!ウソでしょ!?本当に寝てるぅぅぅ!!)


思わず叫びそうになったのを我慢した自分を褒めてやりたい。
本当にスヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立て始めた愛しい小羽ちゃんに、俺は絶望に突き落とされた。


「ウソだよね……俺、本当に朝までこのままなの?」


善逸は弱々しくそう呟くが、彼の言葉に返事を返してくれる者は今はいない。
こうして、善逸は小羽が目を覚ます明け方まで、欲望と愛情とのせめぎ合いの中で、何度も消し飛びそうになる理性と戦うことになるのであった。

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