男たちのプロポーズ

「たぁんじろぉ〜!助けてくれよぉ〜!」
「俺も助けてくれ炭治郎!」
「いきなりなんなんだ二人とも。」

鬼舞辻無惨を倒し、この世から鬼がいなくなって数ヶ月。
清隆たちは炭治郎の家に居候し、とても穏やかな毎日を過ごしていた。
そんなある日、炭治郎は清隆と善逸に必死の形相で助けを求められていた。
善逸が炭治郎に助けを求めたり頼ったりすることはよくあることだが、基本的に自分のことは自分で解決するタイプの清隆まで炭治郎に助けを求めるのは珍しいことだった。
これは余程の問題なのだろうかと、炭治郎は二人を気遣うような優しい眼差しで見つめた。

「二人ともどうしたんだ?何か困り事か?」
「そうなんだよ炭治郎!俺、禰豆子ちゃんに……」
「聞いてくれ炭治郎!俺、小羽に……」
「「求婚しようと思うんだ!」」
「「……はっ?」」

二人ともほぼ同時に、重なるようにして叫んだ一言に、きょとんと目を丸くして見つめ合う清隆と善逸。
二人とも、「えっ?お前もなの?」と言いたげな顔で見つめ合っていた。

「え?何?お前小羽に求婚すんの?」
「そうなんだよお義兄様!お前も禰豆子ちゃんに?」
「実はそうなんだお義弟よ。」
「「…………」」

がしっと、何やらお互いに共感するものがあったのか、固く手を握り合う二人。
その瞳には熱い情熱の炎が宿り、「お前も頑張れよ!」という想いが ありありと読み取れた。
そんな仲のいい二人をを眺めながら、炭治郎は優しく微笑む。
最初こそ、善逸と妹の小羽の交際を渋々といった感じで見守っていた清隆が、今ではすっかり善逸を信頼して応援するまでの仲になっている。
炭治郎はそれがとても微笑ましくて嬉しかった。
かく言う炭治郎もまた、清隆に大切な妹の禰豆子を託してくれているものだから、余計に感慨深いものがあった。

「それで?二人は何を困ってるんだ?」
「ああ、そうだった!なあ炭治郎、禰豆子ちゃんは贈り物とか受け取ってくれると思うか?」
「贈り物?」
「その……これなんだけどさ。」

そう言って清隆が懐から取り出したのは櫛だった。装飾の施された美しいその櫛は、とても高価そうであった。
江戸時代の頃から、女性に櫛を贈ることは求婚の意味を持つとされてきた。
古風らしい清隆らしいなと炭治郎は思った。
清隆は不安そうな顔で、「どうかな?」と炭治郎に尋ねてくる。
どうやら禰豆子の兄として意見を求められているらしい。
炭治郎はうーんと少し考えるように頭を捻る。

「禰豆子は高価なものは昔から欲しがらないんだ。それ、かなり高価なものだろう?」
「うっ、やっばりか?分かってたんだけどさ、やぱり求婚を申し込むなら特別なものにしたくてさ、つい拘っちまって……」
「だったらきっと受け取ってくれるさ。」
「……本当か?禰豆子ちゃん高価なもの嫌いなんだろ?突き返されそうで……」
「普段使いのものなら断ると思うが、それは清隆が禰豆子を特別に想って選んだものなんだ。きっと受け取ってくれると思う。」
「そっ!そうか?だったら、渡してみる!」
「ああ!」

炭治郎の言葉に少しだけ不安が拭いされたのか、清隆はそのまま渡すと決めたようだ。
そして炭治郎は今度は善逸の方を向いた。

「それで、善逸は何が不安なんだ?」
「その……やっばり高価な物の方が良かったかな?俺、清隆みたいに外で働いてないからさ、用意できたのこれだけなんだ。」

そう言って善逸は山で摘んできた花で作ったらしい指輪を見せてきた。
「本物は流石に高すぎてまだ手が出せなかったんだ……」としょんぼりと落ち込む善逸に、炭治郎と清隆は彼の肩を両側からポンッと叩く。

「大丈夫だ善逸、小羽はそういうの拘らないぞ。」
「そうだぞ善逸、大切なのは気持ちだ。善逸の小羽を大切に想う気持ちがあれば大丈夫だ!」
「うう、清隆ぁ!炭治郎ぉ!」

善逸は二人から応援されて感動したのか、目を潤ませて嬉しそうに笑った。
やれやれ、二人とも一世一代の求婚を前に、緊張してしまったんだろうな。
炭治郎は長男として背中を押してやろうと思った。

「二人とも頑張るんだぞ。俺は応援しているからな!」
「「ありがとう炭治郎!」」

いつも頼りにしている炭治郎に励まされ、清隆と善逸は俄然やる気がみなぎってきたようだった。
そんな二人に炭治郎は、「二人とも上手くいくといいなー!」と心から応援していた。
――後日、清隆は禰豆子に櫛を贈った。
装飾の美しいその櫛は、とても高価そうであった。
清隆がこの日のために、必死に働いて稼いだお金を使って買ったものだった。
普段はこのような高価なものを受け取らない主義の禰豆子であったが、清隆からの求婚の言葉に嬉しそうに笑って受け取ってくれたのだった。
あまりの喜びように叫び出しそうになった清隆の声を遮るように、その瞬間、山に善逸の歓喜の叫び声が木霊した。
それを聞いた清隆と禰豆子は、きょとんとお互いの顔を見つめ合うと、プッと吹き出した。

「善逸の奴、上手くいったみたいだな。」
「ふふ、そうだね。」

どちらともなく手を繋いだ。
清隆はこの少女の手を、生涯絶対に離さないと決めた。
禰豆子ちゃんを幸せにする。
そうこの日、清隆は強く誓ったのだった。

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