第101話「心配する夏目」

「うう……」

ズキズキと痛む右目を押さえ、彩乃はあまりの痛みにどうすることも出来ずに苦しんでいた。

「……けた……みつけた」
「!?」

微かに聞こえた声に顔を上げると、そこには金槌のような道具を持った細い体つきの黒い妖怪がいた。
その黒い妖怪は、金槌を彩乃目掛けて降り下ろそうとしていたのだ。

――田沼視点――

その頃田沼は、ふらふらとまるで意識がそこにないような生気のない顔で校庭をさ迷っていた。

「……あれ?ここどこだ?」

はっとして我に返ると、そこは見覚えのない場所だった。
ふと何気に手を見ると、その両手は何故か泥だらけだった。
それは田沼が先程まで裏庭で穴を掘っていたからなのだが、彼はどうして自分の手が汚れているのか覚えていなかったのだ。

「…なんで…」
「きゃあっ!!」
「!!」

その時、すぐ近くで聞き覚えのある女の子の悲鳴が耳に届いた。

「――夏目!?」
「!、田沼君……!」

彩乃の悲鳴に慌てて田沼が駆け付けると、金槌の妖怪は驚いて何処かへと去って行った。

「どうした夏目……」
「田沼君……いや、目が痛くて……」
「目?」
「それより……」

彩乃は今度こそ田沼が自分から逃げないよう、彼の制服の裾を掴んで言った。

「何を隠してるの?田沼君……困っているならちゃんと話して欲しい。」
「……」

真剣な眼差しで真っ直ぐに問い掛けると彩乃に、田沼は目を細める。

「――ああ。……そうだな。話すよ、全部。」

そう言って困ったように笑う田沼に、彩乃は小さく頷いたのだった。

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