第139話「妖怪を守りたい者と祓う者」

月分祭の騒動が解決した頃、辺りはすっかり暗くなっていた。
彩乃は森の岩場で持ってきていた私服に着替えると、名取達と共に駅に向かうことになった。
駅に向かうにはバスに乗っていく必要があり、3人は近くのバス停でバスが来るのを待っていた。

「――私は少し先にある自動販売機で飲み物を買ってくるから、何がいい?」
「そんな、奢って貰うなんて申し訳ないです。」
「ここは大人に素直に甘えておきなさい。特に彩乃は疲れているだろう。」
「あ……ありがとうございます。」

素直に甘えておけと言われ、彩乃は申し訳なく思いながらも素直に頷いた。
何がいいかと聞いてくる名取に、竜二はコーラを頼み、彩乃はお茶を頼んだ。
そして二人の為に飲み物を買いに名取が居なくなったため、彩乃は竜二とニャンコ先生の三人だけになる。(柊は護衛に着いていった。)

「「……」」
(き……気まずい……)

どこか気まずい沈黙が続く中、のんきに彩乃のリックの中で眠っているニャンコ先生が段々恨めしく思えてきた。

「おい」
「は、はい!」

突然沈黙をやぶって声をかけてきた竜二に、彩乃は思わず声が裏返る。
そんな彩乃の様子に呆れたようにため息をつく竜二。

「……はあ。さっきまで妖怪共に怯えずに向かっていった奴が何俺相手にビクついてんだ。」
「す、すみません……」
「まあいい。それよりも、何であの時俺の邪魔をした?」
「……あの時?」
「黒衣達が俺達を襲ってきた時だ。」
「――ああ。」

確かあの時、黒衣達の罠に嵌まって面を剥がされそうになった時、竜二は黒衣達を消そうとしていた。
それを自分は邪魔をしたのだった。

「そんなの決まってるじゃないですか。殺すなんて駄目です。」
「相手は妖怪なんだぞ。何甘いこと言ってやがる。」
「妖だからって、何で殺さないといけないんですか!」
「はあ?逆に訊くが、妖怪は人を食い物としか見てねぇ化け物だぞ。そんな奴等を始末するのは当然だろうが。お前も祓い屋ならわかるだろ。」
「私は祓い屋じゃないですよ。」
「はっ!?……ああ。そういや名取さんが言ってたな。」

何かを思い出したのか、納得した様子の竜二。

「お前が祓い屋でない一般人なら尚更だ。何で妖怪に関わる?そこの豚猫は式じゃないのか?」
「……ニャンコ先生は用心棒です。確かに妖は人を襲うし怖い存在だけど……人とわかり合える妖だっているんです。」
「はっ、そんな妖怪いるわけねぇよ。」
「そんなことない!」

まるで小馬鹿にするように鼻で笑う竜二に、彩乃はムッとして声を荒げた。

「妖だって優しい者はいます。人が好きな妖だっている。だから、何も知ろうとしないでそんなこと言わないで下さい!!」
「……お前は甘いんだよ。」
「……っ!」
「妖怪は絶対的な悪だ。この世から滅すべき存在なんだよ。」
「そんなこと……!」
「お前……そんな甘い考えだといつか妖怪に殺されるぞ。」
「っ!」

どこか憎しみを孕んだ目で彩乃を睨み付けてくる竜二。
その目は彩乃というよりも、どこか別のものを見ているような気がした。
結局、その後名取が戻って来たことで二人の会話は気まずいまま終了してしまい。
バスの中でも二人は一言も口を聞くことなく三人は別れたのだった。
――その後、彩乃は数日間疲労で寝込んでしまい、先生にネチネチと文句を言われることになったのは別の話である。

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