第151話「優しい友人たち」

昼間に妖に襲われるわ、かつて出会った妖の少年のイタクと再会したりと、僅か数時間の間に既にどっと疲れた彩乃ではあったが、夜に控えているイベントはとても心待にしていた。

「それでは皆さん、火の扱いには気をつけて、それぞれの班のリーダーに従って行動して下さい!」
「「はーい!」」

すっかり辺りは薄暗くなり、彩乃達は夜のイベントであるバーベキューをしていた。
先生の注意を聞き流して、皆、わいわいととても楽しそうに肉やら野菜を焼き始める。
それによって、辺りには肉を焼く香ばしい匂いが漂い、皆の食欲を刺激した。

「おー!もう焼けたかな?焼けたよな!?うまそー!!」
「落ち着けよ西村。それはまだ半生だぞ。」
「はふへふ?」
「――もう食ってるし……」
「ははは、西村と北本は本当に仲がいいな。」
「そうね。まるで息の合ったコントを見てるみたい。」
「うん、本当に。」

西村と北本が仲良さげに会話しているのを、皆が楽しそうに眺め、彩乃も昼間に皆と一緒に過ごせなかったのを少し残念に思っていただけに、とても楽しそうに笑っていた。

「ほら彩乃ちゃん、お肉焼けたよ!」
「あ、ありがとう透ちゃん。でも、もういいかな。」
「全然食べてないじゃないか。野菜以外にももっと食べないと。」
「いやいや田沼くん。私もうお腹いっぱいで……」

――さっきから、透ちゃんと田沼くんがやたらと甲斐甲斐しく私の面倒をみようとしている……気がする。 

「私のことはいいから、二人も食べなよ。ね?」
「私はもう十分食べたもの。」
「俺はちゃんと食べてるし、だけど夏目は食べてないだろ?だからほら。」

そう言って大量にお肉が乗った皿を差し出してくる田沼くん。
それを彩乃は受け取れずに困ったように見つめるのだった。

「あの……二人共どうしたの?何か変だよ?」
「「う……」」

彩乃が二人の様子がおかしいことを指摘すると、多軌と田沼はバレたかと言いたげな表情をして言葉を詰まらせた。
やがて二人は観念したようにお互いに目で合図して頷き合うと、彩乃に話始めた。

「――彩乃ちゃん、正直に答えてね。」
「うん?」
「昼間……本当は体調が悪くなったんじゃなくて、妖怪に襲われたんじゃないのか?」
「あっ……」
「その反応……やっぱりそうなのね。」

顔色を変えた彩乃を見て、多軌が確信したように言う。
そんな二人の様子を見て、彩乃は何かを察したのであった。

(――そうか。私、二人に心配をかけてしまったんだな……)

きっと二人共、それを確認したくてやたらと私を構っていたんだろう。
二人は優しいから、私が隠し事をするとそれを無理やり聞き出そうとはしない。だから……

「――確かにあの時、大きな妖がいて、私はそれをどうにかしたくて、皆から離れたの……でもね、ここで出会った妖が助けてくれて……ニャンコ先生もいたし。」
「えっ!?ニャンコちゃんいるの!?」
「私ならここにいるぞ。」

ひょっこりと彩乃のリュックから顔を出したのは今まで話を聞いていたニャンコ先生。
ちゃっかり田沼が持ってきた大量のお肉を頬張っていた。
お肉を美味しそうに頬張るニャンコ先生を先生が大好きな多軌がキラキラとした目で見つめる。

「何だ。ポン太も来てたのか。だったら大丈夫だな。」
「そうね。ニャンコちゃんは彩乃ちゃんの用心棒だもの!」
「……勝手にリュックに忍び込んだんだけどね。」
「なにおう!?そのお陰で助かったんだろうが!」
「そのせいで巻き込まれたんだけど!?」

バチバチと火花を散らし合いながら睨み合う彩乃と先生。
その様子を多軌と田沼は微笑ましげに眺めていたのだった。

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