第80話「妖怪と祓い屋」

「遠いところいらっしゃいませ。お疲れになったでしょう?」
「いえいえ、いい所ですね。」

電車とバスを乗り継いでやって来たのは山奥にある旅館だった。
女将さんに出迎えられ、彩乃は漸く着いたと一息をついた。

「私はちょっと電話を掛けてくるよ。マネージャーに旅の事を連絡するのを忘れてた。」
「え!?もー……お茶でも入れておきますよ。」

そう言って名取はロビーに残り、彩乃達は従業員の人の案内で部屋へと向かった。

「皆さんの部屋はこちらの二部屋になります。どうぞごゆるりとお寛ぎ下さいませ。」
「ありがとうございます。」

部屋に通されると、彩乃はリクオと氷麗に向き直った。

「えっと……とりあえず部屋割りはどうしよっか?」
「普通なら男女で別れるけど……」
「祓い屋なんかと同じ部屋にリクオ様を泊める訳にはいきません!!」
「……だよね。」

氷麗の言葉に彩乃は困ったように眉尻を下げる。

「……僕は構わないけど……」
「駄目です!リクオ様に何かあっては私は生きていけません!!」
「……う〜ん、だったら私が名取さんと一緒の部屋でいいよ。私が名取さんを見張ってれば、二人は安心できるでしょ?」
「なっ!?そ、そんなの駄目だよ!!」
「そうです!!結婚前の男女が一緒の部屋で一晩過ごすなんてハレンチな!!」
「でも……」

だったらどうすればいいのだと困ったように眉間にシワを寄せる彩乃。
結局、あれこれ話し合ってリクオは居間で寝ることになり、彩乃と氷麗が同じ部屋ということで落ち着いたのであった。

「……名取さんは祓い屋だけど、悪い人じゃないの。ただ……妖を嫌ってるから、リクオ君達も一応気を付けて。」
「うん、わかったよ。」
「大丈夫ですよ!万が一の時は私が氷漬けにします!!」
「氷麗ちゃん、お願いだからそれは止めてね。」
「やれやれ、あんなガキ相手にオタオタしおって、情けない。」
「先生!」

本当は妖とか祓い屋とか関係なく仲良くなって欲しいと思う。
でもそれは、きっとお互いに難しいのだろうなと、彩乃は感じていた。

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