白澤の娘のバレンタイン(五条悟&伏黒恵)

バレンタインSS

今回はバレンタインということで五条先生と恵くんの2パターンで4作品のSSを書かせてもらいました。


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・高専、五条悟SS(悟の片思い編)

「んっ!」

いつもの様に悟に会いに高専を訪れたら、私を見るなり悟が手を差し出してきた。
いきなりなんだと言いたげに怪訝な顔をすれば、悟は眉をひそめて言った。

「チョコだよチョコ!バレンタイン!」
「……ああっ!ほい!」

言われて漸く悟が何を求めているのか分かり、私は鞄から小さな袋を取り出して悟の掌にそっと置いた。
すると「んっ!」と小さく呟いてそれを受け取る悟。心做しかどこか満足そうなその顔に、私はやれやれと肩を竦めた。

「私の顔見るなりチョコの催促しないでよね。」
「何でだよ?毎年貰ってるだろ。」
「そうだけど、来てそうそうに手だけ出されても分かんないよ。もっと他に言うことないんかい。」
「あっ?バレンタインにチョコ催促して悪いかよ?」
「悪くないけど……まあ悟だしな。」
「あ?なんだよ?」
「何でもないわ。」

今更悟に常識を求めても仕方ない気がして、私は口を噤んだ。
バレンタインに親しいものにチョコを渡すのは普通だし、催促されると言うことは期待しててくれたと言うことだろうから、悪い気はしないので良しとする。
まあ、私は悟の初めての友達だし、義理でも喜んでくれるのは素直に嬉しいのだ。
私は鞄から更にチョコの入った袋を二つ取り出すと、それを傑と硝子にも差し出した。
それを見ていた悟が、目をぎょっと大きく見開いて、小さく「……はっ?」と呟いていたが、私はそれを特に気にかけずにいた。

「はい!二人にもあげるね!」
「おや、私たちにもいいのかい?」
「もちろん!だって二人も私の大切な友達だし!」
「友チョコか。それは残念……ありがとう。」
「どーも!」
「どういたしまして!」

チョコを受け取った二人に私は満足気に笑うと、いきなり悟に肩を掴まれた。
急にどうしたのかと悟の方を見上げれば、何故か焦ったような、少し怒ったような顔をした悟がいた。
そんな悟を見て、傑と硝子は何かを察したようで、「おやおや、悟も子供だな。」とか「よゆーねーな」とか言っているのが聞こえた。
えっ、何?なんか知ってんの?私全然分かんないんだけど?

「……えっ、どしたの?」
「何で……」
「ん?」
「何で傑と硝子にもやってんだよ!しかも俺と同じやつ! 」
「えっ?だって傑も硝子も友達だし……悟と同じ友チョコなんだから同じにするのは当たり前でしょ?」
「友、チョコ……」
「友チョコ。」

私がそう言えば、悟は何故かショックを受けたように「友チョコ」と呟いた。なので私も改めて強調するように「友チョコ」と呟けば、悟は一瞬悲しげな表情を浮かべた。
あれ?私何かやらかした?でも心当たりはないぞ?
とか思っていたら、「もういい」と勝手に納得したらしい悟が教室を出ていってしまった。
何なんだ?
不思議に思って傑と硝子の方を見れば、二人ともなんとも言えない表情を浮かべてこちらを見ていた。

「えっ?なんだったの?」
「分からないかい?」
「分からないね。」
「あーー、これは脈ないな。」
「そうだねぇ〜」
「……何の話??」

私は余計に訳が分からずに首を傾げると、二人ともため息をついてそれ以上は答えてはくれなかった。
そんなよく分からないバレンタインだった。



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・28歳の五条悟SS(両想い編)

俺がまだ高校生だった頃、バレンタインで苦い思いをしたことがあった。
俺の人生で初めての友と呼べる間柄だったナマエを一人の女性として好きだと自覚したのは高一の頃。
今まで俺が知る限りだけど、ナマエには俺以外に親しくしてる人間はいなかった。
俺にはナマエしかいなかったように、ナマエにも親しい人間は俺だけだったと思う。
それでも、高専に来て俺にもやっとナマエ以外に心を許せる相手が出来て、親友とも言える存在にも出会えた。
だけど、それでもナマエにとって、俺だけが唯一の親しい人間だと思っていた。
そうであって欲しかった。けれど当たり前だけど、俺の世界が広がれば、俺と繋がりのある奴とナマエがまた仲良くなるのは必然なのだとは思わなかったのである。
傑とナマエが出会ってから仲良くなるのに、そう時間はかからなかった。
俺は仲良さげに話す傑とナマエを見て、やっと自分の中にあった気持ちに気付いたんだ。
それでも気持ちを伝えるなんてことはできずにいて、気持ちを自覚して初めて迎えたバレンタインの日、毎年ナマエから貰っていたチョコを当たり前のように受け取り、今年も当たり前のように俺だけが貰えるものだと思い込んでいた。
だから、傑と硝子にチョコを渡しているナマエを見て、ショックだったし、それが二人と同じ友チョコだと知って余計に落ち込んだ。
気持ちを伝えていなかったのだから、当たり前の結果で、自業自得なのだと後々後悔した。
だからこそ、告白してからは気持ちを隠さなくなったし、常にアタックしてきた。
そうやって努力を積み重ねて漸く、長年の想いが通じあったのであった。


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そうして迎えた今年のバレンタイン……僕は最高に楽しみしていた。

「ハッピーバレンタイン!」
「テンション高いな。」

僕が家に帰るなり大声で叫びながら玄関の扉を開けると、呆れたような顔をしつつ、玄関にひょっこりと顔を出して、僕の可愛い彼女が出迎えてくれた。
そう、彼女!恋人!なんていい響きなんだろう!
今日は白桜と恋人になって初めてのバレンタイン!初めて迎える恋人の日!テンション上がらない訳ないよね!
僕は両腕を大袈裟なくらいに広げる。ハグの要求である。
ナマエはそれを見てやれやれと少し呆れた顔をしつつ、大人しく僕の胸板に顔を押し当てると、僕の背中に腕を回してくれた。
同じようにナマエの背にそっと腕を回して、力を入れすぎないようにぎゅっと抱き締める。
あーー、やっぱり毎日これやらないと!朝と夜の出迎えでこれやらないと一日は終わらないよね!
可愛い恋人とのスキンシップは大事だよ。
そんなことを思いながら、ぎゅうぎゅうっとかわいいナマエの柔らかな体の感触をたっぷりと堪能して、満足してからそっと離してあげた。

「……おかえり悟。」
「ただいまナマエ。……で、チョコちょうだい?」
「ふふ、言うと思った。ちゃんとリクエスト通りにチョコのフルコース作っておいたよ。」
「ありがとう。楽しみにしてたんだー!今日のために僕任務がんばったんだよ。」
「はいはい、よく頑張りました。」
「もっと褒めてよー!」
「食べてからね。」

そう言って適当に流そうとするナマエだけど、その表情は柔らかい。
呆れつつもちゃんと僕のこと甘やかしてくれるところ、本当に好きだなぁ。

「……ところでさあ、ナマエ。」
「ん?」
「悠仁たちにもチョコあげた?」
「あげたよ。当たり前でしょ?」
「ああ、やっぱりかぁ〜」
「もう、またヤキモチ?」
「正直、僕以外にはあげないで欲しいなぁ〜」
「悟ってば結構独占欲強いよね。義理チョコでも嫌なの?」
「ナマエのチョコは僕だけが欲しいよ。」
「本命は悟だけなんだから別にいいでしょ?愛情いっぱい込めてるのは悟のだけなんだし。」
「んーー、まあ、それなら……ね。」
「よしよし、大人になったね。」
「……もっと褒めて。」

背中からぎゅっと抱き締めて、グリグリと頭をナマエの肩に押し付ける。
子供みたいに甘える僕を、ナマエは穏やかに微笑んで、そっと頭を撫でてくれた。
子供の頃から、こうやって優しく頭を撫でられるのが好きだった。
母親みたいだけど、でも違くて。ずっと僕にとってはたった一人好きだった女の子で。
やっっと両想いになれたこの瞬間の幸せを……噛み締める。

「……ナマエ。」
「ん?」
「今日さ、一緒に寝よ?」
「えっ、と……それって……そういうこと、だよね?」
「そういうこと、だね。」
「……心の準備は……」
「今して。」
「わっ、わあ……」

そう言って耳まで真っ赤になりながら、あたふたとどうにかして逃げようとしているナマエの手をしっかりと掴んで、僕はまっすぐにナマエの夜のように真っ黒な瞳を覗き込んで言う。
珍しく僕に対して意識しまくってるナマエの顔を見れて、上機嫌になる。
もう少し押してみたら、どうなるんだろう。
そんな悪戯心が疼いて、僕は掴んでいた手するりと滑るように掌に移動させて、ナマエの手を握った。所謂、恋人繋ぎ。
そして真っ赤になっているナマエの耳にそっと唇を寄せて囁いた。とびっきり甘く、ナマエにだけ聞かせるための声で。

「今日はナマエの初めてが欲しいな。」
「〜〜っ!」

ポフンっと、一気に茹でダコのように全身から湯気が出てきそうな程、真っ赤になったナマエを僕は今日初めて見ることができた。
それだけでもう、今日は特別な一日になった。
まあ、特別な夜はこれからなんだけどね。
そう言って、照れて何も言えないナマエを見つめながら、僕はまたほくそ笑んだ。



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・伏黒恵SS(子供時代、夢主の片想い)

「はい恵!今年はカップケーキにしてみましたー!」
「……ん、ありがと。」

恵と出会って早4年。当時小学一年生だった恵は、今年で四年生になり、少しだけ大きく成長しても、相変わらず可愛い子であった。
毎年毎年、バレンタインには欠かさずにチョコを渡している。
今年は犬の形にしたカップケーキを用意した。
ちょっぴり無口な恵は、ぶっきらぼうにだけど素直に受け取ってくれて、お礼を言ってくれた。
もう、それだけで私は満足だ。恵はかわいい。とってもとってもかわいい。
素直でちょっと不器用だけど、優しくて、すごくいい子だ。
私は恵が大好きで、大好きで、ずっと一緒にいたいって思ってる。
だけどまだ恵は子供だから、私のことは異性というよりも、母親のような、お姉さんのようなものだと思ってるんだろうな。
それでもいい。私は恵に精一杯想いを伝えるの。

「恵、かわいい!好き!」
「あっそ。」
「大好きだよ!」
「何度も聞いた。」
「恵はかわいいねぇ。好きだなぁ。」
「っ、子供扱いすんな。」
「かわいいかわいい。」

よしよしと頭を撫でであげると、素直に触らせてくれる。
それがまた可愛くって、調子に乗って撫で続けたいたら、鬱陶しそうに手を払われてしまった。
おっと、やりすぎたかな。

「でも、そんなところも好き!」
「はいはい。」

恵がもう少し大きくなったら、私のこと、少しは意識してくれるかな?
そうなって欲しいなって思いつつも、まだこの距離感が心地よくて、もう少しこのままでもいいやって思ったんだ。



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・伏黒恵SS(原作軸、両想い)

「恵、好き!大好き!」
「知ってる。……俺も好きだよ。」

ナマエの好意を隠そうともしない告白の嵐に、俺は自分にできる精一杯の柔らかい笑顔を浮かべて答える。
するとナマエは嬉しそうに顔を綻ばせ、幸せそうにはにかんだ。

神獣白澤の娘。半神獣のナマエ。
そんな本来なら簡単に会ってはいけないような、中々会おうとしても会えないような、そんな存在のこいつと知り合って、もう随分と経つ。
最初は素っ気なくしても構わずに話しかけてくるナマエが少しだけ鬱陶しかったが、毎日毎日、会えば好きだ好きだと本気なのかそうじゃないのかよく分からない好意の言葉を告げてきた変な神獣だと思っていたのが、気がついたら俺も好きになっていて、思い切って告白したら、付き合うことになったのは記憶に新しい。

「今日はバレンタインだね!てことではい!今年は特に自信作!」
「んっ。ありがとな。」
「えへへへ、恵の為ですから〜」

可愛らしいリボンで綺麗にラッピングされたチョコを受け取ると、ナマエは嬉しそうに笑う。
こいつは俺といる時は本当に幸せそうに笑うよな。
俺に対して怒ったり、泣いたりしてるところを見たことがない。
もっと色んなナマエの顔を見てみたいなって、密かに思ってる。

「来月のお礼、何がいい?」
「んーー、私は恵からなら何でも!」
「それって一番困る答えだぞ。」
「でも、ほんとだよ。恵から貰ったものなら例え道端の石ころでも嬉しい!」
「いや、流石にそれは……」

ちょっと大袈裟に言い過ぎじゃないだろうか?
でもこいつなら本当に俺から貰ったものなら石ころでも大切に部屋に飾りそうだ。
自惚れでもなんでも、俺は白桜に相当好かれてる自信がある。
いや、だって毎日毎日好きだって言ってくれるしさ。
なんて誰に言ってるのか分からない言い訳をしながら、俺は来月はどうしようかなと考えを巡らせる。

「逆に恵が欲しいものあれば私が知りたいな!」
「それじゃお礼にならないだろ?」
「そうかな?恵が喜んでくれるなら、それが私には一番嬉しいけど!」
「……んー、じゃあ。」
「なになに?何でも言って?」

ちらりとナマエを横目で見る。
キラキラと子供みたいに目を輝かせて俺の答えを待っている姿は、まるで主人の命令を待つ忠犬のようで、ちょっとおかしいなって思った。
それでも俺の言葉一つで一挙一動する様は可愛らしくて、優越感にも似た感情が芽生える。
神獣なんて呼ばれる凄い存在なのに、こうして見るとただの恋する女の子だ。
その好意の矛先が俺なのが、すごく心地よいと思う。
俺が手を伸ばしてそっと頬に触れると、嬉しそうに目を細める。
やっぱこいつ、可愛いな。
そう思いながら、無意識に俺はナマエに顔を近づけた。

「んっ!」
「んむっ!!?」

唇に柔らかな感触が伝わる。
艶やかでフニフニしてて、離れがたいその感触を数秒たっぷりと味わってから、俺はそっと唇を離した。
目を開けて視界に最初に入ったのは、ナマエの耳まで真っ赤に染った顔。
それにまた優越感を感じて、俺は笑った。
固まって動けないナマエの唇にもう一度キスを落とす。
抵抗しないのをいい事に、俺は口付けを深めていった。

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