第1話

私の家族はとても仲がいい。
私は5人姉弟の長女として生まれ、両親にめいいっぱい愛情を注がれて育った。
ちょっと姉弟が多いくらいで、どこにでもいる普通の家庭。
だけど、どうやら私はちょっぴり普通の子とは違うみたい。
それに最初に気付いたのは母だった。私が1歳と2ヶ月の頃、弟を身篭っていた母を気遣い、15kgもあるお米の入った袋を軽々と持ち上げたことがあるらしい。
そして私はよく食べた。お相撲さんよりも食べるんじゃないかってくらい、よく食べた。
近所の食べ放題のお店やバイキングの店ではあまりにも食べすぎて出禁を食らう程よく食べた。
あまりにもよく食べるので、人に勧められるままデカ盛りに挑戦したら、余裕で平らげたので、ちょっとした有名人にもなっちゃった。

そんな私の大好物は桜餅。
子供の頃、初めて食べたらあまりにも美味しくて、毎日170個以上の数の桜餅を食べていたら、1年後には真っ黒だった私の髪と目は、桜餅のようなピンクと緑色のグラデーションの髪になっちゃったの。
それでも両親は私のことを大切にしてくれたし、弟や妹たちも私のこの容姿を「綺麗だね」って気味悪がらずに褒めてくれた。
だから私は、自分の髪と目の色が変わってしまってもあまり気にせずにいられたの。
それは家族の優しい愛情のお陰だったのだと気付いたのは、ある事がきっかけだった。

「お前の髪と目、気持ち悪いんだよ!」

小学一年の頃、ずっと好きだった男の子に告白した。
私のことを「かわいいね」って褒めてくれる優しい男の子だったの。
だけど私の髪が黒からこの奇妙な桜餅色になってから、彼にはっきりと言われた。
それまでこの容姿を気持ち悪いと言われたことがなかった私は、ショックだった。

「お前みたいな変な髪の奴と付き合ったら、俺まで変に思われる!」

そう嫌悪感剥き出しの目で言われて、私は何も言えなくなったの。
その日は真っ青な顔で家に帰宅して、お父さんとお母さんたちの前で大泣きしてしまったわ。
私の髪と目の色が変わっただけで、私を取り巻く外の世界は酷く冷たくなったみたい。
ずっと仲の良かった女の子たちも、私といると変に思われるからって、離れていった。
担任の先生には染めるんじゃないって地毛なのに怒られた。
みんな私を遠巻きに見て、クスクスと笑うの。私、すごく悲しかったわ。
だから私は髪を黒く染めて、目にも黒のカラーコンタクトを入れて、自分の容姿が"普通"に見えるようにした。
"普通の女の子"はそんなにご飯を食べないから、私は家族以外の前ではあまり食べなくなった。
そうしたら、私を取り巻く世界はまた優しくなった。
友達も沢山できたし、好きな男の子に告白したらあっさりとOKを貰えた。
それまでずっと、ありのままの私では受け入れてもらえなかったのに、髪と目を黒く染めて、か弱い女の子のフリをして、"普通"にしただけで、世界はこんなにも変わった。
それがひどく悲しくて、苦しくて、私は辛かった。
私はこのままずーと、自分を偽って生きていかないといけないのかな。
色んなものを我慢して生きていかないといけないのかな。
いっぱい嘘をついて、大切な家族に心配をかけて。
いっぱい食べるのも、力が強いのも、髪の毛や目の色も全部私なのに。
私は私じゃない振りするの?これからも?
私が私のまま、できること、人の役に立てることあるんじゃないかな?
ありのままの私で居られる場所って、この世にないの?
私のこと好きになってくれる人っていないの?
こんなのおかしい。おかしいよ……
こんな気持ちを、これからもずっとずっと抱えて生きていかないといけないの?

私は普通の子とは違う特殊な体質に加えて、もう一つ家族にも言えない秘密があった。
それは、物心ついた時から私にだけ見えている世界。
動物とは明らかに違う生き物。まるで映画やアニメで見るような、宇宙人や妖怪みたいなそんな言葉では言い表せないような姿をした生き物が私には見えていた。
それは家族にも友人にも見えなくて、どうやら私にだけ見えているみたいだった。
最初は私がおかしくなったのかと思ったわ。私だけがおかしくて、幻覚でも見えているのかと思っていた。
だけどそれは私が見えると分かると襲ってくるの。だから私は極力それを無視するようにしていた。
小さいものなら素手で倒せるけれど、大きいものだと流石に倒すのが難しいんだもの。

――そんな私に運命の出会いがあったのは私が中学3年生の時。

それは私が街で買い物をしていた時に、いつもみたいによく分からない生き物が近くを漂っていたから、見ないふりをして通り過ぎようとしたの。
そしたら、たまたま近くにいた黒いスーツ姿の人が鼠くらいの大きさのそれを一瞬で消してしまったの。

私、もうびっくりしてしまって、えっ、この人今何したの?あの生き物消しちゃったの?えっ、見えてるの??

つい驚いて、その人に声をかけちゃったわ。
そしたらその人は色んなことを教えてくれたの。
あの生き物は呪霊っていう呪いが形になったもので、その人はそれを祓う呪術師と呼ばれる職業の人なんですって。
その人は言ったわ。呪霊が見えるってことは、私にも呪術師の素質があるんじゃないかって。

それで私思ったの。もしかしたら、私のこの人より丈夫な体は、力は、人を助けるために持って生まれたものなんじゃないかって。
もしも私に人を助ける力があるのなら、私はこの力を呪霊に苦しめられている人たちを守るために、助けるために使いたいって。

それになによりも、呪術師には強い人たちが沢山でいるらしいの。
それってつまり、私よりも強い男の人がいるってことよね?
やっぱり女の子としては、自分よりも強い人に憧れる。
好きな男の子に守ってもらうのって憧れるじゃない?
こんな私でも、結婚したいって言ってくれる素敵な男性と出会えるかもしれない。
だから私は迷わずに決めたわ。

「私、呪術師になります!」

こうして私は、東京都立呪術高等専門学校に入学することに決めたの。


*****


呪術師は万年人手不足らしいと聞いていたけれど、本当だったのね。
その年の一年生は私を含めてたったの4人だけなのだと、担任の夜蛾先生に聞いた。
私に入学理由を尋ねてきた夜蛾先生に、正直に「将来の結婚相手を見つけるためです」と言ったら、先生は頭を抱えてしまったの。

やっぱりこんな理由ではダメだったのかしら?
でもでも、嘘はつきたくなかったんだもの。
私はもう、自分にも周りにも嘘をつきたくない。
ありのまま、自分らしく生きていきたいの。
私の心はずっとずっと自由であり続けることに憧れてた。
だから此処でなら、高専でならもしかしたらって思ったの。
だから此処に来た時に、髪を染めるのをやめた。
目にカラコンを入れるのもやめたし、ご飯も食べたいだけ食べるようにするって決めた。
他の人からしたら、理解できない理由かもしれない。きっと笑われちゃうかもしれない。
それでも、私にとっては大切な理由だから。

――私が先生に連れられて教室に入ると、既に2人が揃っていた。
黒髪ショートの大人っぽい感じの女の子に、長身で前髪がちょっと独特の優しそうな男の子。
私たちが入ってくるなり、視線を向けてきた。
急に注目されて緊張してしまったけれど、初対面の挨拶はとても大事だもの。
私は自分の空いている席に向かいながら、笑顔で2人に話しかけた。

「こんにちは、初めまして。私は甘露寺蜜璃って言います。どうか仲良くしてね。」
「ああ、私は家入硝子。よろしく。」
「私は夏油傑だ。よろしく。」

よっ、良かったわぁ〜!なんだか二人とも優しそうな感じだし、これなら仲良くやっていけそうね。
私は二人が笑顔で返事をしてくれたことが嬉しくて、ほっと胸を撫で下ろす。
すると夏油と名乗った男の子が話しかけてくれた。

「甘露寺さんは一般の出なのかい?」
「ええ、そうなの!街で会った呪術師の方にスカウトされて……」
「そうなのか、私も家入さんもそうなんだ。」
「まあそうなのね!嬉しいわ!今年は呪術師の家系の方が同級生にいると聞いていたから、ちょっと緊張していたの。」
「ああ、例の噂の彼か。」
「確か御三家の一つ、五条家当主の嫡男だっけ?」
「らしいね。なんでも相当優秀な逸材だとか?詳しくは知らないが。」
「まあそうなのね。呪術師のことはまだよく分からないのだけれど、すごい子が来るのね。ドキドキしちゃうわ。」

私たちがそんな会話をしていると、教室の扉がガラリと勢いよく開いた。
教室の扉を足で開けて入ってきたのは、2mはありそうなくらいの長身で白髪の髪が特徴のサングラスをかけた男の子だった。
どうやら彼が最後の一人だったみたい。つい先程まで噂をしていたのはこの子なのだろうかと、ついじっと見てしまったの。
そしたら目が合ってしまったわ。私は慌てて笑顔を浮かべた。

「あっ、初めまして、私かんろ……」
「なあ、その髪地毛?」
「え?ええ、そうよ。」
「うわっ、マジか!ウケるー!なんだよその色!」

私はピシリと笑顔のまま固まった。えっ、私笑われた?笑われちゃったの?
うう、やっぱりこの髪変なのかしら。
私が思わず「変かしら?」と聞いたら、「ピンクと緑のグラデーションはねーわ!桜餅かよ!」と男の子は爆笑していた。そう言われて、私の目は輝いた。

「そう!そうなの!すごいわ!よく分かったわね!」
「はっ?」
「私の髪、元々は真っ黒だったのだけど、大好きな桜餅を毎日食べていたらこうなってしまったの!」
「は?いやいや、そんなのありえーだろ。どんだけ桜餅食ったんだよ。」
「確か1日100個以上?いえ200だったかしら?1年間食べ続けたらこうなってしまったのよ。」
「はっ?マジで!?」
「そうなの!今までこの髪の色が桜餅って当てた人はいなかったのよ。あなたすごいわね!」

私は当ててもらえたのが嬉しくてついつい無邪気に話し続けてしまった。
にっこりと私が笑うと、男の子は呆気に取られたみたいにポカンとしていた。

「……なあ、お前名前なんだっけ?」
「私?私は甘露寺蜜璃!」
「ふーん、じゃあ蜜璃だな!」
「ええ!よろしくね!えーと……」
「お前俺の事知らねーの?」
「えっ、ええ?有名人なの?ごめんなさい。私呪術界のことを知ったの最近なの、だからあなたのことは知らないわ。」
「ふーん、まあいいわ。俺は五条悟。」
「そう!五条くん。素敵な名前ね!」
「悟でいい。」
「分かったわ!悟くんね!」
「ん。」

私が名前を呼ぶと、悟くんは満足そうにニヤリと笑った。
悟くんとってもカッコイイから、笑うとやっぱり素敵ね!キュンとしちゃうわ!
そうしたら、様子を窺っていた夏油くんと家入さんも話しかけてきた。

「やあ、私は夏油傑だよ。よろしく悟。」
「私は家入硝子。」
「あっ?なんだお前ら?馴れ馴れしーな。」
「おやぁ?甘露寺さんは良くて私たちは駄目なのかい?」
「あっ?喧嘩売ってんなら買うぞ?」

悟くんの額に青筋が浮かぶ。
夏油くんと家入さんはなんだかニヤニヤしてるし、どうしたのかしら?なんだか妙な空気になっているような……
なんて思っていたら、夜蛾先生が「お前ら挨拶は済んだか?そろそろ授業初めていーか?」と話しかけてきたので、私たちは直ぐに席についたのだった。
入学初日はそんな感じでみんなすぐに仲良くなれたの。
こんな素敵な同級生に囲まれて4年間勉強できるなんて、私今からワクワクしてしまうわ!


*****


ある時、特級呪霊の討伐任務を受けた。
まだ一年生なのだけど、うちには特級呪術師が2人もいるから、受ける任務もぐんっと難易度が跳ね上がる。
私はまだ2級で、とてもじゃないけど相手にならないような呪霊。
だけど悟くんと傑くんってば本当に強いのね。
特級呪霊をあっさりと倒してしまった上に、沢山集まっていた呪霊も一掃してしまったの。
特に特級呪霊は悟くんが弱らせてから傑くんが術式で取り込むというのがいつもの流れなっていた。

「よし、おーわり!」
「二人ともすごいわ!本当に強い!」
「あったり前じゃん!俺たち最強だもん!」
「私、ほとんど何も出来なかったわ。ごめんなさい。」
「まっ、蜜璃は弱いもんな!」
「うう、もっとがんばるわ!」
「いやいや、蜜璃だってこれからもっと強くなれるよ。」
「傑くん優しいのね!キュンとしてしまうわ!」
「それはどうも。」
「あっ?蜜璃、俺にはキュンとしねーのかよ?」
「悟くんもとっても強くてカッコイイわ!」
「まーな!」
「チョロ!」
「あ"っ?硝子てめー、今なんつった?」

特級呪霊ってもっと手こずるものなのでしょうけど、悟くんと傑くんの最強コンビがすごすぎて、私は殆どいつも見学のような感じになってしまっている。
硝子ちゃんは戦う力はないけれど、反転術式という誰にもできない方法でみんなを治療してあげることができる。
私、ダメね。全然ダメだわ。
二人に任せっきりで、全然役に立てないわ。もっと頑張らないと!
私が無意識にため息をつくと、傑くんが気づいて声をかけてきた。悟くんと硝子ちゃんは先に車に向かってしまったようで見当たらない。
傑くん、わざわざ待っていてくれたのね。優しいわ。

「どうしたんだい蜜璃。悩みがあるなら聞くよ?」
「あっ、傑くん。なんでもないのよ。ただ、私ももっと頑張らないとなって。ほとんど2人に任せっきりで、何も出来ないもの。」
「蜜璃は十分頑張ってるよ。それに、そんなに気にすることないんじゃないかな?蜜璃は条件さえ揃えば特級とやりあえる可能性があるじゃないか。」
「うーん、そうなんだけど……」

私が何となく目を向けた先に、傑くんが手に持っている呪霊が見えた。
真っ黒い大きな丸い玉のようなもの。けれどそれは先程倒した特級呪霊だ。
傑くんの呪霊操術は呪霊を体内に取り込んで操るものらしくて、取り込む時には丸い黒い玉になるらしい。

「傑くん、呪霊はまだ取り込まないの?」
「え?……ああ、後で飲むよ。取り込むところを人に見られるのは好きじゃないんだ。」
「そうなの?」
「ああ。」
「呪霊ってどんな味がするの?」

私がなんとなく聞いてしまった一言に、傑くんは驚いた表情を浮かべた。
目を大きく見開いて私を凝視してくる彼に、聞いてはいけないことを訊いてしまったのかと焦る。

「えっ、どうしたの!?もしかして聞いてはいけないことだったかしら?だったらごめんなさい!」
「いや、そんなこと聞かれたの初めてだったから驚いてね。大丈夫。」
「そ、そうなの?ごめんなさい。本当になんとなく好奇心で訊いてしまっただけなの。呪霊って食べられるのなら味はどうなのかしら〜って。」
「……気になる?」
「え?」

傑くんの声がなんだか、低くなった気がした。
瞳の奥の色が少しだけ暗くなったような。気のせいかしら?
私が素直にこくりと頷くと、彼は少し考える仕草をした後、黒い玉を私の目の前に持ってきて言った。

「だったら舐めてみる?食べるのはやめておいた方がいい。呪霊は私だから取り込めるのであって、蜜璃では多分死んでしまうから。……なーんてね、じょうだ……」

傑くんが言い終わる前に、ペロリと舌を出して舐めてみる。
突然の私の行動に、まさか本当に舐めるとは思っていなかったのか、傑くんがギョッとした顔をした。

「まっっっずいわーーーー!!やだ!美味しくない!すごくまずいわ!なんだろう、このすごい不快な味!何日も腐らせた野菜を更に腐った牛乳でコトコト煮込んだシチューの味かしら??とにかく臭いしまずいわ!」
「蜜璃、大丈夫かい!?体に異変は!?」
「傑くん!あなたいつもこんなの飲み込んでるの!?これは由々しきことだわ!大問題よ!やだもう!もっと早く教えてちょうだい!こんなのあんまりだわ!」
「えっ、えっ、蜜璃?どうしたの??」
「傑くん!今度一緒に呪霊を美味しくできないか研究しましょう!私がんばるわ!」
「ええ!?」

まさかそんなことを言われるとは思わなかったのか、傑くんはかなり戸惑っていた。
それから私は傑くんに頻繁に手作りの料理やお菓子を贈るようになるのだけど、それはまた別のお話ね。


*****


◆甘露寺蜜璃
恋に恋する女の子。
将来の結婚相手を探すために呪術師を目指している。 かなりの怪力。
術式は多分恋の呼吸と同じ。
そして縛りがあり、恋に胸を高鳴らせればなるほど強くなる。
逆に恋を見失った時、彼女は戦えなくなる。
2年生の中で一番優しい子なので、他の学年からは2年の突然変異とか地獄の中に生まれたオアシスとか、2年唯一の天使とか影で呼ばれている。
実はモテるのだが、告白しようとする男子や彼女に近づこうとする者を五条と夏油とついでに家入が裏で動いて揉み消している。そしてその事を蜜璃は永遠に知ることは無い。

◆五条悟
蜜璃の同級生。
蜜璃の髪が地毛だと知って爆笑した。初対面の印象は派手な見た目と体エロいなくらい。
素直で明るい蜜璃はバカっぽいなと思いつつも嫌いじゃない。
寧ろ素直に裏表なく自分を強いと褒めてくれる蜜璃に好印象を持っている。
褒められると調子に乗るので嬉しい。今のところ恋愛感情はない。
甘いもの好き同士気が合うので、たまに一緒に食べに行く。蜜璃の作るお菓子があまりにも美味しいので最近ハマっている。後に胃袋ゲットされる。

◆夏油傑
蜜璃の同級生。
初対面の蜜璃に髪の色すごいな染めてるのかな。あと体エロいなとか思った。
蜜璃のようないい子は好きなので優しく接する。同級生の中では1番いい子ではないかと思ってる。
自分の呪霊へのストレスにいち早く気づき、そして唯一気にかけてくれたので、ちょっとだけ気になり始めた。

◆家入硝子
蜜璃のことを非常に可愛がる。
なんか犬飼ったらこんな感じかなって思う。
素直でいい子だし、性格いいから好き。
素直すぎて変な男に引っかからないか心配。クソ共には絶対にやりたくない。
多分二年生の中で一番蜜璃セコムの過激派は彼女ではないかと思われる。


おまけ

蜜璃は夏油と話してから、よく寮で自分で作ったお菓子や料理をみんなに振る舞うようになった。
現在、共同スペースのテーブルの上にはショートケーキにチョコケーキ、モンブラン、アップルパイ、マカロン、ロールケーキ、クッキーにカップケーキと、これでもかと沢山のお菓子が並べられていた。
流石にこれだけのお菓子が並べれると、見ているだけでも胸焼けしてしまいそうになるが、1人だけこの状況に目を輝かせる者がいた。

「すっげーな!どれもうまそー!」
「悟くんも甘いもの好きなのね!私と一緒だわ!」
「食っていい?」
「どうぞ!みんなで食べましょう!」
「やりぃ!」

甘党同盟の1人である五条は上機嫌に鼻歌を歌いながらお皿に次々と好きなケーキを取っていく。
硝子は「すげぇ、見てるだけで口の中甘くなりそう。」とか言いつつもモンブランを手に取っていた。
夏油はポカンとしたまま動かない。
蜜璃は心配になって声をかけた。

「傑くん、もしかして甘いもの嫌いだったかしら?」
「いや、そんなことはないよ。」
「そう!それなら良かったわぁ!」
「もしかして、私のために?」
「うふふ、勿論それもあるけど、単純に私が食べたかったからよ。」
「……そっか。」
「今度傑くんの好きな食べ物教えてね。私がんばって作るわ!」
「蜜璃……ありがとう。」

その日から、夏油のストレスは少しだけ軽くなったのだった。

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