「ミキさんマジで歩くの」
「マジで歩くの、そう言うならついてくんな」

 雪の積もる道を歩きながら、万里は愚痴を零す。コンビニまでの時間はせいぜい片道30分、雪が降りすぎて車の方が余計にかかると思ったから歩くことを決行した。なんでこいつがついてきたかと言うと、出ようとした時に「俺も」なんて言い出したから。ひとりじゃ心細いし、まあいいんだけども。

「雪やべえよな、本当今週やべえよ」

 そんな事を言いながら、万里は私の横を歩く。ダウンジャケットにマフラーを巻いて、吐く息は私と同じで白い。今週は雪のおかげで休校だったという万里は、今週大して出かけなかったという。なんて羨ましい奴だ。水曜に間違えた電話で言っていた通り、寮に行くと万里は真っ先にやってきた。そして、髪の毛がボサボサになるまで頭を撫でてきた。「今週もお疲れ、頑張ったな」なんて言いながら。

「さすがにこの雪だと歩きにくいよね」
「確かにな、ミキさん転ぶなよ」
「転ばないよ、万里絶対バカにしてくるじゃん」

 そう言いながら見上げると、万里は「まあな」口角を上げて笑った。腹が立つものだから、私は肘で万里を殴る。その拍子で少しよろついた万里は、「あっぶねえ」と焦った声を上げた。言われた通り転ばないよう、少し凍ってきた雪道を踏みしめるように歩く。コンビニで買うものは、充電器と後適当に。求めていたお酒は、本当に万里が選んで揃えてあった。来て早々わざわざ冷蔵庫を見せて、ドヤ顔で「ミキさんが好きなものしか買ってこなかったから」万里は言う。けれど横で至が「大抵俺が教えたし、俺が買った」なんていうからやっぱりな、なんて思って笑ってしまった。どれだけ大人ぶった事をやっても、所詮は高校生。そういうところは可愛いな、なんて思ったり。

「わっ」

 考え事をしながら歩いていたから、気を抜いた矢先私は足を滑らせた。転ぶ、そう思った瞬間、万里が私の腕を掴む。

「あっぶねえ、だから言ったじゃん」
「……び、っくりした」
「俺もびっくりした」

 バカにするなんて暇もないかのように、万里は目を丸くして私を見る。暫く目を合わせた後、二の腕を掴まれている事に気付いて勢いよく腕を振り払った。恥ずかしい、転ぶ可能性は考えていたけれどまさか支えられるなんて思わなかったから。手持ち無沙汰となった万里は、私の方を見下ろしながら楽しそうに笑った。

「手でも繋いであげようか」

 さっきまで私の二の腕を掴んでいた手を、すっと私の目の前に差し出す。その表情は、嬉しそうというかなんだか楽しそうだった。わかった、バカにしてやがるなコイツ。こういうこと想定してました、なんて顔をしやがって。いつもの私なら絶対掴んでやらない。けれど、そういう事まで予想して思ってるんだろうなと思うと腹立たしい。ここは、期待を裏切ってやりたい。私はその差し出された手を掴み、万里に向かって意地悪な笑みを浮かべてやった。

「じゃあコンビニまでリードよろしくね、万里くん」
「え、あ、マジ?」

 本当に想定外だったらしい、万里は繋がれた手と私を交互に見る。その時の顔が面白くて、私は声に出して笑ってしまった。繋がった手は、暖かくて気持ちが良い。コンビニまでは、まだまだ距離がある。暫くはこの手のぬくもりに浸ってても良いかな、なんて思ってしまった。


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