特別な日にしたいんだ
友達だった。
そう、例えば放課後にちょっとだけ教室に残って、バカみたいな話をする程度の。
休日に2人で遊びに行ったりだとか、毎日連絡をとっているわけでもない。
もちろん、少女漫画定番の幼馴染というオチもない。
ただのクラスメイト。
少しだけ仲がいいから、良くて友達という分類。
ただそれだけだった。
「もう帰んの?」
夏休み明け。
そうそうにあったテストも落ち着いて、家でゆっくりでもしようかな、なんて思ってたら背中に投げかけられた言葉。
まるで幼い子供が離れる母親に縋り付くそれを思い浮かべてしまって、私は産んだことも無いのに母性がほんの僅かに湧いて振り返る。
私の前の席、我妻善逸はまだ帰る素振りも見せないで、じっと私を見ていた。
「どうした?」
いつもそんなこと言わないのに。
そう、いつもならば、一頻り笑い話をしたら、適当に別れる。
なのに今日はどこかおかしいと思っていた。
話していても何だかソワソワしていて、落ち着きがない。
まあ、我妻に落ち着きがないのは今に始まったことではないのだけど。
それにしたって、変なのは目に見えて分かった。
肩に掛けていたカバンをその辺の空いた机に置いて、さっきまで座っていた席に座り直した。
そうすると我妻は少しだけ安心したように目を細めた。
その様子を見て、ふと思い浮かんだ事を口にしてみた。
「またフラれた?」
「またってなんだよ! しかも、まだフラれてねーよ!!」
「まだ…?」
我妻が分かりやすく気落ちするなんて、どうせ女関係だと思ったら図星だったらしい。
口元に手を当てて、しまった、と声を漏らす姿にため息が出た。
確かにフラれた時は人恋しくなったりするだろうから、愚痴のひとつでも何でも聞いてあげよう。
菩薩のような心でコクコクと頷いたら、我妻が分かりやすく機嫌を損ねる。
「余計なお世話だってば」
「何も言ってないけど」
「言わなくても分かるんだよ、俺には」
我妻は自分の耳を指さして机に顔を突っ伏した。
前に聞いたことがある、確か我妻は耳がいいらしい。しかも、人の感情がわかるくらい。
冗談かと思っていたけど、目の当たりにしてちょっと感心する。
「なんでも分かるの?」
「…ある程度は」
「じゃあ、好きな子の考えてる事も分かるんじゃないの?」
「…まあ、ある程度は」
低く不機嫌そうな声。
地雷な話題だったかも、と思ったりもしたけど、後の祭り。
「便利なお耳ねぇ〜。でもちょっとうるさそうだね。好きな人の考えてる事分かるの、少し羨ましいけど」
そう言ってぽけーッとした顔で眺めていたら、突っ伏していた頭がくるりと回転する。
そして、金色の前髪の隙間から見えた同じ色の瞳は私を射抜いていた。
やっぱりいつもと様子がだいぶおかしい。
それほどまでに今回の恋愛は精神的にキテいるというのか。
自然とそのさらさらしてそうな頭に手が伸びていた。
触れてみたい、なんて思ったのはその時が初めて。
本人の了承を得る前に触れても、我妻は嫌がりはしなかった。
少しくすぐったそうにはしていたけど。
「……苗字も好きな人の考えてること、気になったりする?」
「何、いきなり」
「お前が言い始めたんだろ」
確かに数秒前に我妻に言ったばかりですけど。
少し目を泳がせて、我妻に言われた事を考えてみた。
…まあ、世間一般の恋する女子は気になるのではないでしょうか、なんて変な言葉を使って答えたら我妻はくすっと笑う。
あ、機嫌が少しなおったかな。
「ね、私の考えてること言ってみ」
「はぁ?」
「面白そうじゃん。もっかいやってみて」
「嫌だよ」
「何で何で、お願い」
くしゃくしゃとまるで犬を撫でるように頭を撫でまわすと、いい加減鬱陶しく思ったのかぬらりと我妻が上半身を起こす。
先程僅かに柔らかに笑っていたのに、一気に不機嫌なものに逆戻り。
それでも私はまるで新しいおもちゃを目の前にした子供のようなテンションだ。
だって、なんだか面白そうなんだもの。
「ほらほら、言ってみ。当たったら教えてあげるから」
本気になんてしてなかった。
だって我妻が帰って欲しくなさそうだったら、こんなバカみたいな話でもして、時間を潰そうとしただけ。
そう。我妻が望んでいたから。
なのに。
「…じゃあ、言うけど」
そう言って、ぽりぽりと後頭部をかく我妻。
その表情はバツが悪そうだった。
「俺の事、好きだろ」
まさか、誰にも言ったことのない真実をこうもあっさり当てられるとは思ってなくて。
私はあまりの事に顎がガクーンと下がってしまって、きっと間抜けな顔面を晒しているに違いない。
残念だけど、今だけ私の中の女子力は消え去ってしまった。それどころではない。
「イイエ」
「下手クソかよ!」
苦し紛れの否定もまた本気と捉えられてなくて。
私はこの場から逃げ出したくなった。
我妻は、少しだけ大きな声で言ったけど、でもそれでもふざけたりはしなかった。
茶化したりしなかった。
ただじっと真面目な顔で私を見ていた。
私と我妻しかいない放課後の教室。
遠くの方で運動部の声が聞こえる。
何か、言わないと。
そうだ、我妻のそれは間違っていて、私に好きな人なんていないって。
そう言えば済む話なのに、私の口先はパクパクと動いただけで、まともに声を発することすらしなかった。
「……あのさ、」
沈黙に耐えきれなくなった我妻が言葉を紡ぎ出す。
逃げたい、聞きたくない。
ずっと友達だった。
たまに雑談をするくらいの薄い関係の。
それで満足だった。告白をする勇気なんてなかった。
どうせ我妻は私の事なんて微塵も想っていないから。
告白して、この薄い関係すらなくなってしまうのが怖かった。
そんな私の気持ちすら、きっと目の前の我妻には伝わっているのだろう。
「俺、今日誕生日なんだよね」
「は?」
突発的なカミングアウト。
今まさにこの場に相応しくないそれに、逃げ出したいと震えていた私が一瞬ポカン顔で我妻を凝視する。
それが嘘なのか本当なのかわからないけど、それが今、何の関係が?
私の表情で何を考えているのか、分かってもらえたらしい。
我妻は「その顔やめろ」と言いつつも、私の頭に手を伸ばしてきた。
さっき私が我妻の頭を撫でたみたいに。
「プレゼント、くれない?」
「…え?」
プレゼント。いやまて。
今さっき公開処刑を受けた私にプレゼントまで強請る気か。
我妻の考えている事が分からな過ぎて混乱してきた。
そんな私を差し置いて、我妻は少し恥ずかしそうに呟いた。
「彼女、に…なってくれませんか」
その頬は、茜色で染まったのか、はたまた顔面の熱の所為なのか。
無意識のうちに漏れていた「どうぞ」という言葉。
次の瞬間、ずっと秘めていた恋心が成就したことを理解した。
特別な日にしたいんだ
「誕生日くらいしか勇気なんて出ないと思ったからさ」
そう言う我妻は、自然と机の上にあった私のより大きい手で、私のものを包み込んだ。
今ならわかる気がする。
きっと私と我妻、今同じことを考えているよ。
あとがき
善逸ぅうううう!! お誕生日おめでとおおおお!!!
これだけは書かなければと思って頑張った。好き、善逸。
近いうち連載するからね。来週とか。
そう、例えば放課後にちょっとだけ教室に残って、バカみたいな話をする程度の。
休日に2人で遊びに行ったりだとか、毎日連絡をとっているわけでもない。
もちろん、少女漫画定番の幼馴染というオチもない。
ただのクラスメイト。
少しだけ仲がいいから、良くて友達という分類。
ただそれだけだった。
「もう帰んの?」
夏休み明け。
そうそうにあったテストも落ち着いて、家でゆっくりでもしようかな、なんて思ってたら背中に投げかけられた言葉。
まるで幼い子供が離れる母親に縋り付くそれを思い浮かべてしまって、私は産んだことも無いのに母性がほんの僅かに湧いて振り返る。
私の前の席、我妻善逸はまだ帰る素振りも見せないで、じっと私を見ていた。
「どうした?」
いつもそんなこと言わないのに。
そう、いつもならば、一頻り笑い話をしたら、適当に別れる。
なのに今日はどこかおかしいと思っていた。
話していても何だかソワソワしていて、落ち着きがない。
まあ、我妻に落ち着きがないのは今に始まったことではないのだけど。
それにしたって、変なのは目に見えて分かった。
肩に掛けていたカバンをその辺の空いた机に置いて、さっきまで座っていた席に座り直した。
そうすると我妻は少しだけ安心したように目を細めた。
その様子を見て、ふと思い浮かんだ事を口にしてみた。
「またフラれた?」
「またってなんだよ! しかも、まだフラれてねーよ!!」
「まだ…?」
我妻が分かりやすく気落ちするなんて、どうせ女関係だと思ったら図星だったらしい。
口元に手を当てて、しまった、と声を漏らす姿にため息が出た。
確かにフラれた時は人恋しくなったりするだろうから、愚痴のひとつでも何でも聞いてあげよう。
菩薩のような心でコクコクと頷いたら、我妻が分かりやすく機嫌を損ねる。
「余計なお世話だってば」
「何も言ってないけど」
「言わなくても分かるんだよ、俺には」
我妻は自分の耳を指さして机に顔を突っ伏した。
前に聞いたことがある、確か我妻は耳がいいらしい。しかも、人の感情がわかるくらい。
冗談かと思っていたけど、目の当たりにしてちょっと感心する。
「なんでも分かるの?」
「…ある程度は」
「じゃあ、好きな子の考えてる事も分かるんじゃないの?」
「…まあ、ある程度は」
低く不機嫌そうな声。
地雷な話題だったかも、と思ったりもしたけど、後の祭り。
「便利なお耳ねぇ〜。でもちょっとうるさそうだね。好きな人の考えてる事分かるの、少し羨ましいけど」
そう言ってぽけーッとした顔で眺めていたら、突っ伏していた頭がくるりと回転する。
そして、金色の前髪の隙間から見えた同じ色の瞳は私を射抜いていた。
やっぱりいつもと様子がだいぶおかしい。
それほどまでに今回の恋愛は精神的にキテいるというのか。
自然とそのさらさらしてそうな頭に手が伸びていた。
触れてみたい、なんて思ったのはその時が初めて。
本人の了承を得る前に触れても、我妻は嫌がりはしなかった。
少しくすぐったそうにはしていたけど。
「……苗字も好きな人の考えてること、気になったりする?」
「何、いきなり」
「お前が言い始めたんだろ」
確かに数秒前に我妻に言ったばかりですけど。
少し目を泳がせて、我妻に言われた事を考えてみた。
…まあ、世間一般の恋する女子は気になるのではないでしょうか、なんて変な言葉を使って答えたら我妻はくすっと笑う。
あ、機嫌が少しなおったかな。
「ね、私の考えてること言ってみ」
「はぁ?」
「面白そうじゃん。もっかいやってみて」
「嫌だよ」
「何で何で、お願い」
くしゃくしゃとまるで犬を撫でるように頭を撫でまわすと、いい加減鬱陶しく思ったのかぬらりと我妻が上半身を起こす。
先程僅かに柔らかに笑っていたのに、一気に不機嫌なものに逆戻り。
それでも私はまるで新しいおもちゃを目の前にした子供のようなテンションだ。
だって、なんだか面白そうなんだもの。
「ほらほら、言ってみ。当たったら教えてあげるから」
本気になんてしてなかった。
だって我妻が帰って欲しくなさそうだったら、こんなバカみたいな話でもして、時間を潰そうとしただけ。
そう。我妻が望んでいたから。
なのに。
「…じゃあ、言うけど」
そう言って、ぽりぽりと後頭部をかく我妻。
その表情はバツが悪そうだった。
「俺の事、好きだろ」
まさか、誰にも言ったことのない真実をこうもあっさり当てられるとは思ってなくて。
私はあまりの事に顎がガクーンと下がってしまって、きっと間抜けな顔面を晒しているに違いない。
残念だけど、今だけ私の中の女子力は消え去ってしまった。それどころではない。
「イイエ」
「下手クソかよ!」
苦し紛れの否定もまた本気と捉えられてなくて。
私はこの場から逃げ出したくなった。
我妻は、少しだけ大きな声で言ったけど、でもそれでもふざけたりはしなかった。
茶化したりしなかった。
ただじっと真面目な顔で私を見ていた。
私と我妻しかいない放課後の教室。
遠くの方で運動部の声が聞こえる。
何か、言わないと。
そうだ、我妻のそれは間違っていて、私に好きな人なんていないって。
そう言えば済む話なのに、私の口先はパクパクと動いただけで、まともに声を発することすらしなかった。
「……あのさ、」
沈黙に耐えきれなくなった我妻が言葉を紡ぎ出す。
逃げたい、聞きたくない。
ずっと友達だった。
たまに雑談をするくらいの薄い関係の。
それで満足だった。告白をする勇気なんてなかった。
どうせ我妻は私の事なんて微塵も想っていないから。
告白して、この薄い関係すらなくなってしまうのが怖かった。
そんな私の気持ちすら、きっと目の前の我妻には伝わっているのだろう。
「俺、今日誕生日なんだよね」
「は?」
突発的なカミングアウト。
今まさにこの場に相応しくないそれに、逃げ出したいと震えていた私が一瞬ポカン顔で我妻を凝視する。
それが嘘なのか本当なのかわからないけど、それが今、何の関係が?
私の表情で何を考えているのか、分かってもらえたらしい。
我妻は「その顔やめろ」と言いつつも、私の頭に手を伸ばしてきた。
さっき私が我妻の頭を撫でたみたいに。
「プレゼント、くれない?」
「…え?」
プレゼント。いやまて。
今さっき公開処刑を受けた私にプレゼントまで強請る気か。
我妻の考えている事が分からな過ぎて混乱してきた。
そんな私を差し置いて、我妻は少し恥ずかしそうに呟いた。
「彼女、に…なってくれませんか」
その頬は、茜色で染まったのか、はたまた顔面の熱の所為なのか。
無意識のうちに漏れていた「どうぞ」という言葉。
次の瞬間、ずっと秘めていた恋心が成就したことを理解した。
特別な日にしたいんだ
「誕生日くらいしか勇気なんて出ないと思ったからさ」
そう言う我妻は、自然と机の上にあった私のより大きい手で、私のものを包み込んだ。
今ならわかる気がする。
きっと私と我妻、今同じことを考えているよ。
あとがき
善逸ぅうううう!! お誕生日おめでとおおおお!!!
これだけは書かなければと思って頑張った。好き、善逸。
近いうち連載するからね。来週とか。