「お雛様ってずっと出しっぱなしにしてると、行き遅れるんですって」


目の前ので雛あられを貪っている善逸さんに言うと「へー」と何とも気の抜けた返事が返ってきた。
鍛錬の合間、4人で縁側でほのぼの休憩中なのだか本日は雛祭り。
おやつに雛あられを出したところ、そこで初めて今日が雛祭りだと知った顔だった。

炭治郎さんは「名前は物知りだなー」と言って笑ってる。
伊之助さんは、問答無用で食べてる。ちょっとは話をに聞いてほしい。

蝶屋敷でも女性陣が多いからなのか、数週間前から立派なお雛様が飾れるようになった。
現代では中々見ることの無い立派な段数、私は思わず見惚れてしまった。
あまりに眺めすぎてしのぶさんから「並べるのを手伝ってくれませんか?」と聞かれ、喜んでさせて頂いた。

「あれだけ立派な物を3日が過ぎたらすぐに片付けてしまうなんて、勿体ないですよね」
「まあ、俺達にはよくわからないけどさ」

イマイチ私の感動が伝わってないのか、善逸さんは首を傾げながら「んー?」と言う顔。
猪に至ってはきっと雛祭りの存在も知らないだろう。
なんて奴らだ。

「炭治郎さんの所はお雛さんしていましたか?」
「うち貧乏だったから、立派な物はなかったけど、手作りの御内裏様とお雛様があったなぁ」
「手作りですか!凄いですね」

お茶を片手に炭治郎さんが言った。
懐かしそうに目を細めて雛あられを見ている。
今日禰豆子ちゃんが起きたら、桃の花をプレゼントしようと心に決めた。
禰豆子ちゃんも女の子だもの、きっと喜んでくれるよね?

「雛祭りは穢れや厄を払う意味もあるみたいですよ。女の子の幸せを祈るお祭りなんです」
「へぇー」
「はぁ?そんなんで厄が払えたら、鬼狩りなんて存在してねェよ」
「伊之助さん、そう言う話をしてるんじゃないですから。空気読んで下さい」

ほっぺから溢れ落ちそうなくらい、あられを頬張っている猪が怪訝そうに言った。
これだから猪は。
単純に桃の節句をお祝いしてよ!

「で、行き遅れるって何に?」
「今更ですね、善逸さんも知らないでへぇーとか言ってたんですか?」
「正直あんまり実感もないし、俺男だし」
「そんな気がしてましたよ、私は」

はぁ、と深いため息を吐いて野郎2人を見つめた。
ポカンとした間抜けな顔が1人、炭治郎さんのあられまで強奪して食べている野獣が1匹。


「婚期です、婚期!」


腰に手を当てて野郎2人によく聞こえるように言うと、どっちも首を傾げたままだった。

「婚期?」
「そうです」
「名前は嫁にいけねェのか?」
「伊之助さん、話聞いてました!?」

さらっと失礼な事を言う伊之助さんに私は全力で不快感を露わにする。
女の子になんて事を言うんだ、この野獣。
しかも何故私が行き遅れる前提なんだ、失礼にも程がある。
いや、貰ってもらえるか分からないんだけどね。
ちらりと善逸さんに目をやると、超どうでも良さそうな顔してるし。

はあ。



あなた達と話してたらイライラするので、この話は終わりです!とプンプン怒りながら私は会話を終了させた。
炭治郎さんが呆れた顔で2人を見つめていた。



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「また見てるの?」


客間に置かれた雛人形を眺めていたら、後ろから声を掛けられた。
声の主は分かっている、分かっているからこそ私は振り返りもせずに「悪いですか?」と少しだけ苛立ちを含んだ声で返した。
別にいいじゃん、何度見ても立派なんだから。

私の返答に相手がたじろいだのが分かった。
でも何も言わずに私の横へやって来て、並んで胡座をかいた。
ジロっと横目で見ると、唇を尖らせた善逸さんと目が合った。

「そんなにこの人形がいいの?」
「モチのロンです。空気の読めない野郎よりよっぽど素敵ですし」
「そんな言う!?」

ショックを受けた顔で私を見る善逸さん。
どうとでも思えばいい。
私はさっきのアンタたち二人の態度でショックを受けているのだ。
特に猪の発言は非常に許しがたい。

現在に居るときはそこまで楽しみでもなかったんだけど、これだけ立派なお雛様が飾られているだけで、全然違う。
ちょっとくらい夢見たっていいじゃない。

「やっぱり婚期とかって気になる?」

善逸さんが私の顔を覗き込むようにして言う。
あなた、普段誰彼構わず結婚を申し込んでいる癖になんでそういうセリフが出てくるんだ。
色々腹立ちながら、私はそっぽを向いた。


「女子ですから、一応」


困ったようにポリポリと頬をかく善逸さん。
私の気持ちなんて善逸さんには分からないだろう。
別に期待はしていない。
ただ夢をみているだけ。
切ない気持ちになってしまって、壇上のお雛様に目をやった。


「はぁ、そんな顔しないでくれる?」


困惑、呆れ半分といった声で善逸さんが呟いた。
そんなこと言われても私だって乙女なのだ。
隣のこの人と一緒になれるとは限らないけど、願ったっていいでしょ。


「ねえ、善逸さん」


畳の上にあった左手をそっと握った。
でもすぐに善逸さんから離されてしまった。
手を握ったのが嫌だったのだろうかと、また悲しい気持ちになったけど
すぐに善逸さんの手が私の手に絡める。
所謂、恋人繋ぎというやつだ。

ちょっと驚いたけど、構わず善逸さんを見つめた。



「私、行き遅れは嫌ですよ」



意味を込めて言ってみた。
恥ずかしいからストレート勝負は出来ない。
わかってくれた、かな?


期待はしてない、なんて嘘。
ホントは貰って欲しい。
少しは意識してくれたら嬉しいな。


私を見つめる善逸さんの顔が段々赤く染まっていく。
どうやら意味は通じたらしい。

ぎゅうっと強く握られる手。



「俺だって、行き遅れてもらうのは困るから」


だから、早く片付けてよね、この人形。
と、呟かれたそれは私の胸にゆっくり沈んでいった。

それって、期待してもいいって事ですか?
前言撤回とかダメですからね。

さっきまでの切ない気持ちはどこへやら。
胸の中はポカポカ暖かくなる。

私は善逸さんの肩に頭を乗せた。
心の中でこっそり今後の目標を決めて。


いつか、この人の隣で白無垢を着たいな。










「やめろ、伊之助!邪魔するんじゃない!!」
「は、ふざけんな!!あの金髪ボケの思い通りにさせてたまるか」

猪と猛獣使い(炭治郎さん)が乱入するまで、あと5秒。