今頃、皆は会場入りしているのだろうか。
本日はインターハイ予選当日である。
部員ではない私は先に会場で待機している。
きっと皆はギリギリまで学校にいたはずだから、もうバスで到着しているのかもしれない。
勿論今日もカメラは使えない。私にとっても初めての公式戦。みんなの邪魔にならないように一生懸命応援させてもらおう。

とかなんとか考えているうちに、コートの端を歩く黒いユニフォームの集団を見つけた。
日向くんがきょろきょろと顔を動かして、こちらを見つけると、嬉しそうに手を振ってくれた。
私も小さく手を振って口をパクパクさせて「がんばって」と言ってみると、それに気づいた日向くんがにこにこと笑顔を返してくれた。

どうやら皆調子がいいみたい。
ここから確認できるだけで、先輩たちの顔色も悪くはない。
これからの試合にドキドキしているような、そんな表情が見える。
……前言撤回、ただ一人つまらなそうにしている人間がいた。

メガネをくいっと上げて、客席を見回して私の方を見た。

『ばーか』

声が聞こえたわけではないけれど、その口の動きはまさに私を小馬鹿にしていた。
イラっとした表情を見せたら、またあの余裕たっぷりの顔で私をあざ笑う。
くっ…応援しに来ているのに、何故あんな顔をされないといけないんだ。
いつの間にか右手に拳が出来上がっていた、いけない、慌ててそれを引っ込めて私は何とか表情を元に戻した。

月島くんもいつも通り、みたいだね。
…いや、いつも通り過ぎるんだ。

いつもの部活で見せるような、つまらない表情でバレーボールを掴む月島くん。
何で、そんな顔をするんだろう。
日向くんや影山くん、他の皆だってバレーをやっている時は、真剣でとても楽しそうなのに。
どうして月島くんは一歩引いたところに立っているんだろう。

私は一抹の不安を抱えたまま、第一試合は幕を開けた。


◇◇◇


第一試合、相手の常波とは烏野高校が2セット先取し、勝ち進むことが出来た。
試合中も皆が本気でバレーをしている姿を見て、心が躍った。
なのに。
勝ったのに、どうして。
何で月島くんを見ると胸騒ぎがするんだろうか。
試合前も思った不安がどんどん膨れ上がってくる。でも当の本人はいつもの調子を保っているような気がするから、
私の気のせいであることは間違いないんだけれど。
手を抜いているようには見えないし、良くも悪くもいつもの月島くんにしか見えない。

私の考えすぎであれば、いいんだけれどな。

「何、また余計な事考えてるワケ?」
「ブフッ」

いるはずもない所から、急に今の今まで考えていた人の声が聞こえたものだから、私は口の中の水分を噴出し、とても情けな姿を晒すこととなった。
私の隣の空いた席にドン、と座るメガネの高身長。
月島くんはぼそりと「汚い」と呟いて目を細めた。

「誰の所為だと思って…!」
「僕の所為だとでも?」
「……」
「図星?」
「…黙秘」

図星も図星なのだが、指摘されると気まずいので私は堂々と沈黙を貫く。
月島くんはそれ以上追及することもなく、手元にあったスポドリの蓋を開けて、ごくりと一気に口に流し込んだ。

「第一試合、おめでとう」
「まだ、一回勝っただけだよ」
「一回でも凄いよ」
「次はどうかわからないけどね」
「何で…そんなこと言うの?」

やっぱりどこかおかしい。
勝ったのに全然嬉しそうでもないし、次も絶対勝つという気持ちが一切感じられない。
元々月島くんはそういうタイプの人ではないけれど、あまりに無気力すぎないだろうか。
だって、今日は初めての公式戦なんだよ?

先程までの不安が少し表に出てきてしまった。
私の急変した態度に月島くんは驚いた顔を見せたけれど、すぐにふうと息を吐いた。

「次当たるとこ、烏野が前に負けたとこだから」

さも当然、というような顔で。
月島くんはコートの方を見ながらそう言い放つ。
その言い方が凄く冷たい気がして、私は少し悲しくなった。

「じゃあ、次は勝ってね」

さも当然、というような顔で。
今度は私がそう言うと、呆れたような顔で私を見る月島くん。
「は?」と隣からすぐに返ってきたので、月島くんからすればまた突拍子もない事を言っているのだろうと思う。
それでも、私の願いは変わらない。

「皆のカッコいい所、見たいから」
「どうせ日向だけデショ」
「…もしかして、拗ねてる?」
「は? バカなの、君」

すぐにいつもの不機嫌そうな声が降ってきたので、月島くんをいじるのはこの辺でやめておこう。
ただでさえ身長差があって体格では断然負けるのだ。
次の試合の準備を告げる放送が鳴り始めた。
座っていた月島くんが腰を上げて、観客席を出て行こうとする。
最後にその背中に私は一言言ってやらないと気が済まない。
少しでも月島くんにやる気になって欲しいから。


「ちゃんと前を見てね。月島くんのカッコいい所、見てるから」


恥ずかしいから小声で呟いたのだけれど、月島くんの耳には無事に届いたらしい。
月島くんはふ、と鼻で笑って返事らしい返事もしないで席を立った。