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なんでそんな反応をするんだろうか、この人は。
可愛いのかカッコいいのか分からない大男。
私まで同じように顔に熱が籠ってしまう。これは煉獄さんの所為だ。
どうすれば、この熱は治まるのか。
もう戻れないところまで来てしまった、今更諦めるのは無理なようだった。
だって今すぐにでもその髪に触れたいなんて、考えてしまうのだから。

「……そんな事を言われては、」

自分の口元を押さえ、ボソリと呟く声は最後まで聞こえなかった。
だけど、こんな少女のような反応をされてしまうと、私もどうすればいいのか分からない。
微妙にぎこちない空気のまま、時は流れて行く。
喋らずに食べていたから、既にお皿の上は何も乗っていなかった。

「煉獄さん」

こんな状態で喋らず過ごすのもどうかと思い、まだ頬の赤い煉獄さんに話しかけてみた。
煉獄さんは肩をビクリと大きく揺らし「何だ!?」と過剰反応としか思えないくらい大きな声で答えてくれて。
その声に私も僅かだが驚いてしまった。

「煉獄さんが住んでいた時代のこと、知りたいです」

気を取り直して、呟いた言葉に煉獄さんは先ほどのような反応は見せなかった。
その代わり、目を見開いてとても驚いた顔をしていた。
それもそのはず。私は今まで煉獄さんの住んでいた時代のことを、自分から聞こうとはしなかったからだ。
聞いたところで、煉獄さんが今生きているのは、令和の時代。
無意識的に昔に戻ることなんてありえない、なんて思っていたのかもしれない。
だから、煉獄さんにはこの時代で生きて行く術だけを教え、煉獄さんの過去の事など深く聞く事をしなかったのだろう。
むしろ、戻らないで欲しいと、自覚する前から考えていたのかも。

気持ちを自覚した後、いつまでもこの状態が続くなど考えられなかった。
私は、私のことしか考えてなかった。だけど、煉獄さんは戻りたいと願っている。
今は無理でもそう遠くない未来に戻ることが出来るかもしれない。
その時に「こんなはずじゃ」なんて喚いたって遅い。

だったら、今のうちに失恋する準備をしておかないと。
今だけ好きでいられればいいなんて、そんな事が出来ないくらい大人になってしまった自分が少し悲しい。

「…ああ。何から話せばいいだろうな」

赤らめていた顔は徐々に元の色を取り戻していた。
私達の間に流れる空気もこの数日のぎこちなさをかき消すように、元に戻ろうとしていた。
そう、これでいい。
私はこの雰囲気が好きだ。
私の事を真剣に向き合って、真剣に対話をしてくれる、煉獄さんが好きだ。

「ちょっと気になったんですけど」
「何だ?」
「もしかして、煉獄さん婚約者さんとかいたんじゃないですか?」
「ブフッ」

穏やかな笑みを見せつつ、コップに口を付けていた煉獄さんが一気に噴き出した。
慌てて自分で台拭きで後始末をしている様を見て、私の目は糸のように細くなる。

「動揺しすぎです」
「い、いや…それは名前が突拍子もないことを言うからだ!」
「突然言ったのはそうですけど、別に珍しい話でもないんですよね?」
「…ま、まぁ…嫁が三人いる者もいる、からな」
「うわぁ、一夫多妻」

もう顔の色よりも造形が凄い事になっている煉獄さんの顔を見て、私は思わずくすりと零してしまう。
この煉獄さんの状況から見て、とてもじゃないけど女慣れしているとは思えない。
ほんの少し安堵する気持ちに、煉獄さんに気づかれない様に溜息を吐いた。
いじわるをするつもりで、にやりと口角を上げながら尋ねてみる。

「じゃあ、煉獄さんも嫁は三人欲しいんですか?」

そう言うと、カチーンという擬音そのままに煉獄さんの身体が固まってしまう。
一瞬置いて、すぐに扇風機かというくらい首がブンブンと動き、

「違っ、断じて…! 俺は、そのっ!」

と叫ぶように身を乗り出した。
ぐいっと近づいた顔に今度は私が驚いてしまって、身体が動かなかった。
目の前で止まる煉獄さんの顔。
急接近した顔に思わず二人同時に顔を逸らした。

…バカ。


◇◇◇


「そう言えば、煉獄さんっていくつくらいですか? ずっと聞こうと思っていて忘れていました」
「俺か! 俺はまだ二十歳そこそこだ」
「……は?」

変な空気を払しょくしようと思って聞いた質問。
そこで衝撃的な事実を知る。
むしろ何で今まで知らなかったのかというくらい、当然の情報だったけれど、煉獄さんの雰囲気から歳は近くとも年上だろうと踏んでいた。
なのに。

「え、まさかの同い年…?」

そんなことある?
年上だと思ったから、敬語で話していたのに。
私の反応に煉獄さんはニコニコ笑って、その大きな手を私の頭の上にガシガシと乗せる。

「名前は妹のように可愛らしいよ」

言われた一言が残酷すぎて、驚いていた顔も凍る。
私の変化に気づいた煉獄さん。
何故かしまった、という顔をしてすぐに手を引っ込めたが、引っ込めようとする手を私が掴んだ。

「…煉獄さんにとっては、私はまるで妹のようだと?」
「いや…それは言葉の綾で…妹として思っているわけでは…」
「ふーん? 一つ忠告しておきますが、女性に可愛いと言うときは、頭に『妹のように』等は付けない方がいいですよ、気に障ります」
「…すまない」

特に煉獄さんの事を想う私みたいな女は。

わざと膨れた顔を見せて、ぷいっと顔を逸らしたら、目に見えて煉獄さんは焦り始めた。
精々困ればいい。このど天然な人が自覚することなんてないだろうから。

「…名前は、可愛らしい女性だと思う」

だから、こそ。
不意打ちのように真剣さを孕んだ声色で囁かれて。
逸らした顔の赤みがばれないように、私はまたそっぽを向いたまま、ドキドキと高鳴る心臓の静め方について頭を巡らせるのだった。

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