「この辺りで、人の神隠しがないかって?」
「ええ、噂で伺ったんですが、場所が分からなくて…」
私は暖かい美味しいお団子を頬張りながら、お茶屋さんの奥様に尋ねた。
奥様は少し困った顔をして考えていたけれど、何かを思い出したように手をパンと叩いた。
「この前の道を行った所に小さい町があるんだけどねえ、以前、流行病で人が沢山病気になったのよ」
ふむふむ、と頷きながらお茶まで貰う私。それにしてもこのお団子は本当に美味しい。
喋りながら食べるのは行儀が悪いような気がしなくもないけれど、お店で食べるなんてこの時代に来て初めての事だ。
少しばかり許してほしいなどと頭の隅で考えながら、もうひとつお団子に手を伸ばす。
頭を揺らすとポニーテールの髪が後ろで揺れているのが分かった。
ちなみに我妻さんは横で青ざめた顔で、お団子を食べてる。
「亡くなった方も一杯いたみたいだけど、大きい街からお医者様が来て下さったらしくて、その方の病院で皆、看て貰ったら元気になったらしいのよ」
「へえ、腕のいいお医者様なんですね」
奥様の言葉に素直に私は驚いた。
この時代の医療は現代と比べて相当な差がある筈だ。
現代で治るとされている病気でも、この時代では不治の病だったりするし、そんな中に腕のいい医者がいれば、死亡率も下がっていくことだろう。
奥様は少しだけ眉を寄せ「でもねえ」と右手を頬に当てる。
「入院していた人たちが帰ってこないんですって」
「え?」
お団子を食べ終わり、ずずず、と口に入れていたお茶が危うく噴出するところだった。
完治した人が帰ってこないとは一体どういう意味だろう。
私の言いたいことが伝わったのか、お団子屋の奥様は眉を顰めて、少しだけ小声で話し始める。
「一度は帰ってきたみたいなのよ。でも、書置きをして出て行ってしまったんですって」
「えぇ…それが全員ですか?」
「そうみたい。だから神隠しっていうよりは、家出なんだろうね」
私達が探していた案件は間違いなくそれだろうな、と思いながらハンカチで口の周りを拭う私。
奥様は「ゆっくりしていきなね」と言いながら店の奥へと消えた。
有益な情報を頂いたので、私は満足して次のお団子へと手を伸ばした。
「絶対、鬼の仕業じゃん。絶対そうじゃん。俺死ぬって」
念仏を唱えるように、ブツブツ横で呟き始める我妻さん。顔色は青から土色へ変化しようとしていた。
さっきまで一言も話さなかったのに、ネガティブな発言には積極的だよね。
手に刺さっているお団子もあんまり減ってないし。こんなに美味しいのに、勿体ない。
「我妻さん、いつまでグジグジ言ってるつもりですか? 目的地までもう少しですよ」
「何で名前ちゃんはそんなに冷静なんだよ! 鬼だよ? 俺、死ぬじゃん!」
「我妻さんがそれをやっつけるんでしょー」
すっと我妻さんの手からお団子を奪い取り、一つ口に放り込む私。
我妻さんは一瞬あっけに取られたようでぽかんとしていたけど、すぐに顔を真っ赤にして「またそう言う事をする!」と怒り始めた。
その声で我妻さんの頭の上で寝ていたチュン太郎ちゃんが、吃驚して起きた。
チュン太郎ちゃんは鎹鴉だけど、人語が話せないため詳しい情報は落としてくれない。
困った私たちは休憩がてら、お団子屋さんで情報を集めていたということ。
まさか一件目でこれだけ有益な情報を頂けるとは思ってはいなかったけれどね。
奥様の話だとこの先の町に鬼はいるみたいなので、自然と私たちの目的地も決まった。
「折角、着て出てきたけど、着替えたほうがよさそうかも」
チラリと自分の恰好を眺めながら言う。
今の私の恰好は旦那様のお屋敷で着ていた着物や割烹着ではない。現代で着ていたセーラー服だ。
この時代でもセーラー服は存在していたと思うけど、現代のコレとは違いがあるだろうし、そもそも学生服をあまり見かけない。
凄く目立つんだよね、コレ。
少し悩んで、私はお団子屋さんの奥様に向かって声を張った。
「奥様、すみません。奥のお部屋を少しお借りしてもよろしいでしょうか?」
快く返事をしてくれた奥様から部屋を借りて、持ってきた着物に着替える。
藤乃さんから頂いた羽織と一緒に着ても、ケンカしない装いだ。
この辺のチョイスは藤乃さんに任せていたけど、流石と言った所。
若葉色の羽織からちらりと見える、レトロな柄の白とピンクのお着物。
屋敷にいた時は、いつも決まったお着物だったから、外出用の着物は初めてだ。
「お待たせしました、我妻さん」
「そんなに待ってないけ…ど、」
相変わらず血色の悪い顔をして、椅子に腰かけていた我妻さんに後ろから声を掛けた。
振り返った我妻さんの目が一気に開かれ、硬直してしまった。
あ、地蔵になった。
「な、なん、な…」
「日本語でお願いしますよ」
ナワナワと震えている我妻さんを余所に私は奥様に「おあいそでお願いします」と声を掛けた。
私の肩にチュン太郎ちゃんがとまる。
可愛くチュンと鳴いてくれたので、もう結構仲良くなったなあと嬉しくなった。
ポニーテールだった髪もハーフアップにして、着物に合う恰好にする。
髪をシニヨンにするのもいいかもしれない、今度はそうしてみようと思う。
「大正お嬢さんって感じですか?」
「何を言ってるかわからないけどさ……似合うと思う…」
我妻さんに尋ねたら、また念仏を唱えるように何か言っていたけど、声が小さすぎて聞き取れなかった。
またどうせ適当な事を言ってるんだと思ってスルーした。
お団子屋さんを後にした私たちは道なりに進んでいく。
この時代の可愛い恰好をしていると、物凄くテンション上がる。
前から歩いてくる人たちのレトロな服装にも思わず口元が緩んでしまう。
やっぱり私も女の子だったんだな、なんて考えてたら顔に出ていたらしい。
我妻さんが「楽しそうだね」と言った。
この人の場合は私の“音”を聞いたんだろうけれど。
「こういう恰好をした事がなかったので。あと何かデートみたいで楽しくて」
「でえと?」
我妻さんが首を傾げながら聞き返す。さらりと我妻さんの金色の髪が揺れた。
私は返事の代わりにニコリと微笑んで、我妻さんの一歩先を歩き始めた。
どうせもう少しで修羅場になるんだから、今だけこの状況を楽しんだっていいでしょ。