時刻はもう3時をまわっていた。
学校に戻ると昇降口前で待っていた相澤先生が飯田くん、それから私と私の脚を見て何かを察したように息を吐いた。そのまま紙を取り出すと飯田くんに、保健室まで連れて行けと伝えた。私は除籍かなとびくびくしていたが、先生は出席名簿でばしっと私の頭を叩く。私は思わぬ衝撃に目を白黒させるし、飯田くんは体罰に当たるのではと呟いた。

「ガキにはこれくらいが丁度いい。保健室から戻ってきたら説教」
「はい……すみませんでした」

飯田くんはこれも日本最高峰なのか…?と疑問を浮かべていたが、すぐ我に返り保健室へと連れて行ってくれる。大きなドアの先にある保健室では、リカバリーガールが話は聞いてるよと迎えてくれ、ちゅーっと治癒力を高めてくれた。ちょっと驚いたし、なんか疲れた気がする。飯田くんは私の治療が終わるまで待っていてくれた。

「そんな大した怪我じゃないよ。お大事に」
「はい。ありがとうございました」
「あんた、無理すんじゃないよ。私は怪我は治せるけど心の痛みを取り除くことはできないんだからね」
「…はい」

リカバリーガールにもう一度お礼を言うと保健室を後にする。飯田くんはさっきみたいに行こうと言い、職員室がある方へ向き直った。これから相澤先生のお説教が待っている。誤ったことをしたのは私だし後悔もしている。しかし、だからといって自ら先生に怒られるのはやはり勇気がいった。一歩の足取りが重い。
でもすたすたと歩く飯田くんに置いていかれないようにと着いて行けばあっという間に職員室についた。

「では俺は先に教室に戻っている」
「うん。あの、ありがとう」
「いや、委員長として当然のことだ」

相変わらずぶれないなぁ。彼の背中を見送り、覚悟を決めてこんこんと目の前のドアを叩いた。

「失礼します」
「お、来たか」
「はい…本当にすみませんでした」
「全くだ。事情はクラスの連中からおおよそ聞いているが、本当なら除籍ものだ」
「……はい」
「ヒーローが衝動的になるな。冷静でいろ」
「…………」
「お前のせいで午前と午後の半分、皆は限りある時間を失った。償いはこれからの行動と態度で示せ」
「はい」
「はい、以上。お疲れさん。クラスに戻れ」

償いきれるのかな。
私がしたことは冷静に考えれば個性の不正使用と言われても仕方ない。それに、皆を傷つけた。傷害罪とかのレベルじゃないかな。いや、そんなことよりも皆に謝らなきゃ。まずそれが1番の償いだ。許してもらえるかは分からない。
それに飯田くんはああ言ってくれたけどステインの妹だと知って軽蔑されるかもしれない。あの子達の様に。いやでも前の学校での言葉が頭の中を駆け巡る。
またよく来れたなと思われたら?
ヒーローは無理だと思われたら?
お前もいつか誰かを殺すと言われてしまったら?
でも、私は何も言えない。だってそう思われても仕方ないことをしてしまったのだから。
それでも、虫が良いとは分かってはいるけど、私はまだ皆と一緒に過ごしたい。少しだけ触れた優しさや温かさに私はまだ縋っていたい。

朝、相澤先生と一緒に歩いた道を今度は独りで向かう。1-Aはもうすぐだ。





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