「おい丸顔、あいつの個性結局なんなんだ」
「丸顔って……」

よりにもよって爆豪くんか、と思う。体育祭のトーナメント1回戦で戦ってからも何度か話してはいたが、未だに緑谷の様に親しく話せるわけではない。昨日の敵は今日も敵だったりするのだ。今は仲間やけど。
爆豪にこの間名前の家で彼女が話したことを伝える。あの時は個性のコントロールだと話していた。発動条件までははぐらかされてしまっていたが、血液を体に取り込むことが発動するために必要だと体力テストの時に言っていた。概ねその通りではないかとお茶子は思う。
そう伝えると分かったも何も言わずスタスタと前を進んでいく。以前ペアを組んだ緑谷は角に来るたび向こう側の様子を伺い、問題がなければ合図をしたうえで先に進んでいた。こんなにも二人は違うものか。
そのまましばらく進むが、一向に名前は姿を見せなかった。

「どこにいるんだろ…」
「人質ンとこに決まってんだろバカか」
「そんな言い方しなくても、まぁいいや」

デクくんと彼は違うのだ。比べてしまったところで意味がない。そう心を切り替え、次の角を曲がる。少しすると物音がする部屋の前まで来た。すぐさま爆豪くんはBOOOOMとドアをは破壊する。吹き飛ばされたドアは真っ暗な部屋の中に転がっていったが、どこまで転がっていったかは分からなかった。入り口の近くは外の明かりが差し込み様子が分かるが、部屋の奥までは照らしてくれない。部屋の真ん中あたりに何かが転がっているが、こちらからはよく見えなかった。それよりも、

「あれ、名前ちゃんおると思ったのに」
「物音したんだからこの辺だろ」

爆豪くんが先に部屋の中まで進み、その後ろに続く。ドアの真下までくると、突然ヒヤリとした嫌な感覚が全身を覆った。

「丸顔!!!」
「ぅえっ?!?」

振り返る爆豪につられて後を見れば、廊下に既に血のついたナイフをベロリと舐める名前。いつの間に切られたのか。そう思うやいなや、麗日は自分の立ち位置の悪さに気付く。狭い入り口部分では自分が爆豪くんと名前の間に立っており、彼は爆発しようにも麗日が邪魔になっていた。やらかした、と思う頃には肩口が痛み血がついていた。ここを切られたのか。爆豪に押し出され、廊下へと戻る。少し先に黒いスーツに身を固めた名前がいた。

「クソが!!死ね!!!」
「うわっ、火力そんなでんの?!」

驚いた様子を見せながらも爆豪くんの追撃をヒラリと交わす名前。そのまま廊下での戦闘が始まるが、先程から個性のコントロールのせいか、様子がおかしいことに麗日は気付く。それにまずは武器を、と思うが周囲には何もなく、どうしようもできない。それに加えてまだ何もしていないというのに感覚的に分かる調子の悪さ。キャパオーバーがもう来たのかと思うくらいだ。これが名前の個性。強い。

「おい丸顔!!テメェなんもしねぇなら人質助けとけ!!!」
「は、はい!」
「あ、それはダメだって」

私が負けになってしまう、と一人名前は呟くと、音も立てずに爆豪にナイフを突き立て、刀身に舌を這わす。たらりと頬から血を流す爆豪は自身の個性が弱まるのを感じながら、くそが、と唾を吐いた。
麗日はすぐさま人質を助けだそうと部屋に戻る。先程と同じように暗い部屋ではあったが、ドア横の電灯のスイッチを見つけ、パチンと叩く。そしてその先にあった光景に息を呑んだ。

「爆豪くん、やられたわ」
「ア゛?!」
「ほら、あそこ。人質」

麗日の指差す先には真ん中に倒れる人質用のダミー人形。その表面は焦げ付いており、その先に、先程爆豪が吹き飛ばしたドアがひん曲がった状態で転がっていた。ドアが、人質を轢いてしまったというのは明らかであった。
麗日は余りにも恐ろしい光景に喉の奥がグッと押し込まれたような感覚になった。自分たちの行動が人質を傷付けたのだ。ヒーローを志すものとして、あってはならない、士気を削ぐには充分なものであった。
爆豪はその光景を見ながら自身の不甲斐なさと怒り、以前も感じた強い敗北感に襲われ、耳を劈くような大声で叫んだ。

『……ヴィランチーム、Win』

オールマイトは人質の解放でも、ヴィランの拘束でも、制限時間オーバーでも無い、予想もしなかった結末に汗を流しながらも、勝敗を告げた。
名前は二人の様子を見て、まずは初戦を納めたことに安堵したものの、ある程度想定していたエンディングとはいえ、自身も罪悪感に苛まれた。


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