えげつな。
次に名前と戦う上鳴電気はモニターの向こうにある光景を見て、素直にそう思った。つい先日歓迎会をしたときのあの茶目っ気のある笑顔が印象的の名前はそこにいなかった。しかし、以前USJの時襲撃されたようなチンピラのようなヴィランでもない。動画で見たステインともまた違う、心の奥底に闇を抱えてるようなヴィランがそこにはいた。

「では講評に入るが、1つ訂正したい。先程名前少女の勝利と伝えたが、あの結果は正直勝ちとも言えない」

オールマイトは厳しい顔でさっきの訓練の結果について話した。俺としてもあの勝ち方は、勝ちと言えるのか分からない。反則勝ちともまた違う。けど、ヒーローの心を壊すには充分なものでだった。

「まずヒーローチーム。悔しいだろうが、小さなミスの繰り返しがあの結果になったことは分かるね。まずは情報共有の不足。協力体制の欠如。ここからだ」

協力しあえてねぇのは、まぁ爆豪の性格からだろうな
しゅんと項垂れる麗日にオールマイトは更に声をかける。

「それから爆豪少年の救出の粗暴さ。内部の様子の観察に欠けていた。そして麗日少女の危機的状況下での判断力。部屋に入るときというのは相手から奇襲を受けやすい。入り口は軌道を定めてしまうからね。そのことを忘れずにな」

まぁ私はよくドアじゃなくて壁を壊してしまうんだけどね!と笑ったが、釣られて笑う奴は誰もいなかった。
それから、とオールマイトは咳払いをすると名前に向き直り、名前少女はヴィランとしての心理に欠けていると問われた。

「ヴィランにとって人質は生命線だ。人質がいるからこそヒーローや警察は手が出せない。だからこそヴィランも人質をある意味守らなければ。自身がやられてしまうからね」

ちらりと横目で見た名前は、小さく、はいと返事をする。俺の角度からは彼女の顔はよく見えなかった。

「ひとつ聞いていいかい。人質はヴィランの任意で位置を動かされることが多い。大抵はひと塊に部屋の奥の壁際などに追いやられているが、何故あえて部屋の中央へ?」
「博打でした」
「?」
「部屋の中央ならドアからの光で何かいると気付く。ヒーローチームがヴィランの私か、人質か……それを判断するために部屋の中に入るとふみました。それを後ろから奇襲しようと思って。それに」
「爆豪くんの性格なら、ドアを破壊して入ってくるとおもった」
「私が……ヴィランなら、そう考えて……ヒーローが1番ダメージを受ける方法を、と」

まさか本当に人質のところまでドアを吹き飛ばすとは思っていなかったが、と名前は思う。可能性を考えてはいたが、彼の爆発力を見たのは体育祭の録画と普段の小さな怒りの爆発。ヒーローという立場から人質を傷つける可能性は低く、爆破の規模も小さいだろうと高をくくっていたのだ。だからこそ、爆豪がドアを破壊した時と自身に攻撃してきた際、彼女は驚いていたのだろう。
そこまでオールマイトは見抜いていたのか、優しく説き始める。

「しかし、先程も言ったようにヴィランは人質が第一。その後ヒーローが突入しやすくなってしまい、結果的に捕まるだろう。そこまで考えてたかな」
ヴィランになりきるのはいいが、先を見据えるのはヒーローでも大切だよ

その言葉に何も言えなくなり、俯く。名前は自分の未熟さを思い知らされた。
その一方で、先ほど激昂した爆豪は何とか持ち直したのか、普段の威勢よりは小さいが、次は殺すと名前に食ってかかる。その言葉に麗日も「悔しい!なんもできんかった!」と感情を顕にする。
オールマイトは3人と気圧された残りの18人を見ながら次行こう!と高らかに笑った。

上鳴はどこかほっとしながらも、まだ胸の中に名前に対するイメージを変えようと心に誓った。優しく悪戯っぽいが、狡猾で冷静で強い。次の順番は自分だ。甘かった自身を戒め、身を引き締めた。


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