あの速報が流れてきてから生活が変わって、周囲の目が変わって、浅ましい私が怖かったことが3つある。1つめはヒーローを目指せなくなること。小さな田舎でも掴みかけた夢。諦めたくなかった。2つめは報復に合うこと。ステインが殺したのは17名と報道されていた。もし、殺されたヒーローの家族が私の存在に気がついたら?お前なんか死んで当然と思われていたら?遺族の怒りや悲しみが加害者の家族に向かうことなんて、これまで沢山のニュースで見てきた。私は奴と家族ではない。ないけど、


血が。
血が。繋がっているんだ。
私の体の中には、人殺しの血が。


『君は君だろう』

あの時の飯田くんの声が聞こえた気がした。


あぁ、飯田くんに会いたいな
またあの凛とした厳しさで、優しさで、包んでくれないと。

私は脆い。ボロボロなのを無理やり継ぎ接ぎして、嘘をついて人前に出ている。それが、今にも崩れそうだ。その中心の奥深くにあるのは、きっと





閉じたまぶたの向こう側から、光が入ってくるのが分かった。コーヒーの匂い、消毒液と、あと、

「びょ、いんの……匂い」
「起きたか」

重たい瞼を開ければ、いつもより疲れた顔の相澤先生。それから私の頭のそばに手を伸ばすと、ナースコールで看護師を呼んだ。先生の顔にかかる光は自然のオレンジ色で、夕方なんだなと思った。口の中が乾燥しているのか、うまく開けない。それでも声を発すると、想像よりも情けない掠れた声だった。
まだ、覚醒しきってない脳は手をピクリとだけ動かしてくれたけど、それ以上何もできる気がしなかった。

「せんせ、」
「良い。起き上がるな。まだ寝てろ。直に警察が事情を聞きに来る」
「先生、わたし」
「二度同じこと言わせるなと、つい昨日も言った」
「あ………」

それから看護師さんたちが来て、脈とか色々みてから、警察の人が入ってきた。何か話してくるけど、入ってこない。何故か分からないけど、聞きたくない。嫌だ、嫌だ、嫌だ。怖い。怖いよ。

「せんせ、い」
「どうした」
「飯田くんに、会いたい。壊れ、ちゃう前に」


ふっ、とまた力が抜けて意識が遠のく。
相澤先生が呼ぶ声が聞こえる。情けない生徒でごめんなさい。ごめんなさい。

その向こう側で、懐かしい、あの子の声が聞こえる。それと、あの知らない男の呪うような声。
少しだけ乗り越えられたと思ってたのにな。あの子に、忘れるなと言われているようだった。



『あんただって、いつかステインみたいに、人を殺すのよ』

『お前はヒーローじゃない。こちら側だ』



あのね、先生。
私怖いことが3つあって、3つ目がね、
あの子の言う通りに、いつか人を殺してしまうんじゃないかって、怖いの。



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