「で、どーいう理由であんな態度とってたか…話してくれるよね?」
「は、はい……すみません……」

寮生活が始まるということで、ハイツアライアンスにみんなが集まった。相澤先生に出鼻を挫かれてしまったけれども。そして私は初っ端からクラスの数名に囲まれて威圧されている訳なんだけども。いつも快活な三奈が、優しいお茶子が、明るい透が怖い顔をしている。いや、透は顔見えないけどさ。少し離れたところで男子たちがこちらを見ながら座っているのもちらりと見えた。その間を割って、梅雨ちゃんが顔をのぞかせる。

「名前ちゃん。私たちが何を怒っているか分かるかしら?」
「……皆、心配してくれたのに、避けたから…」

恐る恐る答えると、横で三奈が大きく溜息を吐きながら首を横に振る。それに合わせるようにお茶子たちも首を動かした。

「少し違うわ。皆、悲しいし悔しいの。友達が苦しんでるのに、助けてとも何も言われなかったことが」
「……うん」
「私達はそんなに頼りないかしら?」
「違う!私の……」

私の、我儘だったから。
けど今何を言っても言い訳でしかなくて。
あぁ、何から言ったらいいのか分からないや。
その気持ちを察してくれたのか、梅雨ちゃんが優しく諭してくれた。

「ショッピングモールで何があって、名前ちゃんが何を考えたのかは名前ちゃんが言わないと分からないの。けど伝えてくれたら何か一緒に考える事ができるわ」
「梅雨ちゃん……」
「言い訳でも良いからウチらは名前の話が聞きたいよ」

眉を顰めながら言った三奈は、少しだけ涙を浮かべていた。私は馬鹿だ。こんなに怒ってくれる友達を自分から捨てるところだった。母に捨てられた、なんて悲しんでいたくせに、その自分が母と同じことを大切な友達にするなんて。

「ごめんなさい。ちゃんと、話す」
「うん。遅いよ、ばか」

透の服が少しだけ揺れている。震えているのかな、と思った。それが悲しみからなのか、怒りからなのか、分からないけれど。ばか、という言葉は何故かじんわりと心に染みていくようだった。

「ごめん……あの日、ショッピングモールで三奈と離れた後、死柄木弔に会った……その時は"ヴィラン連合"ってしか予測は出来なかったんだけど」
「うちらがデクくんのとこいた時かな…」 
「多分…私も緑谷くんのとこ行こうって思った時、首掴まれたから…皆からUSJの話聞いてたし、こいつがあの…って」

時折される質問にも答えながら、死柄木弔とのことを伝える。何で皆を避けたのか。三奈たちは真剣な顔をしながら聞いてくれた。特に、死柄木弔に差し出された居場所に嬉しさを覚えてしまったことを伝えるのは辛くて。どんな風に思われるだろう。軽蔑されてしまうかもしれない。信用が今以上になくなるかもしれない。もし、彼女達からヒーローにはなれないなんて、あの時の様に言われてしまったら、私はもう立ち上がることは出来ない気がする。彼女らが私の話で何を思うかは分からない。分からないけれど、伝える事を止めてしまってはだめた。私は時間をかけながら拙い言葉を紡いだ。頭の隅で飯田くんの言葉を思い出す。あの叱咤がなければ、きっとこんな風に素直にみんなに向かえなかった。

「……それで、病院のベッドで寝てる時…思い出した。私、ステインの報道されてから、友達が離れていく事とか遺族からの復讐とか色々怖かったけど……1番怖かったのは、私も人殺しになるんじゃないかなって」
「名前…」
「私の個性は、人の自由を簡単に奪える……それに、殺すことだって……それにもヴィラン連合は目をつけたのかなぁとか、考えて。もし、先生に勧誘されたなんて話したらA組にいられないんじゃないかなって怖くなった」
「あのね、」

これは受け売りなんだけど、と三奈が口を開く。それは奇しくも初めてヴィラン連合と接触する前のUSJで、13号先生が教えてくれたこと。

「人を救けるために、個性を使おうって言われた。私たちがなりたいのはヒーローだから、誰かを助けたり守ったりするために」
「だから、今度は、何ていうか、ちゃんとヒーローに目指そうよ!名前ちゃん!」
「っ、うん」
「それに…名前は人殺しなんてできるような子じゃないって、ウチラが一番知ってるよ。狡賢いけど優しいって」
「あり、がとう」
「よしっ、晩御飯たべよ!焼き肉だよー!切島のおごりー!」

ぱん!と三奈が手を叩く。それを皮切りに、皆が動き出した。私は零れかけた涙をぐいっと拭いながら立ち上がろうとする。すると上鳴くんが手を差し出した。驚きながらもありがたく手を取る。

「ん」
「ありがと……あの、上鳴くん…ごめん」
「ったくよー……ほんとだよな!俺めっちゃ心配したのによ!」
「うん。バスの時、嬉しかった。ありがとう」
「……次は、ちゃんと教えろよな」
「うん」
「心配くらいさせろ」
「うん」
「つーか、"くん"いらねーし。上鳴か電気」
「じゃあ、上鳴…?」
「………今度、何か、飯おごれよ」
「えー?……しょうがないなぁ」
「っし、約束な」

そう言って私の頭を軽く叩いた上鳴はいつもみたいに笑っていた。


ここから新しく始まる。変われる。弱い自分も認められる。そんな気がした。





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