一歩踏み出して、私は緑谷くんや飯田くん、轟くんというステインの動きを間近で見た3人に彼の動き方の特徴を聞いた。その時は特に飯田くんが驚いていた。彼は私がステインをどんなに憎んで妬んで羨んでいたか知っていたから。だからこそ、やってみないと励ましてくれた。優しい。彼のお兄さんを傷付けた技なのに、それを教えてくれようとしてくれる。
強いな、飯田くんは。私とは大違いだ。
その優しさを無駄にしないようにと、頑張らなければならないと思った。


「ヤツの動きは全部計算されていた。それは跳躍や業物の使い方だけじゃなくて。例えば、視線。」
「視線?」
「えっと、最初は注意を自分に惹きつける。その間に刃物を真上に投げて視線で誘導するんだ。ちらっと見上げれば反射的に見てしまうし……。その隙に間合いを詰めて血を摂取しようとしたり」
「そうなんだ……」


他にも暗器の数や特徴、タイミング等々……
聞けば聞くほど、人を殺すための恐ろしい技だ。これを私は模倣して、自分のものにしなければ、強くなれない。みんなを助けることができない。
前にも味わった悔しさや不安、情けなさみたいな色んな感情でぐるぐるになった。
けど、心操くんと喧嘩して(今思えば初対面で喧嘩するって中々凄いと思う)形振り構ってる時間なんて無いんだって知って。
何よりも自分がなりたい、ヒーローっていう夢を叶えたいから。


「ヤレルカ?」
「……はい、お願いします!」

エクトプラズム先生の言葉に、力強く頷く。本当は上手くやれるかわからない不安とか怖さとか沢山あるんだけど。やらなきゃ分からないだろうという励ましで、勇気を出してやってみるのだ。
そう、ステインの模倣を。
勿論誰かを殺そうとかそういう使い方じゃなくて、誰かを守るために。そんな使い方をしていきたい。



「…大丈夫か、名前くん」
「ん、がんばる。ありがと飯田くん……緑谷くんも、轟くんも」
「いや全然……他にも手伝えることあったら教えてね」
「無理すんなよ」
「ふふ、ありがとう」


そんなやりとりを思い出しながら、エクトプラズム先生に向き直る。
相手を惹きつけて、誘導して、自分のペースに。
良く考えれば、狡い私の戦い方そのものだ。それを一段階も二段階も越えていく。

大丈夫、ひとりじゃない。

ゆっくりと深呼吸をして、踏み出した。






ちょ、ちょ、まじか。

TDLでA組各々が必殺技を編み出す中、俺もサポート科に依頼して色々進化したと思ってたんだけど。

「うわ……えげつな」

いつかの訓練の時にも漏れた言葉がまた零れた。その相手は同じ人物で、けどあの時とはまた違う動きだった。

「上鳴ー?なにボーっとしてんの?」
「おい耳郎。ヤベェ」
「は?」
「名前の動き……何か…ステインに似てね?」
「何言って……う、わ」

息を呑んだ耳郎と俺の瞳には同じ光景が広がっている。エクトプラズム先生を翻弄する、名前がそこにはいた。

何だろうか、この動きは。

滑らかに、それでいて計算された動きだった。

例えば。名前は体中に仕込んだナイフや針をただ投げるだけじゃなく、わざと外して意識を反らせ、その隙に別のナイフで接近。対峙した途端に、最初に投げたナイフに絡ませた糸を手繰り寄せ、ブーメランのように背後から襲い掛かってくる。
そちらに意識を持って行くと、正面の名前への意識が疎かになり………。それの繰り返しだ。
避けた攻撃が後々から再び返ってくる。倒したと思ったら演技。相手のペースに持っていかない。それは名前の、敵はこういう風に動くだろうという分析と、決断力、余念のない準備からできるもので。
相変わらず、えげつねぇ戦い方してんな。

思わず零れた笑いに、隣の耳郎も笑う。このところ、元気がなかったかと思ってたのに、何だよ。めちゃめちゃ成長してんじゃん。
その動きがステインに似てるってことが少し気になったけど、それはまぁ、名前自身が乗り越えたんだろうと思う。
もう少しで仮免試験、本番。最後の最後にピッチを上げてきた彼女に負けてらんねぇと気を引き締めた。




        main   

ALICE+