「なんつーか、悪いな……流石に……」
「有り得ない…っ!!」
「これ取れたら殺してやる…峰田もテメーもだクソ女ァ!」
「私被害者なんだけど?!」
これ以上ないほど殺気立った爆豪と私を見て、冷や汗を浮かべる峰田くん。そそくさと「時間経てば離れるからよ」と呟くと、脱兎の如く去っていった。寮のロビーに残された私達は怒りと絶望を感じながら、どうしてこうなったと思い返す。
確か、始まりは10分くらい前。男子たちの笑い声がロビーに響いていた。ちょうど忘れ物を取りに下に降りていた私は、興味を抑えきれず話を聞くと峰田のもぎもぎを誤ってソファーに着けてしまったのだという。何故か、無意識にもいで、ソファーにくっつけてしまったのだと。何でだ。もうそこに座れないねなんて話していると、そこに何も知らない爆豪が通りかかる。その時、魔が差した峰田がとんっと彼を押したのだ。もしかしたらあの爆豪が間抜けにももぎもぎにくっつかもしれないと。しかし、思惑も外れ、爆豪は峰田の何てこと無い悪戯を避けたのだが……
避けた先には私がいて、ゴツン!と肩同士がぶつかる音が今度はロビーに響いた。
「へっ?!」
間抜けにも、私の手首と爆豪の肩がもぎもぎに触れ。2人で向かい合わせになるようにソファーとくっついてしまったのだ。その距離、僅かに10cmほど。息がかかるなんてもんじゃない。視界いっぱい爆豪勝己だ。むしろ焦点が合わない。何の罰ゲームだ、これは。
そして冒頭に戻る。
他の男子も帰ってしまうし(ブチギレた爆豪を前にしたら、当たり前だと思うけど)、峰田くんも消灯の放送が聞こえるとさっきの説明通り、逃げやがった。この日は相澤先生もおらず、マシンが見張っている日で。状況を話すと、暫くしてから『相澤からは戻るまでそこにいるしかないだろ』と言われたと無慈悲な機械音が流れる。助けてくれてもいいんじゃないか。他の人ならまだしも、爆豪勝己だ。THE ENDだ。
寝ようにも寝返りすら打てない体勢で、今夜は一晩起きていることが確定した。変に寝て、爆豪の機嫌をこれ以上損ねるのもイヤだ。踏んだり蹴ったり。私なにか悪いことしたかな、今日。
「にしたって……近い」
「うるせぇ……あ゛?」
「どしたの?」
「お前……服にくっついてんじゃねーか」
「っあ!これ脱げればどうにか…!!」
パニックになっていたせいで気が付かなかったが、この忌まわしいもぎもぎはパジャマに付いていたようだった。幸運だ。このままどうにかパジャマを脱げれば、脱出できるかも…!そしてさらなる幸運なことに、このパジャマは前開きのボタン付きだ。パジャマを犠牲にするのは忍びないが、この悪夢とおさらば出来るならなんてことない。
「ふっふっふっ……ごめんね爆豪……私は、部屋に戻ります」
「うるせェ」
「っん……しょっ」
片手でボタンを外していく。爆豪の目の前で、上半身がブラ1枚になってしまったが、もうどうでもいい。羞恥心よりも何よりも、私はこの地獄から逃げ出したい。ふと爆豪の視線が注がれているのが分かった。そりゃあ、目の前におっぱいがあったら見るか。けど、
「そんなに見ないでよ」
「ハッ!さして大きくもねぇのに調子に乗んなよブス」
「うるさいな!」
確かに、麗日や百に比べたら小さいけど!
失礼なことを言い放つ爆豪にむかつきつつも、どうにかくっついていない片腕だけ抜け出すことができた。奇跡。体勢的に爆豪に胸を見せつけるみたいな感じになってしまったが、仕方ない。
「あとはっ……!」
服にくっついてしまったもぎもぎに触れないよう、慎重にパジャマから腕を引き抜く。
しかし、ここでこの最悪な男が余計なことをまた言い放ったのだ。
「乳首見えてんぞブス」
「なっ!ばか!って、あ!!」
少しずつズレていったブラに気が付かないふりをしていたのに、まさか爆豪がそんな事を言うとは思わず。焦った私の手首は、不幸にも、もぎもぎに触れてしまったのだ。泣きたい。あともう少しだったのに!!
「爆豪のばか!これじゃあ私ただあんたに見せつけて脱いだだけじゃん!痴女か!」
「知らねーわブス!!」
「ブスブスうっさい!あーもう!彼氏でもない奴に…見られるし泣きたい」
「んなこと言いながらちょっと立ててんじゃねーよ、変なもの見せんな気色悪ィ」
「寒いんだから仕方ないでしょ!生理現象!」
「どーだかな。そういう趣味かもしれねーし」
ケラケラと馬鹿にした顔で笑ってくる爆豪に怒りのみが湧き上がる。なんだこいつ。本当にヒーロー志望か。
どうにかできないかと試行錯誤を繰り返すも手首についたもぎもぎは決して外れず。今度こそ私の運も尽きた。はぁ、とため息を吐くと鼻がムズムズする。寒い。
「っくしゅ!」
「おいふざけんな」
「くしゃみしただけじゃ…っくしゅ!あー、もう……寒いっ」
夏とはいえ広いロビーは先程まで冷房が効いていた。そこで上半身がほぼ裸なら、くしゃみだって出るに決まってる。というかタンクトップに半ズボンの爆豪は寒さを感じないのだろうか。疑問をそのまま口に出せば、ハッとあのバカにしたような笑い方をされる。
「俺ァ新陳代謝いいんだよ」
「あぁ……汗かいたほうが強いもんね……じゃあさ、」
「あ゛?」
えいっと思いっきり爆豪にくっつく。もぎもぎが手首以外のところに触れないように気をつけながら、爆豪の胸元に飛び込んだ。瞬間、ふざけんなと吼える爆豪だったが、肌同士が触れた部分は火傷するくらい熱かった。
「おいクソ女。何してやがる」
「寒い時は人肌が一番っていうじゃん」
「何が楽しくて貧相な体押し付けられなきゃいけねーんだよ」
「これが外れたらまた線香花火にしてやる」
「してみろや」
そう言いつつも私以上に動けない爆豪はされるがままだった。悪戯心に火がついて、時折少し厭らしく身動ぎしてみせると露骨に眉をしかめる爆豪。ふふ、ざまぁみろ。これでもミッドナイト先生に最近誘導とか誘惑が上手くなったと褒められたのだ。
…なんか、私ほんとに痴女みたい。やめよう。しかし悔しそうな爆豪は面白かったな。緑谷くんに後で話してやろう。
「ん、?」
したり顔を浮かべていると、太腿あたりに何かが当たる。触れた胸元とは違う、尋常じゃないその熱さにまさかと恐る恐る見上げると下卑た笑みを浮かべる爆豪がいた。まずい。嫌な予感しかしない。
「どーしてくれんだ、あ゛ぁ?」
「や、知らないよそんなの」
「どーにかしろや」
「どーにもできないってば!」
「出来んだろ、手でもそのうるせぇ口でも使えばよ」
「馬鹿か!!や、ばか、押し付けないでよ変態!」
おら、と脅す爆豪に必死に抵抗しながら腰を引く。それでも敢え無く熱を私の太腿の奥へとあてがわれてしまった。そこは私だってびく、と反応してしまう場所で。変な声が漏れる。息が荒くなった気がした。
「や、だ……まって、嘘だよね…?」
「誘ったのはテメーだろ」
ほんの数分前の軽率な自分の行動を後悔しながら、打開策を考える。ぐるぐると回る頭と目の奥に、考えなんかまとまる訳がなかった。
おもむろに爆豪の空いた手が私のまっさらなお腹を撫でる。そのままするりとブラに手を回され、プチンと音が鳴った。解放感と共に冷気が胸に広がる。
「ふ、あっ…うそ、ゃあっ」
「覚悟きめろや」
さっきも視界いっぱいだった爆豪。その距離はゼロになって、あぁ、この先は聞かないでほしい。
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