この日教師陣の会議のため、ヒーロー科も珍しく一斉下校となり。時間を持て余したA組生徒たちは、あるゲームをしようと盛り上がっていた。
「王様ゲーム?」
「そう!男子も女子も全員参加な!」
「うむ!クラスの親睦を深めるのに良いと聞いた!皆も参加しよう!」
「わぁ、飯田くん言い包められたね」
きょとんと疑問符を浮かべる皆に発案者の峰田と飯田が声をかける。きっと飯田はどんなゲームかを良く知らないまま、峰田にうまいこと納得させられたのだろうとクラス全員が想像した。
しかし、確かに暇だということと非日常的な体験ができるかもしれないという興味で、意外にも全員がこのゲームに加わることになる。
「オメーが参加するの意外だな爆豪」
「王になれば言いなりに出来んだろ?なぁ、デク」
「か、かっちゃん?!名指しは出来ないからね…?!」
「知ってるわクソナード!だから俺が王になったら自ら申告しろ」
「しないよ?!」
「それはゲーム性ゼロやね……名前ちゃんはしたことある?」
「ううん…けど、楽しそうだね」
どんな命令を出そうかと名前が悪知恵を働かせているところに、そうそうと峰田が釘を指す。
「因みに名前はくじ引き一番最後で固定な」
「え?!」
「なんつーか…念のため?割り箸の木目とか覚えて不正しそうだし?」
「確かにな」
「そんなに疑われてるとは思わなかった!」
主催者側は名前の不正を危惧し、そんな独自ルールを用意していた。仲間から信用されていないという事実に心を痛めながらも、自身のこれまでを振り返り仕方ない気もすると肩を落とした。
「つっーわけで、早速1回目な!王様だーれだ!」
「ッシャア!!俺だー!」
「切島かよ〜」
「何でガッカリしてんだよ」
「まぁまぁ。で、切島くんの命令は?」
トップバッターに選ばれた切島は口元に手を添えながら、しばしの間考える。待っている間のそわそわすることと言ったら。皆がドキドキと切島の答えを待つ。本人は未だうぅんと唸り、少ししてからパッと顔を上げると声高に叫んだ。
「15番と17番が腕立て50回!」
「まじかー!私だー!」
「俺かよ!」
「初っ端からクソ命令かよ!」
彼らしい脳筋の命令に当てられてしまった葉隠と砂藤。嫌がりつつも普段鍛えられているヒーロー科の2人は難無く命令をクリアした。切島の命令に色気が無いと一部男子からブーイングが飛ぶが、最初はこんなものだろうと落ち着いた。
そしてすぐに、2回目が始まる。王と書かれた割り箸を引き抜いたのは轟焦凍だった。
「俺か……そうだな……じゃあ、2番が8番の事を5個褒める」
「び、微妙に恥ずかしいやつ」
「あら、2番は私だわ」
「……8番は俺だ」
「障子ちゃんね。そうね…まずは偵察力がずば抜けているわ」
「あ、ありがとう」
「それから、冷静な判断力ね。あとは優しくて相手を一番に考える所も。それに機動力にも優れているわ。騎馬戦の時にはお世話になったもの。5個目は落ち着きのあるところかしら」
「なんか……照れるな、普通に」
「ふふ。私もなんだか恥ずかしいわ」
ケロケロと微笑む梅雨に少しだけ顔を赤らめる障子。何とも言えないほんわかとした空気が流れていった。
しかし、そんな甘っちょろい命令に性欲の権化は満足するはずもなく。次に行くぞと声を掛け、空気を払拭していった。
「王様だーれだ」
「俺だ。デク、何番だ教えろや」
「ル、ルール無視しちゃダメだよかっちゃん」
「そうだぞ爆豪くん!番号で指定し給え!」
「チッ、……7番、退場」
「………飯田、オイラと交換してくれ」
「むっ、峰田くんが7番か」
「はい峰田退場か。お疲れ様っしたー」
「お疲れ様でーす」
「あとは俺らに任せろー」
「いやいやいやいや嘘だろ?!主催者いなくなるなんて聞いたことねーだろ?!」
ぎゃあぎゃあと峰田がゴネた甲斐もあり、3回だけ強制不参加という形で落ち着く。それでも女子と触れ合える貴重な回数を失った事実は峰田を絶望の淵へと追いやっていった。
「次の王様は〜?」
「はいはい!わたしわたし!えっとねぇ〜、3番が14番に膝枕してあげる!30秒ね!」
「三奈ちゃん攻めるね!」
「でっしょー?で、誰だ!」
「3番、俺だ」
「…私14番です」
ここにきて、色気のある展開になってきた!と周囲はざわつく。それも轟焦凍と赤黒名前という、好カード。どちらの反応も気になるところだが、きっと名前は照れたり焦る姿を見せないだろう。普段もからかったり翻弄したりと飄々とした部分がある………誰もがそう思っていた。
轟が名前の近くの空いた席へと移動する。それからぽんぽんと自身の膝を叩いて合図をした。すぐに名前は横になるかと思えば、顔を隠すように手で覆うと情けない声で呟いた。
「…や、まって、意外と照れる」
「いやいやいやいや!いつももっと誘惑とかしてくるだろお前!」
「電気、うるさい。違う、なんか、照れる」
「片言かよ」
「照れてる名前珍しいね!ってことで早く!」
「あー……失礼、します」
そろりと轟の太腿に頭を乗せる。想像よりも固く、温かいそれに名前は思春期らしく胸が跳ねるのを感じていた。一方轟も普段触れるはずのない部分に女子が触れている。最初こそなんとも思っていなかったが、顔を真っ赤にする名前を見たらこちらまで伝染するようだった。
顔が、あつい。
「…顔赤いけど」
「うるさい。轟くんだって真っ赤。燃えてるよ、右側で冷やしたら?」
「…うるせェ」
小さな声で照れ隠しをしながら、何とも言えない時間は過ぎていった。
「じゃあ次ね!王様だーれだ!」
「私ですわ……そうですわね……12番の方が5番の方の肩を揉んで労うというのはいかがでしょうか」
「平和だわ」
「12番は僕です」
「5番俺だ。よろしく緑谷」
「尾白くん。下手くそだと思うけど、ごめんね」
「いやいーよ」
「……なんつーか…」
「男同士が肩揉みしてるだけって、色気ねぇな」
「だよな……あ、ジュース切れた」
「次の奴が買いに行くか」
尾白と緑谷という平和的な二人の交流は刺激を求める瀬呂と上鳴によって早くも止められてしまう。しかし緑谷たち自身も流れる微妙な空気に押し潰されそうだった為、内心胸をなでおろすのだった。
加えて、大人数が参加していることもあり、用意されていた飲み物や菓子類が底をつくのも早かった。そのため、次の王様は命令無しの番号を決めるのみという特別ルールが設けられる。
「王様だーれだ!」
「ぼ、僕だ……えーっと…」
「はよ決めろやカス」
「ご、ごめん!じ、じゃあ6番と7番が買い物お願いシマス!」
「おいクソナード……テメェ!!」
「えっ、あっ、かっちゃん!?!」
「ぎゃはは!!ナイス緑谷ー!」
「行ってこい爆発さん太郎!」
「ぶっ殺す!!」
予想だに無い展開に焦る緑谷だったが、周囲が宥め笑いに変えてくれた為、爆豪も怒りながらも買い物に行くことになる。そして。
「外、意外と暖かいね」
「クソナードが……」
「あはは、まだ言ってる。けど次から峰田くん復活だったからラッキーじゃない?」
「テメーとこうなったのが最早アンラッキーだわ」
「ふふ、次の訓練覚えててね。ぶっとばしてやる」
「ハッ、してみろや」
そんな物騒な会話をしながら、暗くなった外を爆豪と並ぶ名前。すぐ傍のコンビニとはいえ、名前は内心、男子と二人で歩くことに少しだけ気恥ずかしさを覚えていたところだった。それもこれも、先ほどの轟との一幕のせいで今まで何とも思っていなかったクラスメイトが、いきなり男子と意識されてしまうのだ。自分はそういった色恋沙汰を傍から見ているタイプだと思っていた手前、耐性がないのだ。加えて、皆の前であんなに感情を顕にしてしまったのも恥ずかしい。上鳴にも言われたが、あれだけ誘導や誘惑を手管にしておいて、実際そういうことになると途端に羞恥が上回ってしまう。仮免試験までにどうにかしなければ。そんなことより、今は早くこの命令を終えて、皆のところに戻りたい。
「オイ」
「ん?」
「……轟のこと、好きなのかよ」
「え、いや…なんで?」
「いいから答えろブス」
「人に質問する態度じゃないね?!」
「うるせェ」
突然の質問と罵倒に、緑谷くんは小さい頃からよく耐えたなと心の中で労う。それから質問の意図がよく分からないけど、と付け足してから答えた。
「はぁー…恋愛対象とかは、分かんない。そんな余裕ないのもあるし」
「なら、いい。行くぞブス」
「はぁ?!」
なんだ、それ。
何がいいのかさっぱりわからない。けど、爆豪の頬が赤いのはきっと寒さではなくて。見てるだけで私までなんだか赤くなりそうだから、今は気づかないふりをしていてあげる。
買い出しに行った二人が甘酸っぱい空気に包まれてるとは残された周囲は露知らず。淡々と時間は過ぎていき。騒がしいロビーの様子を見に来た相澤によって会はお開きとなってしまった。いかがわしい命令を下そうとする者たちもいたが、そこは委員長によって阻まれてしまう。何よりも殆ど参加できなかった、性欲の権化による再戦が誓われ、第一回王様ゲーム大会は幕を閉じたのであった。
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