デレデレ主人公14 2/2
あれから海軍に保護された俺とルッチは、島へ引き返した。そうして搬送先の病院で待っていたクザンさんからルッチの正体を聞いた。
世界政府直属の諜報機関の1つ秘密機関"CP9"に所属する殺し屋。
CP9史上最も強く冷酷で、ついた異名は"殺戮兵器"。
ゾオン系の悪魔の実、ネコネコの実・モデル"レオパルド"を食べた豹人間。
何それ……設定盛りすぎだろ。俺はもう笑うしかなかった。いや実際は笑えなかった。
はじめて出会った時も、政府の命令で何か仕事をしていたらしい。
「てっきり快楽殺人犯か何かだと思ってました……」
「あー……まァ、ロブ・ルッチは血を好む。あいつは13歳の時、人質である500人の兵士を皆殺しにした男だ」
「ええ……」
大して騒がない俺を見てクザンさんは、ナマエは案外冷静だなと言ってきた。
いいや、俺は十分ドン引きしている。
ただ単に、殺戮兵器だの13歳の少年が500人皆殺しだの言われても現実味が無さ過ぎて頭に入ってこないだけだ。
とりあえずルッチの背中の傷はその時できたらしい。やっぱり階段で転んだなんて嘘だったんだな。
「……なァ、ナマエ」
お前はこれからどうするんだ?とクザンさんが言った。
「結果を受け止めようかなと」
「結果?」
「目覚めるまでそばにいて、目覚めた後はルッチの好きにしてもらおうと思います」
「……それはつまり殺されても良いってことか?」
俺は頷いた。
「馬鹿言ってんじゃねェ!」
クザンさんは大声で怒鳴ると、真剣な表情で俺を見た。
「五か月!五か月だぞ!お前はそんな長期間、デレデレの実の効果が続いたって本気で思ってんのか?」
俺は何も答えられなかった。
「デレデレの実の最長記録はお前よりずっと能力を使いこなしていた奴が叩きだした記録だ。
……たかが一般人のお前があの技をかけたところで、どんなにロブ・ルッチの負の感情が強くてももうとっくに効果は切れてるはずなんだよ」
これは俺の予想だがな、とクザンさんは前置きした。
「……あいつは効果が切れた後も、自分の意志でお前と一緒にいたんじゃねェのか」
ただの気まぐれか……まァそんなことは俺には分からねェ。
けどお前も薄々気づいてたんだろ?
「何ならお前ら、ちょっくらこの件について話し合ってみたらどうだ。もし危なくなったら俺が助けてやる」
こいつを受け入れるか拒むかはその後決めれば良いじゃないの。
クザンさんはそう言って俺の肩を叩いた。
でも俺の心はもう決まっていた。
あれからどれくらい経っただろう。この病院に来るのももう慣れた。
受付に挨拶をして面会プレートをもらい、ルッチが眠る病室にそっと入る。
医師が言うには、今日か明日にはもう目を覚ますそうだ。
あれだけのダメージを負ったにもかかわらずルッチの回復力は驚異的らしい。ゾオン系の恩恵だろうか。
静かに扉をしめ、寄りかかる。
ロブ・ルッチは強い。
でも多分CP9とかいう地位とルッチの強さは、守るものが無いから成り立っている。
すべてを捨てられる者だけが得られる地位や力だ。
人質である500人の兵士を皆殺しにして、それが許され評価される世界に身を置く人間なのだ。
船で海楼石の破片を浴びた時、ルッチなら避けられたはずだ。
でもこいつは避けなかった。
ルッチが避けたら、後ろにいる俺に当たるから、こいつは動かなかった。動けなかったんだ。
俺はルッチの未来の邪魔になる。
扉から離れると、俺は静かにルッチに近寄ってその寝顔を見つめた。
こうしてじっくり顔を眺めるのは何時ぶりだろうか。
眠っているせいか眉間にしわのないルッチはいつもより穏やかに見えた。
柔らかい日差しがルッチを包む中、俺は昔読んだ絵本の事をずっと考えていた。
童話では真実の愛のキスをすると姫が目覚めるらしい。
それは一種の馬鹿らしい賭けだった。
俺は未だ目を覚まさない男の唇に、己の唇をそっと重ねた。
……だが、やはり男の目が開くことはなかった。
それはきっとこの関係が真実ではないからだ。
結局、俺は最後までこいつの王子様になれなかった。
俺は窓辺に花を添えた。それはこの関係への弔いの花であった。
病室から出るとクザンさんが廊下の椅子に座っていた。男は俺が出てきたのを見てゆっくり立ち上がる。
「行くのか」
「はい」
「……本当に良いんだな?」
「はい。お願いします」
「わかった。お前がそう言うなら俺は止めねェ」
クザンさんはそう言うと歩き出した。
俺もその後を追う。後ろを振り返ることはもう無かった。
◇◇◇
「せっかく目覚めたのに、タイミング悪かったですね」
彼、さっきまで居たんですよと看護師が呟いた。
ルッチは窓際に飾られた一輪の花を眺めていた。
それはあの日、自分が踏み躙った花によく似ていた。
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